第5話

あれから夏が過ぎ、秋も行き、冬が来て、

一月も終わろうとしていた。

テンの毎日は表向き何も変わらないように見えたが、その実、テンの頭脳は着実に六年生の勉強を習得し、多くの書物を読み、多くの知識を吸収していた。

山田先生が用意してくれる練習問題は、枚数も多くなり、いよいよここでの学習が終わりに近くなって仕上げの段階に来ている事をテンはテンなりに感じていた。

もうすぐ二月になる。

二月になったら節分の次の日は、テンの誕生日だ。

教会に通うようになって、誕生日を祝って貰う事を知った。

そして二月三日の二ヶ月後には、テンはいよいよ中学校に入学するのだ。

本当に今度こそ学校に行くのだ。

皆に混じって勉強するってどんな感じだろう。学校がどんな所か知らないテンにとっては、今は楽しみよりも初めての戦に出て行く若武者のような心境だ。

教会で勉強して来た事がどれ程通用するのか解らない。

自分は皆について行けるだろうか?

山田先生は大丈夫と太鼓判を押してくれるが、テンには不安がある。

勉強だけではない。他の事、全般が心配の種だ。

あれから何回か袋の世界の子供達といろんな遊びを体験したけれど、あの世界は初めからテンの身内のようなもので、テンにはどこまでも優しく味方してくれる人達ばかりだ。

だが現実の世界は恐らく、そんなに好意的ではないだろう。

覚悟はしているが、実際に飛び込んでみなければ解らない。

自分が長い間望んでいた学校に行って勉強するというその日が近づくに従って、ひたひたと緊張感が押し寄せて来る。

だが、ここで逃げる訳には行かない。

逃げるという事は負けるという事だ。

高い崖から深い滝壺に飛び込むつもりで飛び込んでみるしかない。

中学に入学した後はどうなるだろう。

恐らく工場の木屑拾いに行く事は出来なくなるだろう。

という事は監督とも会えなくなる。

そして今までのように、教会に通って勉強する事もなくなるだろう。

神父様や山田先生に今までのように会えなくなるだろう。

今までようやく整えた生活のリズムは、まるっきり別なものになるだろう。

テンはその日の事を想像するとまた一人ぽっちで冷たい風に吹かれるような淋しさを感じた。

この教会に来るのも中学へ行くまでの間だと思うと、時の進むのを止めたい気持ちにさえなる。

僕はまだまだ弱虫なんだナー。背丈だけ伸びても昔とおんなじ弱虫の子供なんだナー。

むしろ恐いもの知らずだった頃よりもいろいろな事を知った今、かえって弱虫で臆病になったかも知れないと思う。

こんな気持ちで中学生をやっていけるのだろうか。

頬杖をついて、立春とはいえ、まだまだ寒そうな外を見て考えていた。

そこに神父様と山田先生が入って来た。

「テン、今日はテンの誕生日ですネ。お誕生日、おめでとう!」

神父様がオーバーに言った。

山田先生も笑っている。

テンは深々と二人に向かって頭を下げた。

ここまで来れたのはこのお二人のお陰なのだ。

山田先生は、急に背丈がグンと伸びたテンを眩しそうに見ながら、

「テン、いよいよだナ。

今日はその事で話したい事があって来たんだ。近々、君の所に校長が行くだろう。

それは君が中学に行く気持ちがあるがないかの最終確認の為だ。

校長は君の事を充分承知している。君の保護者の事も承知している。

校長はうまい具合に君に質問するだろう。

その時は、保護者の目の色を気にせずテンの本当の気持ちを答えるんだヨ。

何も卑屈になる事はない。ごく自然に堂々とはっきりと自分の意志を伝えるんだヨ。

あとは何も心配いらない。校長はなかなかの人だからネ。

君に余計な精神的負担をかけないように制服やら教科書やかばんの事まで。費用の事や、買って用意して貰うものをしっかり考えて、敵が何も言えずに用意するように持って行ってくれる筈だ。

テンは何も心配する事はないんだヨ。それでも敵があれこれ妨害するようなら、神父様を通して言ってくれ。

テンが中学に入学して落ち着くまで、友達が出来てテンの気持ちがはっきり明るい方に向くまで、君が、もういいやあまり干渉して欲しくないと言うまで、神父様も私も君の本当の保護者のつもりなんだから。

いいネ、テン。だから不安はあるだろうが、今までのように本当の君らしく淡々と進んで行って欲しい。」


山田先生の言葉はいちいち、テンが入学を前に心配していた事だった。

これから初めて出会う同級生に対する不安や、中学入学にあたっての制服や教材、その費用等についての不安をしっかり気遣ってくれる話だった。

「テン、君は頭脳は優れているが、心はまだまだ小学六年生なんだ。しかも、いつも傍にいて守ってくれる両親も身内もいない。不安に思ったり心細くなるのは当たり前だ。何も恥ずかしい事はないんだヨ。

