第3話

神父様、

は教科書や道具を持ち帰って良いと言ってくれたけど、テンが、

「悪い神様がいて、僕が大事にしている物を留守に何でも持って行ってしまうんです。だから大事なものは土蔵の中には置けないんです。」と言うと、

神父様、は悲しそうな目をした。

だけどあの穴の開いた汚れた袋の事は何故か口に出さなかった。

神父様に秘密を作るという訳ではないが、あの世界はテンの頭の中だけの世界で、人には信じて貰えないような気がしたからだった。

それからのテンの毎日は忙しくて楽しくて、希望のある毎日になった。


後で聞いた事だが、吉本のダンナが来た時にテンの姿がないので、監督に聞いたそうだ。

「あの馬鹿坊主どうした?」と

「あれ?今までその辺いいたんですがネ。またどこかフラフラ遊び歩いているんですぜ。遊びたい盛りだからすぐどこかへ行ってしまう。それでもやる事はやってますから文句も言えないんですがネ。おおかたその辺で虫や蛙でも捕まえているんでしょう。」

監督がそう言うと、

「しょうがねーナー、あの馬鹿坊主は。」と言って満足そうに帰るのが常だったという。


だけれども実はその頃、テンは教会の神父様の所で一年生の分を終え、二年生の教科書を夢中で勉強している所だった。


「この調子では二年生も、もうすぐ終わります。三年生の教科書に入るのもすぐでしょう。

テン、あなたは本当に勉強がすきなのですネ。あなたの様子を見ているとそれが解ります。でも急にこのように大急ぎで勉強して疲れませんか?

人は頑張る時は頑張っても、ゆっくり休んだり遊んだりして自分を甘やかしてやる事も大事なのですヨ。

テン、あなたは誰かと無邪気に遊んだ事がありますか?」と聞いた。

テンが黙っていると神父様は、

「私の家に子供がいると良いのですが、あいにく私は一人者なのです。」と淋しそうに言った。

確かにテンはここの所ずっと頑張って来た。小学校一年生の勉強は面白くて楽しいだけですぐに覚える事が出来たが、二年生の勉強になると随分難しく感じた。

だけどテンは、自分は本当ならもっともっと難しい四年生の勉強をしていなければならないのだ。

二年生の教科書で難しいなんて弱音を吐いてはいられない。そう思って頑張って来たのだ。覚えなければならない漢字も沢山増えた。

物を知る。覚えるという事は目が覚めて行くような大きな喜びだったけれど、何も解らなかった頭の中に急に詰め込もうとするようなもので、夕方、土蔵に帰る頃にはクタクタに疲れていた。

