第16話 拘束解除
「はあ」とため息ひとつ吐き、私は続けた。
「でも、良かったね」
「……良かった?」
彼女はまだ驚いたまま私に聞き返す。
「今回はゆーくんに免じて許してあげるけど……今度からは気を付けてね?」
どこか上の空状態の彼女に私は忠告しておいた。
今回の件について、本来であれば私は彼女に制裁加えなければならない。
彼女は私のゆーくんを振った挙句、再び誘惑し、純情を弄ぼうとしているのだ。外道極まりない、しかし、今回の相手は仮にでもゆーくんが告白した女。
私がここで彼女になにかしてしまったらゆーくんが悲しんでしまう可能性は否めない。ゆーくんを悲しませない為には大人しく忠告だけして立ち去ることだ。
♢ ♢ ♢
暗い、ただひたすらに暗い。月城はまだ帰って来ないのだろうか。
あれからどれほどの時間が経っただろう。この部屋には時計がついていないらしく正確な時間も把握出来ていない。
流石に芽衣を待たせているからと言っても解いてから言って欲しいものだ。
俺がそんなことを考えていると、玄関から物音が聞こえてきた。
「ゆーくーん! ただいまー!!」
月城はそう言うと一目散に俺のいる部屋へ飛び込んできた。
「……やっと帰ってきたか」
俺はため息混じりにそう言う。勘違いで拘束され、時計すら確認出来ない最悪の状態で待たされた身にもなって欲しい。
「ゆーくん、ごめんね。寒かったよね」
月城はそう言いながら電気を付けると、俺の方へ駆け寄って来た。
「私が抱きしめて、ゆーくんの事あっためてあげよっか?」
電気が付くと、やはり月城はアイドルだと再認識される。
月城が言う通り寒いのも確かだが、正直に言えばこの不自由な状態を早く解いて欲しいものだ。
「いや、全然大丈夫──」
俺はすかさず月城の誘いを断るが月城は強引に俺を抱きしめた。
すると、月城からはフワッと甘い香りが漂い、サラサラとした髪の毛が顔に触れる。そして月城は外に行っていたはずだが何故か暖かい
……が拘束されているせいで依然としてときめかない。
「もー!♡ 遠慮しなくていいのにっ♡」
月城はそう言って抱きしめる力を徐々に強めていく。
別に抱きしめられるのは構わないが、それ以上に手足が不自由なのは不便すぎる。
「……遠慮なんてしていない。早く解いてくれ」
俺がそう言うと月城は「わかった」と微笑んで俺の足に掛かった縄を解き始めた。
「でもごめんね、あの女がゆーくんに一方的に執着してただけだったのに」
月城はそう言うと悲しげな表情をし、さらに続けた。
「私、つい早とちりしちゃって。ゆーくんのこと疑っちゃった……」
悲しげな表情を浮かべる彼女。早とちってこんな状態になるのは以後勘弁して欲しい。
しかし、だからと言って終わってしまったことを問い詰めるなんて事はしない。
「今度から気を付けてくれればそれでいい」
月城の表情がパッと明るくなり順調に縄を解き続けている。
しかし、俺がどう足掻こうと一向に縄が外れなかったことからどの程度の結びをしていたかは凡そ察しがつく。
「ゆーくん、浮気なんて絶対しないもんね?」
月城は俺に問いかける。とは言っても俺に委ねられている答えはただ一つだ。
「あ、ああ。勿論。浮気なんてするはずがないだろ?」
俺は当たり前のようにそう、受け流す。いや、元々付き合っていないが。なんて言う返答はNGだ。
「そうだよね!♡ 私たち愛し合ってるもんね!♡」
幸か不幸か月城の声色がかわりあからさまに喜びが伝わってきた。……が愛し合ってる、と聞かれれば流石に少し考える必要がある。
「……」
ベスト返答に困り、少し考え込んでいると月城は構わず圧をかけてくる。
「ん? 愛し合ってるもんね?」
月城はそう言って解けそうだった縄に再び力を込める。これはまずい、このまま黙っていれば再びこの部屋に閉じ込められかねない。
「あ、ああ! 勿論、そんなこと聞くまでもないだろ、?」
俺はあからさまに明るく振る舞う。すると、月城が縄に込める力が弱まり、俺はホッと安堵する。
「あー! ゆーくんが浮気したかも、ってビックリしてたのがホント馬鹿みたい! 私たち愛し合ってるのにね!」
足の縄を解き終えた月城は微笑みながら俺を見つめた。
「そ、そうだよな……」
俺が愛想笑いで答えると、彼女は下に転げ落ちた俺の携帯を拾ってメッセージアプリを開いて見せた。
「それじゃ、早速。ん、この女、ブロック削除しよっか」
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