第6話 アイドルにはライブがつきもの

平日にも関わらず、会場は大勢のMAGICファンで賑わっている。


待ち時間、俺は特にすることもないので自販機で買ったコーンポタージュ片手に時間を潰している所だ。


辺りを見渡すと、やはりMAGICが、大人気アイドルだと再確認される。


事の発端は数時間前……



♢ ♢ ♢



「ゆーくん、ごめんね。私、早速お仕事の時間なの」


朝食を食べ終え、自宅解約まであと少しか、と思っていた頃。月城は悲しそうな顔つきで、ソファに座りテレビを見る俺に話しかけてきた。


「お仕事?」


俺はテレビから視線を月城へうつす。


早速とは言ったが、もう解約の話か……? と疑っていた俺は、少し安堵する。


「ん」


すると、月城は携帯を取り出し、大人気アイドルMAGICのライブ日程のカレンダーを俺に、突きつける。


「MAGICのライブ、今日の日付だな」


月城の携帯に映し出されたのは紛れもないMAGICのライブ、それも今日のライブだ。流石は大人気アイドル、スケジュールがびっしりと詰まっている。


ま、反応から察するに、やはり、私たちはライブの仕事があるから、俺は解約の手続きでもしとけ、なんて言われるのだろうか。


「私、ゆーくんに来て欲しいな!♡」


月城はキラキラと光瞳で俺を見つめた。


……予想とは反し俺は、連れていかれるらしい。


だが、そんなことを言われたって、もう既に会場は、MAGICファンで埋まっているだろう? 俺が入るスペースなど存在しない。


「いやいや、俺は予約なんてしてないしチケットも持っていない」


俺が訴えかけるも、彼女は顔色一つ変えずに続ける。


「大丈夫だって!!♡♡」


「だ、大丈夫じゃないだろ……」


月城の満面の笑みに俺は、つい不安が零れる。だが、俺は本当に何が大丈夫なのか、分からなかったので仕方ない。


すると、月城は悲しげな表情を見せた。


「え? なに? 来たくないの?」


「いや、そんなことは……」


月城の問い掛けには咄嗟の反応を見せる。


少しでも返答が遅れていたら、月城に勝手な解釈をされて、この先を考えるだけでいたたまれなくなるところだった。


「じゃ、私のライブ見たいってこと??」


月城は続ける。


「え、あ、いや」


だが、俺は相応のスピードで対応出来ない。


「ねえ。どっち? 来たいの? 来たくないの?」


やはり、俺が口籠もると月城の目には、徐々に光が消えてゆく。


「えー……っと」


この修羅場を乗り切る為、俺のすべき事はただ一つ、素直にライブへ行く、と言うことだろう。


しかし、学校を休んだ挙句、アイドルのライブへ行くなんてムーブは、ごく普通の高校生に出来るはずがない。勇気がない。


「あーあ。やっぱり私のライブ来たくないんだ」


月城は不貞腐れ、溜息混じりに言葉を吐く。


俺は月城を宥めるべきなのだろうか、と思いつつも、月城に掛けるべき、適当な言葉が見つからない。


「いや、だから……」


すると月城は吹っ切れた様に続けた。


「はあ。さっきから、どっちなの? 私のこと遊んでるの?」


「いやいや、全然、全く、遊んでない……」


月城から重圧がかかっていく。


……俺自身全く遊んでいるつもりなどない、寧ろ学校を休んで遊びに行くのに抵抗があるのだ。


「へー。じゃあ、どっちか答えて。ま、勿論、私はゆーくんを信じてるよ??」


月城からは妙な圧を感じる。この緊迫した雰囲気の中、臆病者の俺が月城の誘いを断ることが出来るのであろうか。


「あ、ああ。行く行く、あ、いいや、行きたい。行かせてくれ」


答えは簡単、NO。負けを確信した俺はライブへ行く事をとうとう決意してしまった。


しかし、この決断に後悔しているかと聞かれれば首を横に振る。


「行く」俺がそう言うと、やはり月城はあからさまに嬉しそうな素振りを見せた。


「ええ?! 私のライブに行きたいって??? ありがとう!!♡♡ やっぱりゆーくん大好き♡♡」

「そうそう! チケットは、私が何とかするから絶対来てね!♡」


「勿論。言われなくても、な」


学校を休むことになり、手持ち無沙汰だった俺は、月城に言われるがまま、MAGICの物凄いライブに招待された。



♢ ♢ ♢



「みんなー!! 今日は来てくれてありがとー!!!」


『『『うおおおぉぉぉぉぉおーーっっ!!!』』』


どっ、と会場中に歓声が響く。このバカでかい会場、平日とは思えない程に上から下まで、全てが人で埋まっている。


「それでは早速一曲目です!!」


センター月城がそう言うと、どこからともなく曲が流れ始めた。流石としか言い様がないが、流れて来たのは、アイドルに疎い俺でも知っている曲だった。

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