テンはまだ小学六年生だ。テンは心細くて弱くて当たり前なんだヨ。」と幾度も念を押した。

テンは、僕の顔に心細さが現れているのだろうか。そう思いながらも、先生の言葉を聞いて安心した。


山田先生が言っていた通り、その二日後にテンが木屑を拾い集めている所に吉本のダンナがお客様を連れてやって来た。

吉本のダンナは背が低くてずんぐりしているが、一緒の年配の人は背が高く身なりもきちんとして立派に見えた。

何よりも穏やかな表情が吉本のダンナとは大違いだ。

二人はまっすぐにテンの所に来たので、テンは咄嗟にこの方が校長だと思った。

テンは仕事の手を止めて、二人に対して深々とお辞儀をした。

吉本のダンナはそのお辞儀が気に食わないようにテンをねめつけている。

一緒の紳士が、「こんにちは、天子君だね。」と話し掛けた。

テンは、「はい。」とだけ答えた。

「私は、ここの小学校の校長をしている者です。」

子供のテンに対しても丁寧な物言いをする人だ。きっと立派な人なのだろう。

テンは背筋をしっかり伸ばして、まっすぐに校長の顔を見た。

どんな人でも、その目を見るとその人の人となりが解るような気がするからだ。

校長もテンと同じくテンの目をじっと見た。

二人は何秒かお互いの目と目を合わせた。

吉本のダンナはその様子を増々気に入らぬように見ている。

やがて校長が話し始めた。

「君は今まで一度も小学校に来なかったネ。いろいろ事情があるのかも知れないし、また子供という物は得てして学校が好きではないらしい。

私の耳にもそこの所の事情はいろいろ入ってきているが、今までの事は今までの事にして、人の心は成長するに従って変わるものだから、君ももう小学一年生の頃の君じゃない。自分の将来の事も考えられるようになって来た筈だ。

そこで私は改めて君の意志を聞きに来ました。

いくつか質問するが、これはこれからの君にとってとても大事な事だから、よーく考えて質問に答えてもらいたい。」

テンは、はっきりと「はい!」と言った。

吉本のダンナは驚いた目をしてテンを見た。

いきなりの校長の訪問は、馬鹿で阿保のテンにとっては戸惑ってオドオドしてろくに返事も出来ないだろうと高を括っていたのだ。

校長は、「まず君の本名を教えて下さい。」と言った。

「天子天水です。」

「それでは、生年月日が言えますか?」

「はい、明治三十五年、二月四日生まれです。」

「君は、今まで小学校に一度も来ていませんが、これから中学校に通って勉強したいか、それともしたくないか今の気持ちを聞かせて下さい。」

「僕は勉強がしたいです」テンははっきり答えた。

吉本のダンナは顔を真っ赤にしている。

「君は本当は今、小学六年生の筈です。君と同い年の子供達はこの四月から中学に入学します。君はどうしたいですか?中学に入学したいですか?」と聞いた。

吉本のダンナが横から、

「それは無理でしょう、校長。字もろくに書けないテンがいきなり中学に入学なんて無理でしょう。それともこれからちんちゃい子供等と小学一年生からやり直すというなら別ですがネ!」

そう言いかけるのを遮るようにピシャリと、

「今は大事な質問をしています。天子君、君は中学に入学したいんですか?それとも入学したくないのですか?」


「中学に入学します。勉強したいです。」とテンははっきり答えた。

吉本のダンナは呆気にとられた顔をした後、

「校長、それはテンがあんまり可哀想ですぜ。いくら何でも今からじゃ無理ですヨ。」と言った。

校長はそういう吉本のダンナをジロリと見下すと、

「今の教育制度では勉強の意欲のある者にはいかなる者も入学を許可するという事になっているのです。

ですが、中には入学してから勉強について行けない者もいるでしょう。

途中で辞めてしまう者もいるでしょう。それは、しかし本人次第なのです。

小学校に席のあった子供の全てに入学の意志のある無しを確認して、意志のあるものを中学に送り出すのが私の務めなのです。

天子君の意志は確認されました。

これからは学校に戻って、中学入学へ向けてもろもろの手続きの書類を作成しなければなりません。

吉本さん、今までの事はともかくも、天子君は勉強の意欲を取り戻したようです。あなたも保護者として喜ばしい事でしょう。」と言って、

今度は吉本のダンナを真正面にして、

「入学の準備についてはあなたの実子の吉本君も同じく、この春入学ですから先刻ご承知でしょうが、制服、教科書、運動服、靴等。必要な物いっさいがここに書かれてあります。費用も解りますネ。

