第7話 握手会にはアクシデントがつきもの

俺は曲の始まりと同時に、辺りを見渡してみるがペンライトやらを持った人達が大半を占め、明らかに俺が浮いている。



「はあ……」



一曲目がスタートした矢先、既に周りとの落差に落ち込みつつも、ステージに目をやると、生憎ここは会場の前の方で、俺に向かってウインクやポーズを決める月城が見えてしまった。


衣装やステージ、ライトと相まって、歌っている姿は流石の美しさだ。


流石、トップアイドルのセンター。とでも言っておくべきか。


しかし、トップアイドル月城に、ファンサービスを受けているのが俺だと言うことは、あまり公にされたくは無いし、無駄に敵はつくりたくない。


俺はサービスなんて見なかった振りをして、その場をやり過ごすことにした。


……そもそも、俺がファンなのかは吟味しないでおこう。







聞いていると、どこか引き込まれるような歌声に、曲調。


ライブは思っていたよりも、ずっといいもので、割と直ぐに終わってしまったように感じる。



♢ ♢ ♢



「来てくれてありがとうございます!」


驚異の可愛さで笑顔を振りまく月城。あの時とは違って見える。


……いや、月城云々の前に何故、俺がわざわざ握手会にまで参加しないといけないのか。


『それと、ゆーくん? ちゃんと握手会も来てね?』


あの眼差しを思い出すだけで背筋が凍る。あの時断わっておくべきだっただろうか。


……いいや。そんなことは無理だ。相手が相手なのだ。


と、ひとまず、俺は周りの人達に関係がバレるのはマズいと、察知し迫真の演技で対応する。


「は、はじめまして」


すると、俺の渾身の演技に圧倒されたのか月城は疑問そうな表情を浮かべる。


「え? 何が初めましてなの?」


「え、いや、」


これはまずい。握手会だぞ握手会! 熱狂的なファンたちが集まるであろうこのイベント。


恐らく月城は本当にアイドルなんてどうでもいい、と思っているのか、周りの目を全然気にしていない。俺たちは、この大量のファンたちの前で明るみにしていい関係ではない。


俺は月城ファンの為にもこの秘密は死守しなければ。


しかし月城の表情は変わらず、無意識に俺を追い込んでくる。


「どーしたの?」


「え? 僕達、初めましてじゃないですか……?」


このままだと本当に俺たちの関係がバレかねない。初めましての設定を貫かなければ……


「なにが? だって私たちって、これから一緒に住──」

「──ッいつも応援してます!!」


俺は咄嗟の瞬発力を発揮する。やれやれ。


危なく俺たちが同棲の一歩手前まで迫っている事を悟られるところだった。


すると、俺の何気ない一言に月城は異常な反応を見せた。


「お、応援?!?! えー!! ありがとー!! やっぱり、っ、ゆーくん大好──」

「──ッいえいえ!! また来ます!!」


俺はそう言い残し、足早にその場を立ち去った。


全く。本当に油断も隙もない奴だ。


やはり、外で月城と関わる時は時は常に気を張って置かねばならない。


俺は心からそう思った。

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