第21話 後

あれから月城が帰ってきて何事も無かったように水族館の見て回ったのだが、その内容は? と聞かれればほとんど何も覚えてない。


しかし、月城には芽衣と会ったことを悟られない為、なんとか取り繕ってやり過ごしていた。


「あーあ。もうこの水槽でおしまいだね」


最後のひと水槽を覗き込み月城は呟く。


初めの方はまだ楽しかったのだが途中からは、別の事に気を取られすぎて楽しめていなかった。


芽衣のあの行動は何だったのだろう。


……まあ提案したのは月城だ。一番に月城が楽しんでいてくれたならそれでいいのだが。


「そうだな。……水族館、楽しかったか?」


俺が呟くと月城の表情が明るくなった。水槽の中の魚も元気そうに泳いでいる。


「うん! 勿論。ゆーくんと一緒ならどこでも楽しいよ!」


月城はそう言うと、魚を見ていたはずの目線をこちらに向ける。


「……って、勿論ゆーくんも楽しかったよね?」


鷹の目のような鋭い目付き。


……勿論この質問の答えは月城が聞くまでもなく決まっている。


「あ、ああ。勿論楽しかったとも」


俺がたどたどしく、そう答えるとつい先程までいたはずの魚たちが一斉にいなくなっていた。


やはり、月城のパワーは魚にまで行き届いていたということなのか。


すると、月城は満面の笑みで俺に笑いかけた。


「んん? 私と一緒にいると楽しい? え! ゆーくんありがとー!」


月城と一緒にいると楽しい。そんなこと一言も言って居ないはずなのだが月城にはそう聞こえたらしい。


しかし、恐らくここでの訂正は百害あって一利なし、細かいことは気にしない方針で行こう。



♢ ♢ ♢



すっかり水族館から出てきた俺たちはブラブラと歩き始めていた。


「ふー! 終わっちゃったー。なんかあっという間だったねー」


月城は歩きながら俺に話しかける。


……俺は途中から気が気でなく、妙に時間の流れが遅く感じたような気もするが取り敢えず月城に話を合わせておこう。


「ま、水族館自体はかなり大きい筈なんだが、なんかあっという間だった気がするな」


俺がそう言うと月城はどこか遠くの方を指さした。


「……あっ! あそこのソフトクリーム美味しそう! ゆーくんも食べに行こ!」


月城にそう言われ見てみればソフトクリームの店があるではないか。


歩き回って疲れている事だしソフトクリームを食べるのもいいかもしれない。


「あ、そうだな」


俺はそう呟き、ソフトクリームの店と歩き始めた。



♢ ♢ ♢



ソフトクリームの店につき、早々に会計を済ませた俺たちはベンチに腰掛け、溶けないうちにソフトクリームを食べることにした。


「ん〜! 苺味美味しー!♡」


数多の味の中から苺味のソフトクリームを選び抜いた月城は頬にてを当ててそう言う。


「こっちのバニラも美味いな」


因みに俺はバニラを選んだ。抹茶とバニラで迷っていたのだが味はシンプルに、ということでバニラを選んだ。


しかし、苺味を選んだはずの月城は妙な視線をこちらに向けている。




「ゆーくんのアイスも食べていい?」


やはりそう来たか。苺を選んだのなら苺で我慢しなさい、とでも言いたいところだが、月城の気持ちも分からんでもない。


「……まあ、別にいいけど」


俺がそう言うと月城は一目散に俺のバニラを口いっぱいに詰め込む。


「ん〜! バニラも美味しいね!♡」


口元についたバニラをペロッと舐めて月城がそう言う。いや、スプーンを使え。


すると、月城は俺の目の前に苺味のソフトクリームを突き出す。


「ゆーくん、私の苺味いる?」


しかし俺は断る。苺は大して好きではない。


「いや、大丈夫だ。……そんなことよりこれから、俺たちはどうするんだ?」


俺は月城に問いかける。


「うーん。ちょっとまって、その前にゆーくん聞いて欲しいことがあるの!」

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