それと天子君は今まで学校に通った事もなく、何も持っていないでしょうから、辞書も必要になると思います。あと筆記用具等。あれこれ必要な物をここに書いておきました。

初めて学校に行く彼の為に揃えてやって下さい。それでは私は急いで学校に帰らねばなりませんのでこれで失礼します。」

「吉本さん、くれぐれも入学の準備、制服の準備もありますからね、急いだ方がいいですヨ。」

校長はそれだけ言うとテンを見て、表情ではなく、目でニヤリと笑ったように見えたが、サッサと帰って行った。

吉本のダンナは校長を一人そのまま帰らせる訳にも行かず、見送りする為に急いで後を追い掛けて行った。

テンは呆気にとられていた。

あのずる賢い吉本のダンナに有無を言わせず、タッタッタとテンの意志を確認して、しかも入学時の準備に関しても口をはさむ余地を与えないで、辞書の準備までさせるとは凄い人だとテンは思った。

山田先生が言っていた通りの校長だと思った。

あーあ、あの校長先生や山田先生のいる学校で勉強したかったナとテンは他の子供達を少し羨んだ。

世の中にはあの校長のような人もいるのだと解った事で、テンは勇気が湧いて来た。

世間には悪い人もいるけれど、神父様や山田先生や校長や監督のようにいい人もいるのだ。とにかく自分が出来る限り頑張ってみよう。

それしかテンには道はないのだ。



その何日か後に、下女が洋服屋を案内して土蔵に連れて来た。

中学の制服の寸法をとる為だ。

下女は洋服屋を案内するとすぐに帰って行った。

やせた中背の洋服屋は、薄暗い土蔵に恐る恐る入って来ると周りをグルリと見回して、

「ぼっちゃん、ここにお一人で?」と聞いた。

テンは、「そうだヨ、僕一人だヨ。びっくりした?」と笑って言った。

何だか一目見るなり、この人は悪くない人だという気がしてテンも気安く返事をしたのだ。

「へー、そうですか。成程ネー、へ~?」とやたらに一人で頷いている。

「ぼっちゃんは中学に入学なさるんですってネ。良かった、本当に良かった。」

しきりに良かった、良かったと言ってから、

「ぼっちゃん、ここだけの話、頑張って下さいヨ。

吉本の息子になど負けちゃいけませんヨ。」と言う。

テンは笑って、「僕、その吉本君と話をした事がないから。」と言うと、

「何か特別に家庭教師をつけているらしいって話を聞きましたがね。父親によく似た…。とにかくアレですヨ。あっ。これは内緒、内緒。」と言って、テンの寸法を取り始めた。

肩幅や袖丈や、ズボンの丈を測りながら、

「実はネ、これも内緒なんですが、私のオヤジは坊っちゃんの御父上や、お祖父様には随分お世話になっているんですヨ。よく洋服を作らせていただいたそうです。」と言った。

テンは、「えっ?僕のお父さんやお祖父さんを知ってるの?」と聞いた。

「はい。お二人共とっても御立派な方で、特に坊っちゃんの御父上の事をうちのオヤジは紳士の中の紳士だと言っておりました。」

「僕のお父さんを知っている人がいたんだ。会って話を聞きたいナー。」と言うと、

「残念ながらオヤジは亡くなって二年になります。」

テンはがっかりしたが、父親や祖父の噂を聞けたのは嬉しかった。

寸法をとって帳面に書いた後、片付けながら洋服屋は土蔵の中をまたジロジロ見ながら、「坊っちゃん、着替えはこれだけですか?」と聞いた。

内壁に渡した縄に干された着古したヨレヨレの僅かな肌着を見て言ったのだ。

テンは笑いながら、

「そうだヨ。まだ僕、子供だから働いて買えないからネ。」と言った。

この男の人には何でも素直に言えそうな気がした。

洋服屋は気の毒そうな顔をした後、改まったように声に力を入れて、

「坊っちゃん、悪い者が永く栄えたためしはありません。いつか、いつか必ず坊っちゃんの時代がやって来ます。

私は坊っちゃんを応援してますヨ。これも内緒ですけどネ。」と口に人差し指を立ててニヤッとした。

そして見本等が入ったカバンを開けて、「これも内緒ですが、坊っちゃんに特別に前もってこれを差し上げます。肌着の替えはいくらあってもいいでしょう?」と上と下の肌着を二枚ずつ、くれた。

