第22話 服

「聞いて欲しいこと?」


俺は恐る恐る月城へ尋ねる。まさか俺が芽衣と話をしていた事がバレたのか? 


お仕置きだね、なんて言われて俺はお仕置き部屋と連行されてしまうのか?


なんて考えていると、以外にも月城は明るい声色で話し始めた。


「そう! ゆーくんって服持ってないじゃん?」


誤解を招くような言い方をするんじゃない。別に持っていない訳では無い、決して多いとは言えないが。


と思うと同時に芽衣の件について月城にバレてないことに少し安堵し、返事をする。


「いや、持ってはいるが」


俺がそういうと月城は表情を変えずに話し続けた。


「だよね! そんな服を持っていないゆーくんにー、服あげたいんだよね!」


……服を持っていないなんて一言も言っていない。一体、月城はどんな耳をしてるんだ。しかし、月城は俺に服をくれるらしい。


「服……くれるのか?」


俺が返事をすると、月城はソフトクリームを口に運びつつ、答えた。


「うん! 私がゆーくんに買ってあげるの!」


満面の笑みでそう言う月城、だが、俺が月城に買ってもらうということなのか? ということなら流石に……。


「そんな、流石に申し訳ない」


俺がそう言うと、月城はため息混じりに答えた。


「えー? 私、ゆーくんの為に使うお金だったら、それが本望だよ?」


もし、俺がここで断ってしまっては月城の機嫌を損ねてしまうことになるだろう。


かといって、本当に俺が買って貰っていいのか?


「本当にいいのか?」


俺がそう聞くと月城の表情は次第に明るくなった。


「うんいい!! よし! そうと決まったら、早速行こ!」


月城はそう言って、残りのソフトクリームを全て口に放り込んでベンチから立ち上がった。


「いや、月城の服は買わないのか?」


俺が聞くと月城はきょとんとした表情をした。


「ん? 私? ゆーくんと同じ服買うんだよ?」


俺と同じ服? ペアルックということか? 


いやいや、俺たちはカップルではない、それに月城、大人気アイドルと俺なんかがペアルックなんてしてしまったら大問題だ。


「ペアルックってことか?」


俺が恐る恐る聞くと、月城は、そんなこと至極当然だよ、なんて言うように続けた。


「うんそう! ペアルック!」


俺が平然とペアルックなんて言う月城に驚いていると月城は強引に俺の手を掴んだ。


「ほら、ゆーくんも立って!」


そう言う月城に言われるがまま、落ちそうになったソフトクリームを急いで平らげ洋服屋へ向かうことにした。



♢ ♢ ♢



「おー! 服がいっぱい揃ってるね!」


そう言って月城は目をキラキラと輝かせていた。確かにこにには色々な種類の服が揃っている。


これなら地味なペアルックを選んでやり過ごすことも出来るな。


「そうだな……と、ペアルックとなればあっちじゃないか?」


俺はそう言って月城をペアルックがありそうな場所へ誘導した。






「どうだ? 月城、これなんかいいんじゃないか?」


俺は不意に見つけた地味なペアルックを月城に突き出す。


派手派手なペアルックは無駄に注目を集めることになる。月城が有名人ないじょう、そんなことは避けないものだ。


すると、月城はあからさまに嫌な顔をした。


「んー。なんか地味」


月城はそう言って辺りを見渡すと、何かを見つけたように表情が明るくなった。


「あ! これいいじゃん!」


そう言って月城はハートマークがゴリゴリに描かれた服を指さした。

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