第29話 明日

「ゆーくん、いきなり大きい声出してどうしたの?」


月城は至って冷静に慌てる俺を見つめた。


しかし、馬鹿言え。


普通に考えて、この状況で声を出さずにいられるわけが無いだろう。


「月城、おま、いきなり、何を!?」


俺が思わずそう言うと月城は俺の方に身を寄せた。


そのお陰か妙に温もりを感じてしまう。


やはり、今日俺は寝ることが出来ないようだ。目が冴えに冴えまくってしまっている。


月城は驚いている俺を他所に、優しく笑いかけ口を開く。


「もー! ゆーくんってば、そんなに照れないでよっ♡」


月城はそう言っている、しかし、俺は照れてはいない。


電気がついていれば話は変わっただろうが、幸いなことに今この部屋に電気などついていない。暗闇状態だ。


「いや、驚いただけで照れた訳じゃない、からな」


「え、嫌、だったの?」


俺がそう言うと月城は間髪入れずに問いかける。


嫌だなんて一言も言っていないはずだが月城は不安げにたずねてきている。


態度にでも出てしまっていたのか?


しかし、無論。俺は嫌だなんて言わない、いや、言えるはずがない。


「……い、嫌と言う訳でもないが、なぜ今なんだ」


俺はさりげなく月城の行動の意図を探る。


月城の事だし気分とでも言うのだろうか。


まあ、正直、今ですら吐息がかかっているので早めに切り上げたいところではあるが。


そんなことを考えていると、そうそうに月城が口を開いた。


「えー? だって無防備だったんだもん」


予想は八割当たりと言っていいだろう。


これからは常に気を張っていかなければ。なんて思わせてくれる発言だ。


「それに、ゆーくんがそっち向いてなければ、ホントは口にしたかったんだけどね」


月城の方を向いていなくて本当に良かった、と心の底から、そう思った。


それに堂々とそんなことを公言できる月城は、やはり凄いやつだ。


俺たちはカップルでもないし、そんなことは無いするはずも無いのだが。


「それは残念だったな。……というか、よしてくれ。第一俺たちはカップルじゃないんだ」


俺がそう言うと月城は妙な笑みを浮かべて話し始めた。


「ふふ、さっきは、ゆーくんがかっこよかったから他の女に取られないようについ。でももう大丈夫だよ」


月城はそう言って俺の耳元に顔を近付け、耳打ちする。


「して欲しくなったらいつでも言ってね。ゆーくんが満足するまでしてあげるよっ♡」


月城はそう言っているが、一体何が大丈夫なのだろう。


しかし、発言からして俺から言い出さなければされることも無いということだろうか。


ま、いずれにせよ俺はもう寝るだけだ。


「それは有難いが、俺はもう寝る」


「おやすみ、ゆーくん。私はゆーくんと添い寝出来て、今日も幸せだよっ♡ 明日も楽しみだね♪」


明日も楽しみ、か。ある意味そうかもしれないな。


「そう……だな」


俺は明日に期待し、苦笑して呟いた。

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