テンは、「こんな事して貰っても僕、お金がないから。」と言うと、

「これは私からの入学祝いですヨ。お金はいりません。

また制服が出来上がってお届けする時には別に上・下一枚ずつ入っています。

それはどなたにもサービスしているんです。でも、今日のこれは坊っちゃんだけに特別ですからネ。」と言って、また人差し指を口に立ててニヤッとした。

洋服屋が帰った後、テンは何故か自分が少しも緊張せずに素直に人と話が出来た事が堪らなく愉快だった。

神父様や山田先生や校長や監督の時よりも、肩の力を抜いて思う事を思うままに言えたのが何よりも愉快だった。

これが本当の自然な自分のような気がした。僕はこうしているのが楽なんだ。

テンはしみじみそう思った。



四月に入った。

いよいよ明日が入学式という日、テンは工場の監督の所に行き、辺りに人影がないのを確かめると側に歩いて行った。

話をするのは暫らくぶりのようでもあり、またこれからはなかなか会えなくなると思うと胸がいっぱいになった。

しかし、感謝の気持ちはしっかり伝えなければと思った。

「監督、本当にお世話になりました。明日、入学します。これも全て監督のお陰です。いつも昼ご飯をありがとうございました。この事は一生忘れません。」と言って挨拶をしていると、

監督が誰か来るのに気付いて小声で、

「テン、頑張れ!応援してるぞ。」と早口で言った後、


「ああ、御苦労さん、わざわざ来なくてもいいのに。」と大声で言うので、振り向くと吉本のダンナだった。

二人が何を話しているのか疑い深そうな目で見ている。

テンは驚いたが、ただ黙ってお辞儀をしてその場を離れた。

ダンナが監督に、「テンは何を話していた?」と聞いている。

監督が、「なにネ、明日からは中学に行くから工場の木屑拾いには来れないと言いに来たんですヨ。律儀な所もあるんですネ。」と言うと、

ダンナが、「何が律儀だ!」と憎々し気に言っているのがテンの耳に聞こえた。


いよいよ入学式に当日になった。


前の日テンは、教会に行ってお風呂を沸かして貰って、その前に長く伸びた髪の毛を牧師様に切って貰い、お坊様のようにすっかり頭を剃って貰った。

髪の毛はいずれ伸びるものだし、気持ちを新しくするためにもその方が良いと自分でも思ったのだ、頭も体もさっぱりとして、鏡に映る自分を見ると、随分変わったナと思った。

神父様や山田先生は、入学式に誰かがついて行った方がよくはないかと心配したが、テンは断った。

山田先生はもちろん忙しくて無理だし、背の高い外国人の牧師様が来ると、誰の付き添い?と皆から注目されて、テンが秘かに教会で勉強していた事が知られてしまうし、これから何かと牧師様に迷惑がかかるからだ。

それに一応保護者は吉本のダンナになっている以上、他の人間がついて行くのは良くないと考えたからだ。

入学式当日、朝早くから着替えを済ませると、テンは吉本のダンナ一家が住む母屋の方へ行って皆が出て来るのを玄関の前で待っていた。

そこの場所はとても懐かしい気がした。

物心ついてからは一度もここまで来た事はないが、この場所には確かに覚えがある。

この右手の生け垣の所を入って行くと、きっとそこには広い庭がある筈だ。

そうだ、そこでテンはお父さんやお母さん、お祖父さんやお祖母さん。それからおきよと遊んだような気がする。

おきよ、どうしているだろう。懐かしく思い出していると、急におきよの名前とその人の存在が蘇って来たのは不思議だった。

待っていると玄関の戸が開いて、まず吉本のダンナの息子が不機嫌な顔をして出て来た。

次に吉本のダンナが珍しく背広を着てネクタイをして出て来た。

やはりいつものように文句っぽい顔をしている。

最後に婦人だろう。ダンナによく似たタイプの背のあまり高くない女の人が着物を着て出て来た。

テンは三人が揃うと帽子をとってはっきりと、

「おはようございます。よろしくお願いします。」と挨拶をした。

頭を青々と剃り上げて清潔そうに変わったテンの姿を見て、吉本のダンナは驚いたようだった。

女の人は、「あら、おはよう。きちんと挨拶が出来るのネ。」と笑った。

テンは、この人はダンナ程には悪い人ではないらしいと思った。

息子の方は始終、黙っていた。

一言も何も言わないが、時々チラッチラッとテンの方を盗み見するような所が、父親の吉本のダンナに似ているような気がした。

テンはそれには気付かないようなふりをして一緒に歩いて行った。


何と言っても、学校へ行くのは生まれて初めてだし、どこに靴箱があるのか、どこに教室があるのか、何をどうするのかまるで解らないから、今日は例え吉本のダンナ一家でも一緒の人達がいるのは有難かった。

