第18話 水族館
「はーい!♡ ゆーくんの大好きな目玉焼きでーす♡」
テーブルに二人分の目玉焼きを用意した月城は俺に向かってほほ笑みかける。
「お! 美味そうだな」
やはり、料理の腕前は誇っていいものだ。
ぷっくりと膨らんだ柔らかそうな黄身、光に照らされて、光を放つ純粋無垢な白身。
ただの目玉焼きでも本当に美味しそうにみえる。
「でしょでしょ!」
月城は嬉しそうにそう言うと俺の手首を持ちテーブルへ案内する。こうしてみれば本当に普通の美少女なのだがな。
そうして俺たちは向かい合わせに席に着くと両の掌を、綺麗に合わせる。
「「いただきます」」
挨拶をし終えた俺は、適量の醤油をかけ、まず初めにぷっくりした黄身を箸でつつき割る。
すると、中からトロッと、何とも食欲をそそる黄身が溢れ出てくる。
美味そうだ。俺は箸で目玉焼きをカットしようとする。……すると月城が慌てて俺の手を止めた。
「ゆーくんちょっと待って!」
「ん? どうした?」
俺が聞き返すと月城はニヤニヤしだした。月城のことだ、油断はできない。
まさかこの目玉焼きに何か怪しげなものが入っているのか……?
「やっぱりー。恋人と言ったらこれだよねっ♪」
そう言うと月城は目玉焼きを一口サイズに橋でとりわける。
「はい♪ あーんっ♡」
そう言って俺の口元に取り分けた目玉焼きを近づける月城。
俺はひとまず目玉焼きに何かが混入しているという最悪の事態は免れた。と少し安堵する。
「ほらほらゆーくんはやく!♡」
中々口を開けない俺に痺れを切らした月城は俺を催促した。
……恐らく怪しげなものは入っていないことだろうし、食べるか。と、俺は口を開ける、
「んん」
月城はソース派だったか。……しかし、万能なことに目玉焼きはソースでも合う。
「どう? 美味しい?」
月城は心配げな表情を浮かべ俺の顔をのぞき込む。
だが、月城。心配することはない、月城の料理は大抵うまいのだから。
「やっぱり月城の作る料理は美味いな」
俺がそう言うと月城の表情はパッと明るくなった。
「えー? 私が食べさせると料理より美味しい? もー!♡ ゆーくんっっ!♡♡」
いや、まあ一言もそんなことは言っていないが。
「……」
俺は無言で目玉焼きを口に運ぶ。やはり、月城に食べさせて貰っても、自分で食べても味は変わらない。
すると、何故か月城は口をふくらませた。
「ゆーくん! 今度はゆーくんの番!!」
ゆーくんの番。今度は俺が月城に食べさせろ、とでも言うつもりだろうか。俺たちはカップルでも何でもない。早いところ朝飯を食べ終わりたい、と俺は少しとぼけてみる。
「ん? 何がだ?」
案の定、月城は再び口を膨らませる。
「だから! 今度はゆーくんが私にあーんする番なの!」
月城が何か言っているが構わない。早いところ食べ終わろう。拘束されていた時間も含め、もう遅いはずだ。
「目玉焼きくらい自分で食え」
俺がそう言うと月城は悲しそうな表情を浮かべた。
「えー? ゆーくん……」
だが構わない。
「ゆーくんに食べさせてもらったらもっと美味しいだろーなー……」
だが構わない。
「あーあ。ゆーくんに──」
だが構──
「……仕方ないな、早く口を開けろ」
俺はそう言って一口サイズにカットした目玉焼きを月城の口元へ近づける。
「え!♡ ゆーくんありがと!♡」
「んん!♡」
月城はもぐもぐと目玉焼きを咀嚼している。やはり、なにか行動を起こさなければ完璧な美少女だ。
「どうだ? 味は変わったか?」
「こ、こんなに美味しい目玉焼き人生で初めてだよっっ♡」
頬に手をあて満面の笑みを浮かべる月城。
「そりゃ良かったじゃないか」
と、俺はつぶやく。……しかし、今日の俺は月城にアパート解約にでも走らさせるのだろうか。そもそも月城は今日アイドルの活動はあるのだろうか。
「それはそうと、今日はアイドルの予定はあるのか?」
俺がそう言うと月城は首を横に振った。
「ううん。ないよ! ゆーくんとずっと一緒にいれるね!」
月城のアイドル活動がないとなると、やはり俺はアパートの解約に走らされるのだろうか。
「ということは今日は俺のアパートの解約に──」
俺が言いかけると月城は被せるように言葉を重ねた。
「今日はゆーくんとのデートの日! 水族館に行こー!」
俺とのデート? 水族館? お前アイドルの自覚ないのか?
「おま、水族館なんて行ったら正体がバレかねないだろ! いや、百バレるだろ?」
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