第2話
『だから、金なんか借りてないって!』
電話の向こうで夫はうんざりした口調で言った。
「じゃあ、なんでこんな薄気味悪いメールが毎日送られてくるのよ!?」
メールは一週間ほとんど毎日続けて送られて来ていた。
最初の一日は一通だけ。二日目には二通。三日目には四通。
一日毎にメールは倍になっていき、昨日は三十二通になっていた。
ついに堪りかねて、九州にいる夫に電話をかけたのである。
この日は電話を掛ける前に五十通のメールが届いていた。
すでにメールBOXはいっぱいになり、全消去したばかりである。
「わたしは借金なんてした事ないのよ! こんなメール送られてくる覚えないわ!?」
『僕だってないよ! 君こそ誰かから金を借りて、忘れているんじゃないのか!? そいつは君の電話番号を知っていたんだろう。だったら君の友達じゃないのか』
「こんなうす気味悪いメールを出すような人に、番号を教えたりしてないわ。とにかく、お願いだから帰ってきてよ!」
綾子は哀願するように言う。
だが、それに対する夫の答えは冷たかった。
『バカいえ! 仕事ほったらかして帰れる分けないだろう。警察に知らせたらどうだ』
「そんな事とっくにやったわよ」
五日前、警察は犯人を探し出してやめさせると言っていたが、それからは何も言ってきてない。 警察が頼りにならない事を、改めて思い知らされた。
「あなたミステリーマニアでしょ。ドラマの犯人は、いつも当ててるじゃない。帰ってきて犯人を捕まえてよ」
『あのなあ……分かった。それじゃあ、僕の友達に、探偵社に勤めている奴がいる。そいつに頼んでみる』
「あ! 待って」
電話は一方的に切られる。しばしの間、綾子は切れた携帯を握りしめたまま立ちすくんでいた。
胸の奥から悔しさが込み上げてくる。
この一週間というもの、自分がどんなに不安な思いで過ごしたか夫はまるで理解してくれない。
すがる思いで電話をかけたというのに。
ピピ!
手に持っていた携帯から、メールの着信音が鳴った。
ディスプレーに、発信者の番号が表示される。
それは、この一週間お馴染みとなった番号であった。
中を読みたくはない。
しかし、綾子は読まずにはいられなかった。
恐る恐るメールを開く。
ディスプレーには、いつもより少し長い文面でこう書かれていた。
〈俺の金返せ! 町田〉
「町田……!!」
それは綾子の旧姓であった。
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