中学校はテンのいる所から見ると、小学校よりかなり遠くにあった。

それでも歩いて通えない距離ではないとテンは思ったが、

「ここまで歩くのは毎日は大変だナー。」とダンナが息子に話している。

息子はボソボソ何か言ったが、何を言っているのかテンには解らなかった。

テンたちが入学する中学校は男子だけの中学で、その中からは日本一のあの帝大に進学するという県内一の有名な進学校に毎年三人や四人は送り出している中学校だった。

つまりここの中学で良い成績をとれば、その有名な進学校に進み、その進学校で上位の成績を修めれば、やがては国で一番のあの大学に入るのも夢ではないという事になるのだ。

だから子供の親達は、特に入学したての親達は、自分の子供に夢を持ち期待をかけて、試験の成績がどれ程の位置にいるのかを真剣に見守る事になるのだった。

一学年のクラスは三クラスあった。

玄関の入った所に組み分けの紙が貼ってあって、テンも吉本のダンナの息子もその張り紙を見た。

テンの名前は一組の一番最初にあった。

名前があいうえお順なので、天子という姓は最初の方になるのだ。

相沢とか秋川等の名字の者がいたら一番ではなくなるが、一組はテンが出席番号が一番だ。そして偶然にも吉本のダンナの息子も同じ一組に名前があった。

吉本という苗字は後ろの方にある。

吉本のダンナはそれを苦々しい顔で見た。天子天水という名前は堂々として見える。

誰もがこの天子天水という子供はどんな子供だろうと思うに違いない。

テンは自分の名前は嫌いではないが、こうして見るとあまりにも目立ち過ぎて困ったナと思った。

これで勉強が出来なかったら本当に笑い者だ。少なくともそれを笑ってやろうと楽しみにしている人間はいるのだ。

式に出る前、生徒はそれぞれの教室に入って席に座った。

テンはクラスの中でも背の高い方だった。

一番高いのではないが、すらりと伸びて姿勢が良く、あの長い髪を始めてお坊様のように丸刈りにした頭は、青々として形が良く、姿勢の良さと顔立ちの良さも相まって嫌でも目立つのだった。

それに引きかえ、吉本のダンナの息子は背も中より低く、ずんぐりとした体形や顔立ち、それに人の事を正々堂々と前から見るのではなく、盗み見るような卑屈な眼つきは父親に似ている。

それでも性格が良いのならいいが、洋服やが、“親に似てアレなんですヨ”と言っていたように、性格も悪そうで、自分の顔見知りの友達と何かコソコソ話し合ってはテンの方を見て笑っているらしく、嫌な感じを受けた。

テンは、吉本のダンナの息子は自分に対して何らかの敵意を持っている事を直感した。


気をつけよう。

足をすくわれないように気をつけよう。

テンはまず最初にそう思った。

グルリを見回すと、どの子も同じように見える。

テンの気持ちのせいか、誰もがよそよそしく見える。

この中に自分の友達になる人間はいるのだろうか?

どの子もテンと友達になるような生徒はいそうにない。テンは相変わらず自分が独りぼっちなような気がした。

最初から期待はしていなかったが、それでも改めて独りぼっちの淋しさはこれからの中学校生活が孤独なものになるだろうと想像させた。

気のせいか後ろの方から突き刺すような視線を感じる。

誰だろう、気のせいだろうか?それとも他にも自分に敵意を持っている者がいるのだろうか。

誰だろう?テンはあちこち見ないようにして目を閉じ、呼吸を整えた。

やがて担任だという中年の教師が式に出る為、皆を呼びに来た。

一組から体育館に入って行った。

テンは出席番号が一番最初なので、担任の後に従って体育館に入って行き、担任が誘導するまま席に座った。

これが学校なんだ。これが自分が長い間夢見ていた学校での勉強の始まりなんだ。

覚悟はしていた事だが、顔を見知る者が一人もいない緊張と孤独感がテンの体の周りを目に見えぬ冷気のように覆って来る。

負けちゃいけない。あんなに夢に見て頑張って来た世界なのだもの。

そう自分に言い聞かせても、あの吉本のダンナ一家の他、誰一人として知る人のいないこの空気は、テンの体と心を芯から怯えさせる程冷たかった。


“起立”“礼”の掛け声とともに、初めてのテンも周りに合わせてどうにか礼をした。

テン以外の人達は全員、こんな事は当たり前のような顔をしている。

こんな些細な一つ一つの事に慣れる日がいつか自分にも来るのだろうか。

そんな事を考えていると、司会の先生が、

校長先生の挨拶ですと言った。

中央の舞台の上に数名上がっていた中から、スッと立ち上がって中央に出て来た人物を見てテンは驚いてしまった。

あの校長先生だ!

でもあの校長先生がどうしてここに?

背の高い小学校の校長が、忘れもしないあの懐かしい笑顔で皆に向かって話し出した。

この春、移動になって、小学校からこの中学校の校長として赴任して来たことを挨拶の中で話しているのも、テンは半分上の空だった。

校長先生の声はやはりあの校長先生の声だった。

中学校へ行きたいかどうか意志確認で来たあの日、帰り際にチラリとテンを見て、目だけでニヤリと笑ったように見えたのはもしかしたら、この事だったのかも知れない!

