第6話: 嫌な予感はするけれど



 ――おお、本物のお城だ。初めて生身で見たが、迫力が違うなあ。


 ――おお、本物の髷(まげ:時代劇のアレ)だ、リアルで見ると凄いな。




 そんな内心の呟きを胸に秘めたまま、白坊は……視線の彼方にてそびえ立っている、瓦屋根やら堀やらシャチホコやらがある『The 日本の御城』を目にして、密かに感動していた。


 だって、御城だ。元の世界では、かつての偉人たちが住んでいた場所。様々な歴史を作り、消えていった場所。


 時代劇などではほぼ100%の割合で登場するメジャーな建物だが、実際にその姿を肉眼で見た経験はない。


 だからと言ってはなんだが、復元でもレプリカでもない、本物の御城が放つ存在感は……不覚にも、この世界に来て良かったと少し思わせるナニカが有った。



 ……で、だ。



 ミエの住む町は、遠目からでもはっきり分かるぐらいに大きな城を中心にして広がっている。


 そこから、らせん状に作られた外掘(そとぼり:中はだいたい水)が4重、5重と張られている。堀の内側にも外側にも家屋が立ち並び、様々な人々が行き交いしている。


 基本的に堀の中(つまりは、城が有る方向)へ向かうには、間を通している橋を渡り、関所(要は、門の事)を通る必要がある。


 よほどの例外を除き、この関所を通らずに中に入れば重罪である。万が一見咎められようものなら重い罰金、場合によっては罪人として奉公(かなりキツい)の刑に処される。


 なので、邪(よこしま)な考えを持っていない限りは、おとなしく『手形(てがた:証明書の事)』を発行してもらうのが一番手っ取り早いわけだ。



 ……で、だ。



 城へと近づくに連れて特別な『手形』が必要なようだが、外側の門はそこまで厳重ではないらしく、手形無しでも入れるようになっている。


 もちろん、明らかに怪しい風貌をしていたなら、呼び止められる。けれども、今回はそうならなかった。


 ミエの家が外側(いわゆる、一般市民たちが住む場所)である事に加え、先日の雪崩による被害の話が門番たちの間にも広まっていたからだろう。


 おまけに、ミエの足には手当の為に布の切れ端が巻かれ、背負っている青年(あるいは、少年)は汗だくで、息も絶え絶えときた。


 どうやらミエはそれなりに名の知られた美人姉妹(ミエの方は将来性を見越して)だったらしく、顔を覚えている者が多かった事から門番にも知られていた。


 それ故に、手が空いていた門番の一人がひとっ走りでミエの自宅へと向かい……ついに、ミエは自宅へと帰宅を果たしたのであった。






 ……ミエの家は、他の家に比べて幾らか大きい。飯屋をやっているからなのは、一目で分かった。



 外観も内装も、時代劇の世界から飛び出してきたかのような姿をしている。白坊が最初に思ったのは、まるで映画の世界に入り込んでしまったかのような錯覚であった。


 今更といえば今更だが、正直、軽く感動する。


 蕎麦や丼(どんぶり)物をササッと食べる為の立ち食い席と、腰を落ち着けてゆっくり食事をする畳席。これが標準かはさておき、それ自体に目新しさはない。


 だからこそ、逆に今すぐにでも映画やドラマのセットとして使えそうな程であった。



 ……で、だ。



 案内されるがまま、手を引かれて店の奥。『モエ』と名乗る末の妹より足を洗われ、恐縮している間にもそのまま更に手を引かれ、来客用の座布団に腰を下ろす。


 そのまま、とりあえずは緑茶を一口、二口……思い返せば、この世界に来て初めてとなる緑茶。久しぶりだからか、格別に美味いと思った。



 ……で、だ。



 何となくだが、そうなるんじゃないかなと予感はしていた。


 時代設定的にも年齢的にも物理的に幼い顔立ちをしているミエは、将来は確実に美人になるだろうなあ……と、白坊は思っていた。


 何せ、顔立ち……いや、骨格を通り越してDNAのレベルでモノが違う。


 茶屋で見た他の人達や、ミエに案内されるがままに通った際に見かけた町の人々、ミエと同年代の子がちらほらと視界に入った時……それを、強く実感した。


 まず、肌の美しさが違う。先天的なのか、まるで生まれたての赤子のように艶やかだ。


 食生活などにそこまで違いがあるわけでもないのに、それだけ違う。ただそこに居るだけで、他の女子たちが一段二段は小汚く見えてしまうほどで。


 何よりも、顔立ちだ。


 顔だけで食べていけるのではと思うぐらいに、非の打ちどころがない。この世界の子はみんなミエのような感じなのかと思っていたが、そうではなかった事を知った。


 だからこそ、白坊は……姉の方も美人だと思っていた。


 両親のどちらかに似たのか、遺伝子の奇跡によって生まれた美貌なのかは分からない。しかし、ミエがコレなのだから可能性は高い……ぐらいには思っていた。



「――ミエを助けていただき、ありがとうございます」



 でも、違った。そんな生易しいレベルではなかった。



「出来る事であればこの町で暮らせるよう助力致します。今日は、我が家と思ってくつろいでください」



 そう言って頭を下げる、ミエの両親の姿を見やりながら……白坊の意識は、その後ろにて同じように頭を下げる女性に……少しばかり、心を奪われていた。



 そう、ミエの姉であるサナエは、白坊がこれまで見て来た如何なる女性よりもはるかに美しかった。



 例えるなら、生まれ持った美人が、エステやら栄養やら美容やら大金と労力を注ぎ、更にその美しさ磨きを掛けたような……といった感じだろうか。


 顔が小さいとか、足が長いとか、目鼻が整っているとか、そういう単純な話ではない。


 そういった個人や常識が生み出す好みとは根本から異なる……魔性。そう、『魔性』と称してもいいぐらいの色気を滲ませていた。



(すげー、同じ人間とは思えねえ……)



 仮にサナエが現代社会の学生として生きていたなら、学校中……いや、間違いなくネットでも話題になる程だろうと白坊は思った。



(……そりゃあ、両親の目もちょっと嫌な感じになるよな)



 と、同時に、白坊は……当人たちは隠しているつもりだろうが、視線より滲み出ている警戒心の意味を正確に察した。


 両親としては、そりゃあ心配もするだろう。何せ、両親の顔立ちは年齢を差し引いても、平々凡々……いや、少し下なレベルだ。


 とんび(とんび)がたかを生む、典型例。いやはや、ここまで見事に体現している存在もまた、珍しい。


 おまけに、サナエの妹であるミエも鷹で、まだまだ甘え盛りの末子のモエも、今の時点で将来を期待させられる顔立ちだ。


 飯屋をやっているのだから、嫁入りしてなければサナエは看板娘だろう。ミエを入れたら看板姉妹だが……なるほど、親としては危惧して当然だ。


 実際の江戸時代などでは、『看板娘』というのは非常に限られた女性しか成れなかったと聞く。評判の良い娘を雇うには金が掛かるが、それが自身の子ともなれば……金を生む鶏も同然だろう。



 ……事実として、大事な娘の恩人であるのは確かだ。



 しかし、それはそれ、これはこれ。恩を盾に大事な娘を貰う等と言われたら、両親としては堪らないし断り辛いと思うのも、当然だろう。


 ――いやいや、助けた代わりに嫁に来いとかそんな馬鹿な話……それが、あるのだ。


 何時の時代も『恩』や『施し』を軽く考える人は居るが、『剣王立志伝』では……いや、察せられる時代設定から考えて、けして不思議な事ではないと白坊は思う。


 何故なら、ここではあっさり人が死ぬからだろう。現実の方の歴史が、それを証明している。


 現代では子供の成長を祝っての七五三も、子供は神の子とも言われていたかつての時代では、本当にそれぐらいあっさり子供が死んだりするのだ。


 大人とて、例外ではない。風邪を拗らせてそのまま……というのも、けして珍しい話ではなかったのだ。


 だからこそ、命を助けるという行為に誰もが胸を打たれてしまう。門番が心より関心してひとっ走りしてくれたのも、単純にミエを知っていたからではない。


 時には面子の為に命を掛ける武士ほどではないが、町民たちの間にもそういった感覚が根付いていると思われる。


 ……故に、命を助けた白坊が望めば、断り辛いのだ。


 下手すれば自分も命を落とし掛ける春先の雪山より、命がけで救い出してくれた男の頼み。


 見るからにロクデナシならともかく、助けられたミエが心を許しているのは傍目にも明白。運悪く、町中を通った事で目撃者も大勢いる。


 婚約者や恋人が居るならばまだしも、ここで嘘を付いて誤魔化すのはリスクが高い。最悪、大恩を無下にして追い返す夫婦と周囲に思われかねない。


 それ故に……両親は無言のままに、そっと……盆に乗せた袋を差し出した。


 当然、中身など知る由もない白坊は首を傾げる。同じく、事態を呑み込めていないミエが、そんな両親の反応に小首を傾げ……直後、大きく目を見開いた。



「……これは?」



 ミエの反応が気になるが、今はまず目の前の袋だ。



「どうぞ、お納めください。私どもが出せる、精一杯でございます」



 促されたので、とりあえず受け取った白坊は中を見やり……なるほど、と内心にて溜息を零した。


 ――中に入っていたのは、紐で束ねた貨幣だ。


 それも、現実の方では『四文銭(しもんせん:昔の日本の貨幣で、だいたい100円ぐらい)』と言われているソレに、よく似ていた。


 如何ほどの価値なのかは分からないが、安い金額ではないだろう。けれども同時に、白坊は……ミエが驚いた理由も何となく察した。


 ――はっきり言えば、これはこの世界においては、かなり失礼な行為であり、相手によっては侮辱と受け取るほどの行為だ。


 何せ、このお金の意味は『これで恩に報いた。今後は家へのちょっかいはするな』というもので……簡潔にまとめるなら、お礼を兼ねた手切れ金である。


 仮に白坊が武士の立場であったなら、刀を抜いていただろう。


 本当に金目当てなのか、情けを掛けたのかはさておき、一方的に『お前の善意の目的はコレだろう?』と決め付けられたに等しい……察しの良い者なら、機嫌を悪くするような話である。


 ……。


 ……。


 …………とはいえ、だ。



(これだけ美人な娘なら、大店(おおだな:今で言う表通りに店を構える人気店)の良家だけでなく、何処ぞの大名からも妾として呼ばれても不思議じゃないし……)



 そんな気まずい空気が流れる最中、金を積まれた白坊はと言えば……特に、気を悪くしてはいなかった。


 おそらく……いや、確実に、感覚というか、考え方というか、培ってきた常識が根本から違うせいだろう。



(……まあ、変に後腐れを残すよりはこっちとしても気が楽かな。むしろ、無一文の身としては、こっちの方がずっとありがたい)



 口にも態度にも出すつもりはないが、それこそが、白坊の偽りの無い本音であった。


 基本的に、良くも悪くも女を神聖視していない白坊にとって、美しい女というのは鬼門以外の何物でもない。


 本人にその気が有ろうが無かろうが、世の男どもを吸い寄せる魔性の女は……失礼な話ではあるが、遠くから見物するに限るというのが白坊の結論であった。



「……それなら、お気持ちとして半分だけ受け取ろう。残りの半分は、堀の外……離れた所でも構わないから、そこに住めるように口添えしてくれないか?」



 ――なので、白坊はさっさと金を手に入れる方を選んだ。



 事実として、文無しである白坊がこの町で取れる手段は多くない。働こうにも、この世界の常識を知らない白坊が下手に動いて、事態が好転するとも思えない。


 何せ、白坊が有している知識は、少なく見積もっても今より数百年後の知識。知識とは、それに見合う土壌が揃ってこそ力を発揮する。


 少なくとも、現時点では下手な事はしないに限る……まずは、地盤を固めてからだ。


 とりあえず、『じたく』という強力なアドバンテージがあるのだから、それを利用して……そう、白坊は冷静に考えるのであった。


 ……。


 ……。


 …………ただ、そのようにして今後の事を考えていた白坊だが、二つほど気掛かりな事があった。


 まず一つ、明らかに機嫌を悪くしているというか、両親に対して思う所があると顔に出ているミエの反応。


 そして、二つ目は……暗黙の渦中の人であるサナエが、微笑むばかりで何一つ発言していない……これに尽きた。


 察しが悪く理解出来ていないのであれば、何の問題もない。


 だが、仮に、全てを理解したうえで微笑んでいるのならば……何とも不気味ではないだろうか。


 ……ある意味、だ。


 薄らと違和感を覚えつつも、状況も機微も上手く理解出来ていないモエの無邪気な姿だけが、この場の唯一の癒しだったのかもしれない。


 そう、白坊は……内心にて溜息を零すのであった。






 ――さて、住む場所の件だが、思いの外早く話は進んだ。


 やはりというか、雪山より命がけで娘を連れ帰ったという点が、役所(と、呼ぶのかは分からないが)の警戒心を解くキッカケになったようだ。


 もちろん、だからといって検分に手心を加えて貰えるかと言えば、そんなわけがない。


 何と言っても、白坊の存在自体が怪しさの塊であるから。当人にその気が無くとも、異質であるのは事実であった。



 まず、何と言っても身なりが不自然なぐらいに良い。



 これは豪華な衣服に身を包んでいたり、身分が明らかに目上の存在であるとか、そういう話ではない。


 有り体に言うなれば、身綺麗過ぎたのだ。


 現代とは違い、刀が主流武器の時代において、身綺麗にする……すなわち、入浴という行為は非常に贅沢な事なのである。


 というか、毎日入浴するのが当たり前な認識になったのなんて、昭和の後期になってからだ。


 何故かといえば、湯を沸かすというのは非常に燃料を使うからだ。はっきり言えば、『ガス』が普及しなければ内風呂なんて早々作れるモノではない。


 そして、白坊の所作の良さも不自然だと思われた。


 というのも、役人曰く、白坊のように身一つで都会に出てくる者は、予め決められているかのように三つに分かれているとの事。



 一つ目は、田舎の苦しい生活に嫌気が差して、半ば逃げ出すように出てきた者。


 二つ目は、悪事などを働いて故郷に居られなくなり、捕まるのを恐れて逃げてきた者。


 最後の三つ目は……様々な事情のせいで身を隠す為にやってきた者……である。



 この内、一つ目の者は例外なく所作を分かっておらず、貧相な身なりをしているので、見ただけでもすぐに分かる。


 二つ目は、もう雰囲気だけでなく見た目が堅気と異なっているからすぐに分かる。分からない大物も居るが、だいたい分かる。


 そして、三つ目の場合。


 だいたいは二つ目に通ずる類の人物ではあるのだが、中には思いもよらぬ大物が紛れている事があるらしく……そのうえで、白坊はそれらしくないと言われてしまった。



 役人曰く『何かしらの教育を受けているのが見て取れるのに、どうにも無知が過ぎる。正直、わけが分からない』、であるらしい。



 刀を所持しているので、武家かそれに近しい家柄の者だと初見時には疑ったらしいが……それも、すぐに違うと判断した。


 その理由は、白坊が素人同然……失礼、つまりは『あまりに我流過ぎる』という、その道の者には一目瞭然の身のこなしであったからだ。


 何と言えばいいのか、けして悪く言っているわけではない。


 ただ、鞘から刀を抜く様や構え方や足運びを始めとして、剣術を修めているにしては、白坊のそういった所作は無駄が多過ぎてお粗末に過ぎた。


 これが演技であれば大したものだが……それ故に……なのかは不明だが、白坊が『稀人』であることはすぐに役人たちへ露見する事となった。



 ……いや、まあ、『お前は稀人か?』と直球で尋ねられて、思わず『どうやら、そのようです』と答えたからなのだが……まあいい。



 その際、色々と尋問(めちゃくちゃ怖かった)されて、色々な事を偽りなく話した。リスクとか考える余裕など、なかった。


 とにかく下剋上や謀反の意思は無く、根無し草な暮らしを辞めて腰を落ち着けたいし人恋しいからと切々に白坊は訴え続け……何とか突破した後。




 ――土地を貸すので米などを作り、定期的に税を納める事。理由なく納められない場合は、罪人として捕らえるとの事。




 という、色々言われた中でも特にそれだけは念入りに、これでもかと念押しされた後……ようやく、1人になった白坊の前には。



(……見事に何も無い。これ、土地を貸すというより、面倒になったから追い出されたって言うのが正しいんじゃないかな?)



 田や畑があるわけでもなく、何一つ整備されていない(それどころか、整備した事すら無いのでは?)、ありのままの自然が、そこには広がっていた。


 ……いや、まあ、文句を言っているわけではない。無茶を通したのは、白坊の方なのだから。


 いくら『家屋はいらないから、とにかく早く』とだけ話したとはいえ、当日中に土地を貸して貰えるなんて、現代でも不可能な仕事の速さだ。


 なので、そこらへんの一切文句は無い。むしろ、褒め称えたいぐらいだ。



 ――けれども、これはいくら何でもなさ過ぎではなかろうか?



 道が通っているわけでもなく、通りに面しているわけでもなく、木々が生えているわけでもない。


 だから、周囲に人通りはおろか影すらなく、ひゅるりと通り過ぎる春風が身に沁みる。まだ、山中に居た時の方が賑やかなぐらいだ。


 それぐらい、本当に何も無いのだ。はるか後方に今しがた己が居た町が有るだけで、右も左も前にも、家屋が一件も建っていない。


 町の外がそうなっているかと思ったが、全てがそうではない。


 その証拠に、こことは違う場所……遠く離れた所に見える田や畑……使える場所は片っ端から残さず使っているのが素人にも分かる。


 というか、『剣王立志伝』に限らず、実際の江戸時代でも町の中心より離れれば、田んぼや畑でまとめられた一画が普通に有ったりする。


 つまり、農薬などが開発され、様々な地域で大量生産が確立されるまでは、それぐらいしないと供給が追い付かないのだ。


 なのに、ここだけは手を付けていない。広さは、相当にあるのに。


 ぽっかりと、手付かずな空間が広がっていて……雑草が生えている時点で、不毛の大地というわけではないのに……だ。



 只々、意図的な空白が残されているかのような、不思議な場所であった。



 はっきり言って、白坊が『じたく』というチート的ミラクルパワーを持っていなければ、そのままのたれ死ねと言われているに等しい状況であった。



(……手を付けていない理由はあるんだろうけれども、分からん。水路が通されていないあたり、かなり初期の段階から放置されていた……のか?)



 正直……他の場所にしてほしいと思った。


 でも、言うのは止めておいた。


 だって、役人たちの顔が物語っていたから。



 ――嫌なら、出て行けばよい。



 それはもう冷たく、吐き捨てるような眼差しだった。


 結局、『欲をかくんじゃないぞ!』とだけ忠告を残した後、役人たちはさっさと町へと戻って行った。


 ……。


 ……。


 …………まあ、いいか。



(とりあえず、住んでもいいって認めてもらえただけで良しとしよう)



 ひとまず、そう己を納得させた白坊は……残されたお金が入った袋を見つめ……大きく、伸びをすると。



 ――とりあえず、今日はゆっくり休みながら……明日に何をするか考えておこうか。



 そう、結論を出して……『じたく』にて、すっかり見慣れた我が家を眼前に設置したのであった。

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