第17話 ブロック削除

「っ?! いや、ちょっとまて、そこまでするのか、?」


俺は思わず取り乱す。しかし、当然と言えば当然の事だろう。


俺の携帯に月城以外の女の子の連絡先が登録されていることを見つければこうなるであろうと思っていた。

寧ろ、こうならない方が驚いたのかも知れない。


すると、月城は何食わぬ顔で俺に続ける。


「え? 逆になんでしないの? ゆーくんは私以外の女と連絡取り合うの?」


心底、不安めいた顔で月城は疑問をぶつけてくる。


しかし、月城は私以外の女と取り合うの? なんて言っているがその理屈でいくと、俺の実親まで連絡先から消されそうでゾッとする。家族以外で勘弁してくれるといいのだが。


「いやいや、別に友達として残したって……」


俺は唯一芽衣を消さずにいられる選択肢である、友達ととして残す。なんて文言を月城にぶつける。


しかし、月城はキョトンとしたまま此方を見つめた。やはり、月城はあまくない。


そう通りと言えば予想通りなのだが、先と変わらぬ表情のまま俺を問い詰める。


「ダメだよ。ゆーくんを傷付ける人から私が守ってあげるから。ね? 早く消そ?」


月城の圧には拍車がかかり、さらに俺を追い詰める。


「ちょ、ま、そう、焦らなくても」


このままだと再び俺を拘束してしまいそうな勢いの月城を俺は何とか宥めようとする。


しかし、月城の表情は変わらぬまま……いや、寧ろ目から光がなくなりつつある。


「え、なに? ゆーくんは私のこと嫌いなの?」


月城の単調な声が、さらに俺の不安を煽る。


「いや、嫌いじゃない、って、嫌いな訳ないだろ……?」


俺は震え声で月城の様子を伺う。というか……仮に嫌いでもド直球に言える訳ない。


これ以上下手なことを口走ってはこの先が思いやられる。


すると、そんな俺の事など気にもとめずに月城は、さらに圧をかける。


「じゃあ消すよね?」


俺は息を飲む。言葉を選べ、言葉を選べ、月城を刺激しない言葉を……!


「い……」


口から咄嗟に否定的な言葉が出かけたがどうにか踏みとどまる。


月城にバレた状態で月城の女の連絡先を残すなど初めから分かっていたように無謀なことだったのだ。


「消すよね?」


「……はい」


月城の圧に耐えかねた俺は呆気なく了承する。こうなることは予想していたが、月城相手に殆ど抵抗することの出来なかった俺に若干虚しさを感じる。


すると、月城は俺の携帯を俺から見えるように仕向けた。


「こんな女、私が消してあげるっ♡」


月城が、そう言ったかと思えば次の瞬間には器用に作業を進め、俺に見せつけるように芽衣をブロック削除する。





「はい! 綺麗さっぱり消えちゃいましたー!♪」


俺に携帯を見せつけ、心底嬉しそうに微笑む月城。こうなってしまった以上、もう俺に為す術などない。しかし、これでいい諦めがついたようにも思える。


すると、月城は次の瞬間、ハッと何かに気付いたような顔をすると、俺を宥めるように続けた。


「でも、かわりに私の連絡先追加しておくからね!♡ ゆーくんは全然悲しまなくていいんだよ??♡」


そう言って月城は俺の携帯に自分の携帯を翳し、連絡先を登録した。


「ゆーくんも良かったね!♪ これでもうあの女と関わらなくてもいいんだよ! ずっと私と一緒にいようね!♡」


月城は満面の笑みで俺に抱きつく。……いずれ本当に俺の家族すら消してしまいそうで。俺はより一層月城を刺激しない生活を心がけよう、そう思った。


「そ、そりゃ良かったな」


弱々しく俺がこたえると、珍しく月城は不安げな顔をして俺をのぞき込む。


「……あれ? なんかゆーくん元気ない? ……あっそっか! まだ朝ごはん食べてなかったね。ちょっとまっててね! 私が作ってきてあげる!」


どうやら朝ご飯を食べていなかったらしい。朝ごはんより、随分とインパクトの強いイベントか起こりすぎていたせいですっかり忘れてしまっていた。


……少し不安だが月城が作ってくれるらしい。無論、ここで出す答えは決まっている。


「……ありがとな」


俺がそう呟くと月城は瞬時に俺の縄を解いてしまい、嬉しそうに台所へと向かっていった。


「待っててね!♡」


そんなに簡単に解けるのなら、もっと早く解いて欲しかったのだが……



♢ ♢ ♢



一方その頃



あの後、私は少し考え唯斗にメッセージを送ることをした。そうして送り付けてから三十分が経とうとしている。


いつもの唯斗であれば最遅でも十五分で返してくれていたはずなのにまだ既読すら付いていない。


私の頭は不安でいっぱいになりつつあったが、まだ三十分、まだ焦る時間ではない。


大丈夫、唯斗のことだから、大丈夫、心配ない、と自分に言い聞かせ携帯と睨めっこしていた。

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