テンはあの時一瞬、ああ、この校長先生のいる学校で一日でいいから勉強したかったと他の子供達を羨んだ事が、その思いが今叶ったのだ。

テンは一瞬にして力が湧いて来た。校長の立場としてテンにだけ特別の何かをしてくれるという事はあり得ない。

だけどテンにとっては、ここの学校にあの校長がいるというだけで、ただそれだけで百人力、千人力の力を得たような心強さを感じていた。

さっきまであんなに冷たく感じた空気はどこかに行ってしまった。

心細くて不安で孤独だったテンは、今冷静になる事が出来た。

何をビクビクしている!僕は僕だ!他の誰でもない!

僕は僕らしく、今までのように頑張るだけだ!周りを意識し過ぎれば不自由だし、自分が嫌になって来る。

将来の自分の気持ちはどう変わるか知れないが、今はただ自分らしくあくまでも自分らしく頑張って歩いて行こう。


いよいよ学校生活が動き始めた。

テンが制服を着て土蔵の中にいると、若い下女が朝食を運んで来た。

見ると、ごはんの量が今までより明らかに多くなっている。山盛りに盛ってあるのだ。

下女はお膳を置きながら、

「あの、お弁当の事は何も言いつかっていませんので私の勝手には出来ないんです。」と申し訳なさそうに言った。

テンは、「いいよ、このごはんの半分を握り飯にして持って行くから。どうもありがとう。出来たら明日から中に入れる梅干しがあると助かるんだけど。」と言うと、

「それなら出来ます。今度からごはんをもっと大盛りにして来ます。それと竹の皮も持って来ます。」

「いろいろ気を遣ってくれてありがとう。」

下女は、「いいえ、頑張って下さい。」と言って走って帰って行った。

テンは、この下女も悪い人間ではないのだろう。勝手にテンに親切にするのは禁じられていて恐らくダンナの息子の為に作る弁当を見るにつけ、テンの事が可哀想になりせめてご飯の量を少し多くすることを考えたのだろう。

テンはそう思った。

それからは毎日、茶わんに山盛りのご飯の中に、そっと梅干を入れて運んで来た。

お膳の底には目立たないように笹の葉が敷いてある。

テンは、そのご飯の半分とおかずと味噌汁を食べると、残りのご飯と梅干しで大きくはない握り飯を作ってそれを笹の葉に包んで学校に出掛けた。

歩きながら、この握り飯を食べている所をダンナの息子に見られたら、あの下女が叱られるかも知れないと考えたりした。

テンは長い間に、いつの間にか慎重に行動する事を覚えた。


学校での授業が始まった。

勉強はそれほど難しいとは思わなかったが、油断してはならない。

努力を怠ってはならないと真剣に授業を受けた。

どの先生のどの話もテンにとっては新鮮で面白く、この貴重な話を聞き逃しには出来ないと真剣になった。

やがて午前中の授業が終わり、昼休みの時間になった。

テンは廊下側の席だが、窓側にいるダンナの息子がニヤニヤしてこっちを見ている。

テンが弁当を持っていない事を知っているのだろう。

テンがどうするのかを見ているのだ。

周りの一緒にいる生徒もチラチラ、テンを見ているのが解る。

テンにはその意味が手に取るように解る。どの子も、早くからカバンの弁当を取り出して広げ始めている。

テンは午前中の授業を受けた教科書を持つと席を立ち上がって教室から出た。

すると一斉に何人かの生徒の笑い声が聞こえた。

自分の事を笑っているのだろうか。それとも気のせいだろうか。

テンは自分に卑屈になるな!もしも自分の事だとしても笑いたい者には笑わせておけ!

そう自分を叱咤激励しながら廊下を歩き回り、中庭の人気のない場所を探しあてた。

人の影はなかった。

そこは生徒のいる教室から少し離れていて、一人になりたいテンにとっては落ち着ける最高の場所だった。

中庭の中に良い場所を見つけると、テンはそこに腰を掛けてポケットに入れておいた握り飯を取り出して食べた。

梅干しが一つ入っているっきりだが、テンにとってはしみじみと味わう昼食だった。

山盛りにしてくれた下女の真心を仇にしてはならない。

食べながら監督が放り投げてくれた握り飯を思い出した。

一緒に入っていた黒砂糖のかたまりを思い出した。

小さな握り飯はすぐに食い終わった。それでも腹の虫をおとなしくする事は出来る。

午後からの静かな授業中に腹の虫がグーグー言っては笑い者にされてしまうだろう。

気心の知れた友達同志なら笑って済ませられるが、今のテンにとってはそれは死ぬ程、辛い事だった。

出来るだけ目立たず、出来るだけ笑い者にならずに…と常に気を付けるしかない。

自分は自分だと気張ってみても、人の笑い者にされるのだけはイヤだ!