土蔵の前に置かれてある夕食も味わって食べようとするのだが、目を瞑って味わおうとするとそのままフーッと眠くなって困った。

どうにか食べ終えてお膳を外に出すと、眠くて眠くて仕方がなく。あの穴の開いた袋を目の隅にとらえてももう袋の中に入って行く元気はなくなっていた。

あの日以来、テンは袋を被って不思議な世界に入っていく事はなくなっていた。

ある日、疲れているのが顔に出ていたのだろう。神父様が、

「テン、今日はこれでお帰りなさい。そして明日はお休みにします。

教会に沢山の人が来る日ですから、私もテンの相手が出来ないと思います。

テンは頭も体もゆっくり休まなければなりません。そして、元気を取り戻したらまた勉強をしましょう。」と言って、いつもより早く帰らせた。


森を抜けてフラフラかえって来ると、「おお、テン。どこをほっつき歩いてた!」と監督の声がした。

「今日はもう帰っていいぞ!明日は仕事は休みだ。お前も休んでいいぞ。朝からどこへでも遊び歩いていいぞ!」とドラ声で叫んだ。

側にいた二・三人の男達がゲラゲラ笑った。

テンはその笑い声を背に聞きながら、フラフラと土蔵の所に帰って来た。

何かひどく疲れていて早く横になりたかった。風邪でもひいたのだろうか。

ただここ暫らく根をつめたので疲れが出て来たのかも知れない。

まだ早い時間だったので夕食のお膳は置いていなかった。

おナカも空いていなかったし、もしもお膳が用意されていたとしても先に横になりたかっただろう。

土蔵の中に入ると丸めてあった布団を伸ばしてそれにコロンと横になった。

すぐに眠気が襲って来て、テンは死んだように昏々と眠り続けた。

何か色々な夢をたくさん見たような気がしたが、目を覚ますと一瞬のうちにどこかに消えてしまってどんな夢だったか覚えていなかった。

ただ辛うじて、最後の誰かの言葉だけが耳の底に残っていた。

優しく懐かしい声が“ゆっくり”と言っていた。

テンはその消えそうなしっぽをつかまえて必死で思い出そうとして思い出した。


ゆっくり、ゆっくりお休みなさい。

そしてゆっくりゆっくり大きくなるのですヨ。

あなたが生まれて来るのを待っていますからネ。

ゆっくりゆっくり安心して大きくなるのですヨ。

お母さんはあなたに会うのを楽しみにしていますヨ。

私の大切な赤ちゃん。ゆっくりゆっくりお休みなさい。

ゆっくりゆっくり大きくなるのですヨ。


きっとそう言っているような気がした。あの優しい声は誰なのだろうか。きっとお母さんだ。その繰り返し歌うような優しい声だけが、耳の底に残っていた。

目が覚めてからもその温かい優しい余韻がずっと残っていた。

今までお父さん、お母さんの事を考えないではなかったが、いくら思い出そうとしても思い出せない両親の顔にいつの間にか諦めていたのだった。

だけど今思いがけなく、お母さんの声を聞いた。

あれはきっとお母さんの声だ。

おナカの中にいるテンに毎日話しかけていた声だ。どんな人だったろう。

優しいお母さんに違いない。

お母さん、お母さんに会いたい。会いたいヨー。お母さん、お父さん。

五助爺から死んで遠い所に行ったと聞かされたけれど、今は無性に恋しかった。

テンのお父さん、お母さんがどんな人だったかテンは写真を持っていないから解らない。テンがあんまりに小さい時だったから覚えてはいない。

どんなに思い出そうとしても思い出せない。それが悲しかった。

でもきっと神様が、テンを哀れに思って聞かせてくれたのだろう。

夢の中でもお母さんの声を聞く事が出来た。優しかったお母さんの声。

テンにはお母さんが確かにいたのだと思った。

テンを大事に大事に思ってくれるお母さんが確かにいたのだと思った。

でも、どんなに会いたくてももう会えない。目の奥が熱くなって涙が次から次へと溢れて来る。

涙を袖で拭いながら、「まだ、まだ僕は駄目だナー。まだまだ僕は弱虫だナー。」

テンは涙を拭きながら、自分に言ってみた。

きっと真夜中になってるのだろう。外はすっかり暗くなっていた。お腹が空いて来た。

土蔵の戸を開けるとそこには夕飯のお膳があった。

すっかりご飯も味噌汁も冷たくなっていたが、テンはそれをゆっくりゆっくり時間をかけて食べた。

灯りのない土蔵の中は外からのかすかな月の光しかなかった。

お母さんの声がまだ耳の奥に残っているような懐かしい甘い悲しみと、神父様の言葉と監督の武骨な思いやりを思い出しながら、黙々と食べた。

テンはこのやるせない気持ちを抱えて、どこかに行きたいナーと思った。

だけどこの時間どこにも行ける訳がない。

と気が付くと、また悲しくなった。

それで久しぶりにあの袋の事を思い出した。体の疲れはとれていた。

頭の中の疲れもとれたような気がするのは、きっとぐっすり眠ったからだろう。

そうだ。僕には行く所があるんだった。

でももうこんな真夜中だもの、袋の中の人達もきっと眠ってしまっただろう。

でも確かめてみよう。

テンは袋を引き寄せると、すぐに頭からすっぽり被った。

するとやっぱりあの世界が現れた。

どの窓も明るくて、テンは嬉しくなった。

今日はどこに行こうか?

お爺さんの部屋?

お兄さんの部屋?

おばさんの部屋は今、ご飯を食べたばかりだし。

じゃお婆さんの部屋?

今、寝て起きたばかりだし。

子供が遊んでいる窓を覗いて、神父様の言葉を思い出した。

テン、あなたは子供達と思いっきり遊んだ事がありますか?

