第17話

「待ちなさいよっ」


 そう言って、私とウィルが旅立とうとしているのを妹のリリスが止めて来た。


「なに?」


 私は優しくリリスの言いやすいように返事をした。


「結婚式っ」


「あぁ、ちゃんとあなたたちの・・・」


「違うっ!!」


 イライラしながら、否定するリリス。


「・・・お姉様たちの・・・に決まってるじゃない」


 どう決まっているのか教えて欲しい気持もあったけれど、リリスがお姉様と呼んでくれたこと、私たちの結婚式のことを考えてくれたことが嬉しかった。


「来てくれるの?」


「行かないわよ、そんなよくわからないとこっ!!」


 内弁慶と言うか、リリスは新しいことをやるのがビビリなのだ。


「じゃあ、こっちでやるね」


「もー、物分かりが悪いわね、今やりなさいよっ!!」


(いや、絶対あなたの説明不足よ、リリス)


 私も思わず苦笑いしてしまう。


「おっ、それいいね」


 けれど、ウィルはその言葉に乗り気になった。


「そうは言っても準備が・・・」


「ボクを忘れたのかい? 聖女ミーシャ。こういうことなら、ボクの方が得意さっ。それっ」


 ヒュイッ


「わおっ」


「すてき」


「うわぁ~~~っ」


 ウィルが手を振ると、みんなの衣装がパーティー用になる。


 ヒュイッ、ヒュイッ


 ウィルの手から出る光が旗などを吊るしたり、お花の置かれた白いテーブルが生み出されて行く。

 そのままウィルはまるで指揮者の用に手を振って行くと、どんどん盛大なパーティーのようになっていく。


「最後は・・・えいっ」


 火あぶりの刑ように燃やしていた炎を今度は、聖火へと変えて、筒状の柱の一番上から炎が出る形にアレンジしてしまった。


「あぁ、それとキミたちっ」


 ウィルが手を振ると、裁判官たちは黒い服から白い服へと変わった。


「ウィル・・・そんなにみんな単純じゃ・・・」


「よしっ、やろうぜ」


「聖女様の結婚式よっ」


「待ってろ、俺たちの家の野菜を持ってきてやらぁ」


「なら、それを料理するわよ」


「私、音楽が得意だから、楽器を持ってくるわ」


「じゃあ、私は踊る」


「ぼくもぼくも」


 みんながやる気になって、逆にもう止めることができそうもない。

 まったく、裁判と言い、結婚式と言い・・・みんな流されやす過ぎでしょ。


(まぁ、それが人間らしさかもね)


 人間には忘れる機能も備わっている。

 辛いことや悲しいことがあっても、忘れることができるのは、神様の設計ミスか?

 私は違うと思う。


 神様は罰を与えるけれど、煉獄の炎のようにやり直すチャンスもくれる。悔い改めたのであれば、引きずらないようにするための神様の気遣いだと私は思っている。


「さっ、最高のドレスを用意するよ」


 ウィルがそう言うと、


「駄目です」


 そう言って、衣服屋さんが私を連れて行く。


「こういうのは、新郎に見せて驚かせるのも楽しいんですから。ねー、ミーシャ様」


「えっ、あっ、ちょっと」


「ちょっとお待ちください」


 私が拉致されそうになると、お母様が私に近づいてきて、


「これをあなたに」


 そう言って、家宝の赤い宝石を私に握らせて、渡してきた。


「ベールを降ろすのは任せて」


「ヴァージンロードのエスコートは任せなさい」


 お母様もお父様も今日やる気満々だ。

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