握り飯を食べ終わった後、持って来た教科書に目を通した。

数学の教科書だ。今日習った所をもう一度思い出し復習する。

今なら解る。そう難しくはない。これからどんどん難しくなって行くだろう。

パラパラと先の方を開いて見る。

段々難しくなって行くようだ。解りにくい所を見て、これは心してかからなければならないぞ!テン。今までのように袋のお祖父さんの所で勉強するだけでついて行けるだろうか。

とにかく教科書の最後まで一通り目を通してみる。

その姿を遠くから見ている人がいた。

その人はテンの姿を見守るように見ていた。

昼休みの時間が終わり午後の授業が始まる前に、テンは教室に戻った。

テンが席に着くと、どこかでヘラヘラ笑っている者がいる。

自分の事を笑っているのだろうか?

テン!そんなに卑屈になるな!笑いたい者には笑わせておけ!


午後の授業もどうにか終わり、緊張のあまりか通学の道のりが長いせいか、テンは土蔵に着くとぐったり疲れて、すぐにゴロリと横になった。

あんなに憧れていた学校生活はここから始まるのだ。

予想していた事だが、今日の一日を過ごしたばかりのテンにとっては、遠くて厳しくて途方もなく遠い道のりに見える。

誰か気の合う奴が一人ぐらいいたらナー。どんなにこの学校生活が楽しいものになるだろう。

他のみんなが所々にかたまって、喋り合いふざけ合っていたのを思い出すとさすがに溜息が出て来る。

一日目でもう弱音を吐いているのか!テン。情けないぞ!

お前のような境遇を解ってくれる奴なんている訳ない!期待するな!

期待するだけ無駄だぞ!

そう自分に言い聞かせながら疲れてうとうと眠ってしまっていた。

目を覚まして土蔵の扉を開けると、外には夕食のお膳があった。

テンはそのお膳を見ているうちにふと考えがひらめいた。

このご飯を朝にとっておこうかナ?

味噌汁とおかずだけ食べて、ごはんはとっておこう。そして朝は残しておいたごはんを食べると朝の分を丸々お握りにして持っていける。

土蔵の階段に置いてあるガラクタの中から縁の欠けたどんぶりを見つけた。

テンはご飯をそのどんぶりに移しておかずと味噌汁と沢庵だけを食べて、空のお膳を外に出しておいた。


そして穴の開いた袋を引き寄せると、それをするりと被った。

そしていつもの不思議な世界に立っていた。

テンは最初、お爺さんの部屋に行って勉強するつもりでいたのだが、ふと別の窓に気をとられた。

湯気のたつ鍋の前で一生懸命、何かを作っているおばさんの部屋だ。

今までは、夕飯を食べてからこの世界に来る事が多く、それ程おナカが空いていなかったし、おばさんの部屋に入るよりもお祖父さんやお婆さんの部屋、または遊びの部屋に行く事が多かった。

おばさんの部屋はそのうち、そのうちと考えていたのだ。

だけど今日は違う。

晩のご飯を明日の朝に回したせいか、まだテンのおナカの虫は満足して納得してはいないようだ。

テンが窓を覗いていると、気が付いたおばさんがニッコリ笑ってテンを手招きした。

テンは、トントントンと一応三度ノックをして「失礼します。」と言って入って行った。

おばさんは少し太めでゆったりとした笑顔を更に大袈裟にほころばせて、

「まあ、まあ、いらっしゃい。」と言った。

歓迎されている事は疑いようがない。部屋の中は湯気だけでなく、美味しそうな料理の匂いに満ち溢れている。

テンがドギマギして突っ立っていると、

「あらあら、何を遠慮しているの?テン、あなたの為にいろいろ作って待っていたんだから。」と言った。

「エッ?僕の為に?」

「そうよ。あなたにお腹いっぱい食べて貰おうと今日もホラ、こんなに作っていたのヨ。テンがなかなか来て食べてくれないから、勿体無い勿体無いと私毎日、自分で食べてこんなに太っちゃった。」と両手を広げて笑った。

