第2話
「言い訳はいらん。婚約破棄だ。俺はリリスと結婚する」
「・・・」
「ふんっ」
鼻で笑うアレク。
ただ、私は言う言葉が見つかりませんでした。
『リリスと結婚する』
私は言い訳がいらないと言われても、婚約破棄だと言われても、誠心誠意アレクの怒りを受け止めながら、一つずつお話して、御理解いただこうと思っていました。けれど、『リリスと結婚する』と言われて理解しました。
妹のリリスは打算を持ってアレクに近づき、悪意を持って私を貶め、そして・・・
(あぁ、そうでした、そうでした。お父様がお持ちになられた縁談。お母様とお父様は私の結婚を大いに喜んでくださいましたが、妹のリリスは悔しそうに爪を噛んでいましたね)
悪知恵は働く子です。
こうなってしまえば、全てはリリスの手の上ということなのでしょう。
こうと思い込んだら、なかなか軌道修正できないアレクと、こうしたいと裏で手を回すのが得意なリリスの二人の方が私との相性よりもいいかも知れないと思った。
「わかりました・・・残念ではありますが、妹をよろしくお願いします」
悔しい、悲しい。けれど、怒りは湧き上がりませんでした。。どちらかというと無気力と言うか、感情が死んだ感じでした。
「じゃあ、これで・・・」
どうやら、私の心には休息が必要なようです。
時間を置いて、気持ちを整理しましょう。
もしかしたら、気持ちを整理すると、悲しみがこみ上げて泣きたくなるかもしれませんが、私の心を落ち着かせるためには必要なことだとも思います。
「待てっ」
「痛っ」
アレクが私の手首をこれでもかってくらい力強く握りしめる。
「痛いです・・・」
弱々しい声しかでません。
そんなに強く握りしめなくても逃げないのに。
「魔女に痛みは感じないだろっ」
不敵な笑みで私を見てくるアレン。
怖いです。
「お前にはとっておきの・・・舞台を用意しているっ」
「えーっと、教会の最前列でしょうか・・・痛っ」
家族である私がアレクとリリスの二人を祝福するとすれば、教会の最前烈でしょうに。アレクは、殺意があるんじゃないかというくらい私の手首を握り締めてきて、折れてしまうんじゃないかと思うくらい痛い。
「ふざけるなっ!!! 最前列は最前列でも地獄の最前列だっ」
意味がわからないですが、相変わらず強く握りしめるので睨むようにアレクを見ます。
「煉獄を知っているか、煉獄と言うのは・・・」
「知ってますっ」
煉獄とは、天国に行くのが相応しくない人が、そのまま地獄に行くのでは可哀想だと神様が用意した反省部屋のようなところ。人を煉獄の炎に入れて、実社会で生きていくうえで付いてしまった上辺の穢れや罪を燃やし尽くして、人を清める場所。こびりついた穢れや罪が軽ければ、さほど痛みを伴わず、天国に行くことができ、こびりつきがひどいほど、激しい痛みに襲われる。そして、煉獄の炎でも落とせない穢れや罪、つまりはその人自体が穢れや罪そのものになった場合に地獄へと落とされるのだ。
「んんっ!!!」
アレクは私が口を挟んだことを怒って、顔を真っ赤にしている。
いえ、きっとアレクは講釈を垂れたかったのだとわかっていましたが、手首が本当に痛いんです。指先が痺れて、もう限界だったので私は話を遮りました。
「火あぶりの刑だ。今すぐだっ!! 誰かっ!!!」
「「「はっ!!!」
アレクが言ったのは冗談だったかもしれません。
けれど、私は彼の怒りの火に油を注いでしまい、憎しみの炎に燃え上がらせてしまったようでした。
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