テンはその言葉に背を押されるように子供達の部屋をトントントンとノックした。

二人が振り向いて笑顔で、「いらっしゃい。」と言っているようだ。

五歳くらいの子供達だ。

テンよりかなり小さい。

「入っていいかい?」とテンが言うと、二人共、「いいヨ。」と言った。

扉を開けて入ると、そこはテンが想像していたよりずっと広い遊び場だった。

砂場はもちろんだが子供達が走り回って遊ぶ場所があちこちにあり、ブランコもあり、他にも遊び道具が奥の方に見える。細い小川も流れているようだ。

そのあちこちに細い木が植えられていて、その上の方に黄緑色の小さい葉がパラパラと揺れて涼し気な場所だ。

平均台をつなぎ合わせたような細い木の道がどこまでも続いているかと思うと、その木の道と木の道の間にも細い板が渡してあって、それを伝ってあちこちに行けるようになっている。

砂場にも木の切れ端や何かが置いてあるので、それを工夫していろんな物が作れそうだ。

テンは友達と遊んだ記憶はないけれど、砂場は懐かしい気がした。

遠い昔、本当に遠い昔、誰かと遊んだような気がする。

あれは誰と遊んだのだろうか。

テンが砂場に入って行くと、男の子と女の子は大喜びで迎えてくれた。

テンは、「ここで遊んでもいい?」と聞いた。

すると二人の子供達は、テンに何か作ってと言う。

砂がたっぷりある大きな砂場だ。テンは傍にある小さなスコップで、まず端の方に大きな山を作った。

昔々遠い昔、周りはぐるりと山々があった。そういう気がしたからだ。

その山の隣にも山を作り、そのまた隣にも山を作った。

その山の間を川が流れるように溝を作った。川は所々曲がって流れて行く。その所々に橋を作った。

橋は砂を盛って、その中にトンネルのように穴を開けて川が更に流れるようにしたのだ。

すると教会を思い出して、その途中に教会を置きたくなった。

大小の木のかけらを持って来て、川から少し離れた所に教会を置いた。

屋根はとんがっているように一番上には三角の木切れを置いた。

そうなると、少し先には森がなければならない。森の代わりに砂を少し盛って近くにあった細い小枝を何本も刺した。

そして、その中央は少し開けて中心には太めの枝を刺した。その傍に倒木に見立てた板を置いた。その辺りも何本か枝を刺し、そこを抜けた所が工場だ。

工場に見せかけた木切れの家を、第一工場と第二工場に見立てて二つ置いた。

そして大きな川から枝分かれした細い川を工場の脇の方にずっと作った。

テンが服を着たまま体を洗うのに入った川だ。

工場と小川から少し離れた所に小さな小さな家を置いた。そこがテンのいる土蔵だ。

夢中で作って顔を上げると、男の子と女の子はそれに息をのんで見ているのだ。

「凄いネ、凄いネ。お兄ちゃん凄いネ。」と言っている。

「大した事ないヨ。」

「いいや、お兄ちゃんは天才だヨ。これ壊したくないナー。ずっととっておきたいナー。」

口々に言っている。

確かにそれはテンが寝起きしている土蔵

から、工場へ、そしてその裏の方から始まる森を抜けると左手に川が流れていて、その川沿いに行けば教会があった。

教会の先までは行った事はないが、遠くに山々が見えていたっけ。

そしてその川は、遠くの山々の連なりから実際に流れて来ているのに違いない。

テンの言った事のない遠い所から流れて来ているのだ。

テンはこの砂場で箱庭を作って、改めて自分のいる立ち位置が解ったような気がした。

こうして見ると、教会はすぐ近くにあったのだ。

それなのについこの間まで、土蔵と工場の間だけをグルグルし、動けないでいたんだ。

これでは馬鹿だ阿保だと言われても仕方がない。

これからは一生懸命勉強して、自分一人でどこまでも行ける人間になりたい。

きっとそうなるんだ!!