それから大急ぎで、料理を盛った皿や、スープの入ったスープ皿をテンの目の前にザーンと広げて、

「さあ、まずは召し上がれ。テン、さあ食べて、食べて。遠慮しちゃ駄目よ。」と勧めるのだった。

テンは最初は空腹でつい来てしまったが、急に少し恥ずかしくなった。

だが勧められて、一口食べ始めるとあまりに美味しいので遠慮の気持ちも忘れて大いに食べた。どれも美味しいものだった。

でも、この味は昔食べた事のある懐かしい味だ。

肉料理、魚料理、卵料理、洋風のも和風のも何種類作ってくれたんだろう。

こんなに満足して旨い料理をおナカいっぱい食べるのは何年ぶりだろう。

テンが次から次へと美味しそうに食べるのを、向かいでニコニコ嬉しそうに見ていたおばさんが、「よっぽどおナカが空いていたのネ。これからは時々来るのヨ。テンが食べたいもの、何だって作ってあげる。あっ、それからテンが食べてるのを見て気が付いたんだけど、お箸の持ち方少し直さなければネ。大人になった時、変な持ち方をしていたら恥ずかしいでしょう?それと、これからは洋食の食べ方も少しずつ身に付けなきゃなりませんネ。どこに出ても恥ずかしくない紳士になる為には大事な事ですヨ、テン。

最後にテンが小さい頃、大好きだったものですヨ。」と言って、そっと目の前に出してくれた。

「プリン?」

「そうプリンですヨ。これ、小さいテンが大、大、大好きだったのヨ。忘れちゃった?」

「う、うん。今思い出した。だって随分食べていないもの。」

それを聞くとおばさんは急に悲しそうな顔をした。

「でも、その為に私がいるのヨ。おナカが空いて困った時は私の事を思い出してここに来るんですヨ。いつもテンの為に腕によりをかけて作っているんだから。」と言った。

テンはプリンを食べた。舌の上に乗せると、とろけるような味だ。

そうだ。僕はこのプリンが大好物だったんだ!と気が付いた。

今日はおナカいっぱい料理を食べて、最後には大好物のプリンを食べてテンは大変満足だった。

おばさんはテンの様子を嬉しそうに見ながら、「私が豪華なお弁当を作ってあげられたらいいのにネ。」とポツリと言った。

テンにはもうとっくに解っていた。ここでの料理は外に持ち出せない事を。


「おばさん、ありがとう。今日は本当に美味しかった。こんなに美味しいお料理を食べられる事が解ったんです。また来ます。今度来た時、正しい箸の持ち方、食べ方いろいろ教えて下さい。弁当の事、僕は大丈夫です。心配しないで下さい。」

おばさんにさよならした後、袋を脱ぐと、また真っ暗な土蔵の中に戻っていたけれどテンのおナカは満腹だった。

いい気持ちですぐに眠りに入って行った。

カタッ。

お膳を置く音で目が覚めた。

扉を開けると下女が帰って行く所だった。

茶碗に大盛りのご飯がよそってある。テンは後姿の下女に「ありがとう。」と言った。

下女は一瞬ピクリとしたが、そのまま振り向きもしないで帰って行った。

やはりご飯の中に梅干しが埋めてある。

その他に昆布を煮たような物も入っていた。きっと誰かの弁当を作った時のおかずだったのだろう。

テンはその山盛りのご飯をそのまんま握り飯にした。

そして昨日の夕方食べずにとっておいた冷えたご飯に味噌汁をかけて食べた。

冷めて硬くなっていたご飯も、まだ温かい味噌汁をかけると悪くはない。

テンは昨夜の袋のおばさんの所で食べた豪華な料理を思い出して笑いが込み上げて来た。

今日のお昼の握り飯は監督の握り飯のように大きい。

中学校までの道のりは遠い。

毎日となると大変だと、生徒の中には近くまで乗り物を使ったり金持ちの家では自家用車もあり、それで送る者もいるらしい。

また、自転車という便利なものが出回り始めて、それを買って貰う者もいると聞いた。

距離が短い者には許可しないが、テンのように遠くから通う者には許可証が貰える筈だ。だが、自転車はとても高価な物だし、勿論テンが手に入れる事が出来るものではない。

テンは歩いて通うしかない。

歩くのは嫌いではないが、かなり時間がかかる。走ったら早く着くだろうが、制服で走るのは考えものだ。

走ると汗びっしょりになるし、着替えをしないと気持ちが悪いだろうし、それに重い教科書が入ったかばんを下げて走るのはどう考えても無理に思える。

何かいい方法はないものかナー。

教会に通う時走ったように走りたいナー。あの時は着ている者も身軽だったし、重いかばんも無かった。

そして教会に着くと神父様が湯を沸かしてぬるま湯を作っておいてくれたっけ。

それを頭からザバザバかぶって体を洗って、サッパリした気持ちで勉強したっけ。

あの頃が懐かしい。

まだそんなに日が経っていないのに。遠い所に来てしまった昔の事のように懐かしくて、無性にあの頃が恋しい。

もう決して戻れない時間と場所だった事がはっきりと身に沁みて解る。

せめて、この学校の行き帰りあの頃のように思いっきり走ったらどんなに気持ちがさっぱりするだろう。どうにかならないかナー。

どこか、この制服とかばんを預かってくれる所があれば出来るのに。テンは心からそう思った。

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