第9話 たった一つの欠点
「じゃーん!!! ゆーくんの為に作っちゃいましたー!!!」
月城がそう言い、俺がテーブルに目をやると豪華な料理が並んでいた。
時は過ぎ、二人きりで初めての夜を迎えていた。
アイドルのライブが思いの外、長引いたことや、朝、俺が起きるのが遅かったことが相まって今日は一日が凄く短く感じた。
俺が朝、異様なほど腹が減っていたのも恐らく、睡眠薬で長時間眠らされていたことが原因だろう。
「おー! 美味そうだな」
そう言うと、俺はソファから立ち上がりテーブルへ駆け寄る。
「でしょー! 今日は気合い入れて作っちゃったよ!!♡」
♢ ♢ ♢
「「いただきます」」
挨拶を終えると、俺は早速ハンバーグに手をつける。
ナイフ片手にはじめに左から、一口サイズにカットしていく。
溢れ出る肉汁、ソースの香り、今すぐにでもかぶりつきたいが、ぐっと我慢し、ナイフを進める。
よし。ここまで来たら後はもう少し、上手い具合にカットされたハンバーグを右手のフォークで優しく包み込む。
皿から持ち上げると、明かりに照らされて肉も輝きを放っている。俺はそーっと口へとハンバーグを運んでゆく。
「う、美味い……!!」
「え〜! 良かったああ!!♡♡♡」
月城はとろけそうな笑顔をしている。
噛めば噛むほど旨みが出てくる……! 流石だ。
とろけるチーズもこってりし過ぎず、肉の旨みと、うまーく均衡を保っている。
すーっと鼻から肉の香りが抜ける。
よし、口の中いっぱいに肉の旨味が広がったところで、そろそろ白米にかぶりつく。
丁寧に持ち上げ、白米を頬張る。
やはり白米と肉の相性は抜群、まるで悟〇とクリ〇ンのようだ。
ベジ〇タの様には喧嘩していない。
つまるところハンバーグと白米がうまい具合にマッチしているって事だ。
数回噛んだら、ゴクリ、飲み込んだ後もほのかに香るソースの香り。美味い。
このハンバーグ、最後まで口の中を退屈させない。
よし、数口食ったし、次は何を食べよう……。
と、いいや、その前に口の中をリセットする為の重要な工程を踏まなければ。
シャキシャキとしたいい噛み心地。
「──ッサラダも美味い!」
ドレッシングとサラダの食感が相まって、最高にうまい。
胡瓜やレタスの飽きさせない食感、そこに加えてトマトの酸味、十分に噛み、ゴクリ、飲み込んだ後にはサッパリとしたドレッシングの後味が残る。
実に美味い。さて次は何を食べよう。
俺がそんなことを考えてコップの水を飲み始めると、月城が不安げに話し始めた。
「ゆーくん、喜んでくれて私も嬉しい! でも、隠し味に私の体液でも入れようかと迷ったんだけど、やっぱり入れた方が良かった?」
「──ッッン」
月城の衝撃的な一言に、飲んでいた水を喉につっかえそうになったが、水なのが幸いし一命を取り留めた。
「っ?! ゆーくん大丈夫?!」
「あ、ああ、大丈夫、だが、呉々も体液は入れないようにな」
や、やはり。このスペックでヤンデレじゃなければ完璧と言っても差し支えないんだが。俺は苦笑し、再び箸を進めた。
♢ ♢ ♢
「「ご馳走様でした」」
「ぷはー! 美味かった!」
俺は腹を擦りながら月城の体液が入っていなかったことに安堵する。
「ありがと!♡♡ ご飯も食べ終わった事だし! じゃっ、お風呂入ろっか!♡♡」
月城は椅子から立ち上がり再び、とろけそうな目で俺を見つめた。
「風呂……。俺が先に入るのも何か悪いし、月城入っていいぞ」
そういって俺も椅子から立ち上がる。
流石に泊めてもらっている分際で先に入ることなどできまいと、俺は素直に月城に譲ることにした。
「ん? どゆこと?」
しかし、当の本人は何故か、俺の言った言葉の意味を理解していないようで俺の手首を握った。
「ん? 月城が先に入れってことなんだけど……?」
俺はこの訳の分からない状況で、月城を説得させる為にもう一度言っては見るが月城の顔色は一向に変わらない。
そして俺の手も一向にはなさない。
「はあ」とため息を吐き、月城は続けた。
「なんで? 私たち一緒に入るんだよ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます