【完結】10年と31ヶ月あれば・・・

西東友一

第1話

 ボクはカボチャ。

 ただのカボチャ。


 そうは言っても、皮が緑で中身がオレンジ色のカボチャじゃなくて、西洋のカボチャだから外側も内側もオレンジ色のカボチャだよ。

 生まれたのは10月31日。

 ハロウィンの日さ。


 ボクは10歳なんだけれど、10年前に6歳のカナちゃんに造ってもらったんだ。

 それから、毎年毎年、ボクの中にロウソクを灯して、オーランタンになれますようにって祈ってくれているんだ。


 ・・・ここだけの話だけどね。

 なんと、あと31ヶ月でボクも魂が籠ってオーランタンになれるんだ!

 凄いでしょ!?

 

 これも、なにもすべてカナちゃん願ってくれたおかげなんだ。

 カナちゃんには作ってもらったことも感謝だけど、毎年欠かさず、ロウソクを灯して、祈ってくれることも大感謝なんだ。


 だから、オーランタンになったらカナちゃんの望みを叶えるんだ。

 カナちゃんと一緒に踊って。

 カナちゃんと一緒に歌って。

 カナちゃんと一緒に遊んで。

 カナちゃんをいっぱい楽しませるんだ。


 これは、カナちゃんの願い。

 それは、ボクの願い。

 あれは、二人の願い。


 



 二人の願い・・・だったのに。


 

 

 いつからだっけ。

 キミがただただ、ロウソクを灯すだけになったのは。

 いつからだっけ。

 キミがボクに祈らなくなったのは。

 



 10年を区切りに夢を諦める人はたくさんいる。

 10年を区切りにするって言って、5年を過ぎた頃には夢を諦めて、惰性で10年までやって辞める人もいる。

 10年経つ頃には夢なんて考えるのが辛いって、心を殺して仕事にしてしまう人もいる。


 どうして?


 夢は逃げていかないのに。

 わずかな一歩でも近づいているのに。

 なんで、キミの方から先に逃げて行ってしまうの?


 他人が無理だと言ったから?

 自分の能力の限界に気づいたから?

 自分が衰えて来たから?


 10年も頑張って来たじゃんって、結果出てないし、途中諦めて手を抜いていたじゃん。

 10年以上もやれば、潰しがきかないって、今ここで終わらせれば無になるとか思わないの?

 10年も経つと事情が変わるって、いつまでも変わらない願いじゃないの?


 歳を取ってから、俺だって、私だってやればできた、とか言わないよね?

 そんな言葉、夢を掴んだ人は使うかな?


 あぁ、あと31ヶ月。

 31ヶ月。キミが本気で願ってくれていれば、ボクはオーランタンになれたのに・・・。

 あーぁ、あーぁ・・・

 期待して損しちゃったよ。


 キミにはがっかりだ。

 ずーっと、キミを信じて待って来たのにさ。

 これだから、人間は嫌いだ。




 アレっ?



 

 ヒトのせいにして、何もしてこなかったのはボクだったのかな・・・




 10年と31ヶ月目の日。

 カナちゃんのパパがハンマ―を持ってやってきた。

 あぁ、どうやら、ボクはここまでのようだ・・・。


 


 あっ




 新品のカボチャのオーランタンが飛んでいく。


「キキキキキッ」


 ボクを見て笑う。

 あいつの目が言っていた。


 才能がある自分は一瞬でオーランタンになれた、と。

 

 あぁ・・・切ない話だな、才能がないって・・・。

 カナちゃんのパパがハンマーを振り上げる。




 ボクは・・・



「キキキキキキッ」


 笑えた。


「うわっ」


 カナちゃんのパパがびっくりして尻もちをつく。もう一踏ん張り気合を入れると、体ができた。


「キキキキキキッ」


 嬉しいな。

 ボクもオーランタンになれた。


「キキキキキキッ」


 ボクは新品の彼の元に行く。

 簡単にオーランタンになれた彼と、10年と31ヶ月でオーランタンになれたボク。


 お互いオーランタンなる夢を叶えたボクら。

 才能は彼の方があった。

 少しやきもち妬いてしまう気持ちもある。

 でも、無いものねだりなんか僕はしない。


 だって、今のボクの方が絶対嬉しい。

 オーランタンになってからどう楽しむかもいっぱい考えてあるんだ。


 月日は戻らない。

 だから、これからの人生をめいいっぱい楽しむんだ。


 Fin

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