第15話 円満に

暗い部屋に一人、拘束された挙句、放置にされてしまった俺はため息を零し、どうにか円満に終わってくれ。と無力ながらに願っていた。



♢ ♢ ♢




芽衣との待ち合わせ場所。まだ少し肌寒かったが、早々に芽衣は唯斗(月城)のことを待っていた。


「あなたが芽衣ちゃんだよね?」


私は待ち合わせに指定した場所へ向かい、綺麗に佇む女の子に探るように話しかけた。


あれから急いで家を飛び出してはきたが少し待たせてしまったのは申し訳ない。

しかしそんなことより、ゆーくんじゃない私が来て怪しまれないかどうかの方が心配だ。


「あなたは、?」


やはり怪しげな表情を浮かべ芽衣は私へ問いかける。


私の方へ顔を向ける芽衣、よく見てみれば確かに顔は綺麗かも知れない……でもゆーくんと比べれば足元にも及ばない。


でも大丈夫、だって今の彼女候補はダントツで私だもん。ゆーくんはこんな女とかかわる必要なんてない。


「私、ゆーくんの彼女だけど」


私は自信満々にそう言う。確かに厳密に言えばまだ彼女では無いかもしれないものの、今の私とゆーくんの関係なら彼女と言っても差し支えないでしょう。


「……え?」


やはり、彼女は驚いたような顔をした。私に先を越されて悲しがっているのだろうか。


でもゆーくんを振るなんてありえない。私なんて何回も自分からしたのに……


私がそんなことを考えていると、芽衣は再び口を開いた。


「って言うか……何でサングラスをかけてるわけ?」


サングラス……。仮にでも私は大人気アイドル、そしてこの女と中学が同じだった同級生でもある。


いずれにせよ私の正体が芽衣にバレるのはあまり好ましくない。


「別にいいでしょ」

「そんなことより、ゆーくんにメールしないで貰っていい?」


私はサングラスから逸らすように本題へと話を移す。


「あなたが誰だか分からないけど。それは別に私の勝手でしょう?」


芽衣は威圧的に私へと詰め寄る。


彼女は私の勝手なんて言っているけど意味が分からない。ゆーくんを振った分際で、まだゆーくんを誘惑する気なのだろうか。


「なんで? あなたみたいな女と話していては、私のゆーくんが汚れてしまう」


私のゆーくんを汚すやつは許さない。ゆーくんと話していいのは私だけ、ゆーくんの魅力も分からないような女と話していては汚れるのだって時間の問題。


それにこのままだとゆーくんの魅力に気がついてしまう可能性も考えられる。


「い、いきなりなによ、あなた」


私がそう言うと彼女の顔色が変わり、少し動揺してみせた。私のゆーくんを思う気持ちに圧倒されたのだろう。


「振った相手にメッセージまでして気にかける必要ないでしょ?」


私は動揺する彼女に追撃をかけるように言葉を重ねる。


振った相手にメッセージを送り付けて、思わせぶりか、なにかだろうか。愚の骨頂だ。


「それならあなた、唯斗にメッセージを送る人全員にいいなさいよ?」


芽衣は「はあ」とため息を吐くと調子を取り戻したように私を詰め寄る。


「どうなの? 全員に言うの?」


「勿論。私のゆーくんを汚すやつは絶対に許さないよ。ゆーくんの携帯に登録されている女は家族以外、あなただけだから良かったものの……」


私は呆れたように続けた。


「他にもいたら本当に大変だっただろうね。でも安心して、今回の件は貴方に言えば万事解決だから」


ゆーくんに近寄る女に制裁を加えるのは至極当たり前の事、わざわざ口に出して言うことでもない。


私が言い切ると彼女は呆気に取られたような顔をした。


「え……? 登録されてるのって……私だけなの、?」


目をパチクリとさせ私に問いかける彼女。


自分の連絡先だけがゆーくんに携帯に登録されていたことに優越感でも感じているのだろうか。でもいい、もう芽衣の連絡先など私が消すのだから。


「うん。私の登録が消されちゃってたのは少し悲しかったけどまた登録すればいいだけの話だし」


私は不貞腐れたようにそう言うと、彼女は再び私へ問いかける。


「ほ、ほんとに、ちゃんと隅々までみたの?」


彼女はしつこく聞いてきた。それほどまでに嬉しかったのだろう。


「みたよ。ゆーくんについてのことなら負けない自信があるもん」


やはり彼女は驚いたような顔をしたままだった。

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