第28話 脅し

つくづく訳の分からない奴だ。


「いいわけないだろ。……というかもう、俺は寝るぞ?」


俺は疲れているので、どうにか月城と寝るのだけは勘弁して欲しい。しかし、月城は変わらずに追い込んでくる。


「え? なんで? やっぱり私のこと嫌いになったの?」


一体何回この台詞を聞いてきただろうか。この質問を投げかけられた俺が出す答えなど決まっている。


「だから、嫌いなわけ……」


俺がそう言うと、月城は以外にもため息をついて話し始めた。


俺は思わず月城を刺激するようなことをしたか? と振り返ってみるが心当たりはない。


「はあ。ダメだなあ。ゆーくんは」


全く光のともっていない目を向けてため息混じりに月城は続けた。


「他が完璧なあまり、悪い所が目立っちゃってるよ」


「悪い、ところ?」


俺は思わず聞き返す。やはり、月城を刺激してしまったのか? と、俺は怖くなり固唾を飲む。


そして、緊迫した雰囲気が漂っている部屋の中、光が消えた目の月城は再び口を開いた。


「そう、悪いところ」


「ど、どこか悪いところがあったか?」


恐る恐る俺は月城に尋ねる。


今後の言動次第で、再びあのおぞましいお仕置き部屋へ放り込まれかねないからだ。


なんとも言えない雰囲気の漂う部屋、月城はため息ひとつつき話し始めた。


「極少数と言っても過言じゃないゆーくんの悪いところはさ……頑固なところだよ? 抵抗しても無駄なのに、必死になっちゃってさ」


抵抗しても無駄……確かに今まで俺が抵抗してきた中で月城に勝ち星を上げたことはなかったような気がしなくもない。


しかし、いくら月城といっても今回ばかりは譲れない。


「頑固なところ? それに抵抗しても無駄? ……お前は何を言って──」


俺がそう言うと、月城はモゾモゾと携帯を取りだし自分のSNSアカウント画面をみせつける。


「あーあ。ゆーくんのこと、『私の彼氏』って写真付きでツイートしちゃおっかなー?」


「ちょ、月城──」


俺がそう言うと、月城は再び携帯をいじりだし、一枚の写真を俺に見せつける。


「学校には例の写真ばらまいちゃおっかなー?」


冗談とは到底思えないような顔つきで見せつける月城。


恐らく俺がここで断りでもしたら本当にやってのけるだろう。


自分が虚しくなってくるが仕方ない、月城にはむかうなんてデメリットしかないことなのだ。


「分かった。今行く、今行くから」


俺がそう言うと、月城の目には再び光がともり、嬉しそうに布団をバフバフさせた。


「ほーらね?♡ 分かってくれればそれでいいんだよ!♡ ゆーくんっ♡」


「ほらおいでっ!」


最悪だ、無論今日の夜は一睡も出来ないことだろう。


なってしまえば、もうどうでもいい。仕方ないのだ、仕方ないことなのだ。


俺は自分に言い聞かせ月城のベッドへ向かっていった。



♢ ♢ ♢



「こ、これでいいな?」


俺はベッドの端の方に寝転がり、月城とは極力目を合わせないよう意識する。


「うん! 素直なゆーくん可愛い♡ ……ま、いつものゆーくんもかっこよくて好きだけどねっ♡」


そう思ってくれるのなら、寝る時くらい俺の好きにさせてくれ。なんて思いつつ心に留めておく。


「……それじゃ電気、消すぞ」


「うん!♡」


若干、恐怖心を抱きつつも電気に手をかけ、スイッチを動かす。


今日は最初から最後まで散々だったな。寝れなくとも目は瞑るだけ瞑っておこう。


俺はそっと目を閉じた。



……がなにやら隣からガサゴソと聞こえてくる。



そしてその音は大きくなっていき、次第に俺の首元に艶っぽい吐息がかかった。



「っ?! 月城?!」


俺は思わず目を開け、大声を出してしまう。しかし、俺も無理はない。




あろうことか月城は俺の首元にキスをしてきたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る