第1話

「ミーシャ。今までよくも俺様を騙してくれたな」


「ん? なんのことかしら、アレク?」


 私も15歳になり、分別と教養を学び、婚約もできる歳になったある日。

 婚約者のアレクが急に私に言い放ってきた。

 

 もともとスイッチが入ると怖い顔をする婚約者のアレクだったけれど、今日は一段と怖い顔をしている。私は気を遣いながらも、アレクにどうしたのか尋ねる。


「ふっ、まだしらばっくれるのか。この魔女がっ」


「えっ・・・」


 最初はピンと来なかった。


 だって、お師匠様の魔法使いさんに人前で使うのを禁止されていたのもあったし、私自身、小さな頃に一度魔法を使った後の妹のリアクションを見て、どんどん要求されるのが怖くなかったから使ってこなかった。


(そうよ、そう・・・なにかの誤解に決まっているわ。それに私は魔女になる前に魔法を捨てたんだから、元魔法少女よ。うんうん)


「なんのことかしら?」


 もしかしたら、これを嘘と糾弾する人もいるかもしれない。

 でも、私の価値観では、例え婚約者であっても、人生の伴侶であっても、お互いの全てを打ち明ける必要がないと思っている。例えば、アレクが小さい頃はマザコンで10歳になるまで母親の乳を吸おうとしていたとか、他にも色々と恥ずかしいことが耳に入って来たけれど、今のアレクがしっかりとしていて、私がそれを聞くのをアレクが嫌がるなら、それを無理に聞きたいと思わない。


 だから、私もパートナーには同じ感覚であってほしい。

 私の小さな頃の黒歴史・・・いいえ、私と魔法使いさんの大事な白歴史は大事にしたいと思っていたし、素敵な魔法を学ばせてもらうための魔法使いさんとの約束だから、これからを一緒に生きる人でも、今はまだ話すのは気持ちが乗らない。


 もし話すとしたら、私たちがおばあちゃんとおじいちゃんになって子どもや孫たちに家のことは任せて、のんびり暮らしている時にぼそっと漏らす。もしかしたら、使いたい時があるかもしれないし、伝えたい時があるかもしれないけれど、いつ伝えるか今考えろと言われたら、そんな感じだ。


「リリスの言うようにお前は本当に卑劣で、傲慢で嘘つきな女のようだ」


(えーっと・・・傲慢にしたことありましたっけ? というか・・・リリスか・・・やっぱり、覚えていたんだ・・・)


 ヤレヤレ。


 予定変更。

 そこまで、わかっているならば、ちゃんと説明するのが、妻になる私の誠意。

 今から、御説明したら、アレクは言い訳だ、一貫性がないと怒るでしょうか。

 もしかしたら、支離滅裂と罵られるかもしれません。


 でも、未来の旦那様なので、信じてお伝えしましょう。


(魔法使いさん、ごめんなさい)


「実は・・・」




 

 

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