テンは立ち上がると、二人の子供達に、「今度来た時はもっといい物を作ろう。

これは壊して、自分達が作りたい物を作るんだヨ。」と言って、砂場から平均台の方へ歩いて行った。

「これはどんなふうにして遊ぶの?」

テンは子供同士で遊んだ事がなかった。

男の子と女の子は長い平均台の両端に飛び乗り、離れた所からじゃんけんをした。


じゃんけんぽん あいこでしょ


男の子がグーで女の子がパー。

勝った女の子が一歩先に進める。また、じゃんけんをする。

勝った方が進めるが、負けた方は元に戻って端から始めなければならない。

テンはこれは体力の強い弱いが関係ない公平な遊びだと思った。

力で相手を落とすのではなくて、弱い女の子でもじゃんけんに勝つと進む事が出来るのだ。それに負けるとあっさり元に戻るというのが潔くて結構良い運動になる。

今度はテンと男の子がやってみた。

テンは男の子とじゃんけんして勝ったり負けたりしたので、いい勝負だった。

女の子はなかなかじゃんけんが強くて、テンはしょっちゅう端からやり直したが、面白かった。

たかが小さな子供の遊びだと思って始めたが、つい夢中になって随分遊んでしまった。

いつの間にか汗をかいていた。随分長い時間遊んだようだった。

テンが二人に、「楽しかったヨ。」と言うと、

二人共口々に、「私も楽しかった。」「僕も楽しかった。」と言った。

女の子が、「お兄ちゃんまた来てネ。」と言った。

男の子も、「絶対来てネ。」と言った。

テンは嬉しくなって、また違う遊びを教えてくれヨと約束して別れた。

何だか自分が果たせなかった部分を取り戻したような気がして嬉しかった。

子供達と別れて扉を閉めると、他の窓は暗くなっていた。

今まではいつも夜遅い時刻だから気が付かなかったけれど、この袋の世界では、きっと一日に入れるのは一つの扉だけという決まりなのだろうとその時気が付いた。

袋の裾を探して袋から出ても、楽しかった余韻は残っていた。

まだ朝になってはいない。もう一眠りしよう。

テンはあの遊び場での事を思い出しながら、また眠りに入って行った。


目を覚ました時は朝になっていた。

何かの音で目を覚ましたのだ。

戸を開けてみると、朝のお膳を置いて下女が帰った所だった。

テンはボーッとした気持ちで朝ご飯を食べた。

今日は仕事は休みだと言っていたっけ。

教会の神父様も昨日、「明日は休みなさい。」と言ってたっけ。

急に仕事も休み、教会も休みと言われて、テンは行く当てが無くなってしまった。

今日一日どうすればいいのだろう。どのようにして一日を過ごそうか。

急に宙ぶらりんで行く場所も話す相手も無い事に気付くと、どうしていいか解らなくなってしまった。

食べ終わったお膳を外に出すと、テンはこの土蔵の中を掃除する気になった

五助爺が時々やっていたのを思い出した。

布団の埃を払って、陽の射し込む窓の方へ干していたっけ。

土蔵の中を探すと、梯子段の物陰からほうきと、ちりとりとボロボロの雑巾が出て来た。

テンは、土蔵の隅々の埃を掃き出し、井戸端で雑巾を濡らして絞ると床を拭いた。

床の後、埃で白くなっている梯子段を拭こうとした。

その梯子段は、普段はそこを棚代わりにして不要な物を五助爺は捨てずにおいて、そこは足の踏み場もないように雑多な物が置かれて、階段の機能を果たしていなかった。

焚き付けの時使う細い小枝の束や、使いもしない材木を束ねた物。錆びて使わなくなった鉄瓶や埃のかぶった鍋や欠けた皿小鉢がびっしり上の方まで置いてあるのだった。

だから五助爺がここを上に登った所をテンは見た事が無かったし、そもそも登る所では無く、物置場として使われていたのだ。

テンは小さかったから爺に聞いた事はないが、この階段はいかにも上に登る事を禁止しているように今のテンには見えた。

つまり、たやすく上に登れないようにわざといろんな物で行く手を塞いでいるような気がしたのだ。

テンは今、初めてこの薄暗い階段の上に登っていけるのだという事を意識した。

この上に何があるのだろう?

白い埃の積もったその階段は、暗に人が立ち入ることを阻んでいるように見える。

今までは思いもつかなかったけれど、テンは急にこの上がどうなっているのか知りたくなった。

使いもしない焚き付けの小枝の束や板切れは、五助爺が何か意図をもって置いたような気がし出した。

テンは慎重にそれらの物をよけながら、一段一段上へ登って行った。

階段の上の方は真っ暗で気味が悪い。

窓も何もない屋根裏なのかも知れない。

階段の途中でテンは振り返ってみた。すると、入り口の隅に無造作に置いてあるあの汚い袋が目に入った。

テンは少し考えて一歩一歩階段を降りると、その袋を肩にヒョイとかけてまた登り始めた。

この袋の中には仲間がいる。そう思ったのだ。

家族とはっきりとは言えないが、それに近い仲間がいる。この袋はテンの味方だと思った。仲間が一緒だと心強い。

暗い中を手で少しずつ探りながら、一段一段登って行くとどうやら階段を登り切って平らな床に届いたようだった。どんなに埃が溜まっているだろう。

蜘蛛の巣も張り放題かも知れない。テンは闇の中を這うようにして少しずつ少しずつ、手探りで奥に進んで行った。

所々四角い箱や何かに触ったが、それをよけてまず行きつく所まで行ってみようと思った。

暫らく進むと、ほんのかすかに針の先程の光が見えた。

テンはその朝陽がもれる所に辿り着くと、その前にある何か大きな箱をよけて手探りで隙間に指と手で塞いでいる物をこじ開けて見た。

すると、一気にワッと光が入って来て、暗闇の正体を照らし出した。

そこにテンのいる周りをグルリと取り囲むようにして置いていある物は、ガラクタなどでは無かった。いろんな物がきちんと整理整頓された立派な部屋だった。

何もないただの屋根裏だろうと想像していたのは大きな間違いだった。

書物のぎっしりつまった棚や、木の箱が整然と片付けられて置いてある。

長い年月が経っているので埃は降り積もっているが、誰かがここでゆっくりと本を読んでいたのだろうか。

奥の明り取りの窓まで伸びる通路のような空間には敷物が敷かれ、窓の所には肘掛けのついた立派な一人掛けの椅子が置いてある。テンは目を輝かせた。

誰だろう?ここはその人が大事にしている場所だったに違いない。

右手は箱が積まれているが、通路の左手はすぐに書物が取り出せるようにガッシリとした本棚が何列か据え付けられてあった。

本の好きな人だったんだナー。どんな人だろう。

テンはその一冊をそっと抜き取ってパラパラと中を見てみた。

だが難しい字ばかりで書かれた分厚い本は何の本か解らないけれど、一番最後の所に“天子”という印が押されてあった。

テンはびっくりした。天子って僕とおんなじだ!

僕の亡くなったお父さんかお爺さんの物かも知れない。テンは次々と本を抜き出して確かめた。どれも最後の所に“天子”と印が押してある。

これは僕の家族の物だ!

天涯孤独の身寄りのないテンにとって、これは大発見だった。

きっとここはお父さんの大切な部屋だったんだ。きっとそうだ!

そう思うと、急に自分が身寄りのない乞食等ではなく、こんなに本の大好きなお父さんがいたのだという事が肌で感じられてテンは興奮してしまった。

難しい本をこんなにたくさん読んでいたのがお父さんだとしたら、自分も負けてはいられない。早く字を覚えて、いつかこれを全部読むんだ。

それにしても積み上げられた箱の中までは確かめてはいないが、これだけの物を誰にも気付かれずに、誰にも盗られずにあったのは真っ暗にしてあったお陰かも知れない。

目立たない隅の階段に雑多な物が積まれていて、役に立たないガラクタや欠けた皿小鉢を見て悪い神様も、上まで登って調べようとはしなかったのだろう。

五助爺が守っていてくれたんだ!と思った。

五助爺とテンはいつからかは解らないが、テンが物心ついた時には二人でこの土蔵に住んでいた。

いつも寝起きしている土蔵には、二人が眠る時の布団類の他は二人の着替えの入った蓋の付いた木箱があるだけで、隅の階段の周りにはもう使えないような破れたザルだの風呂の焚き付けにする細かい木等が置いてあるだけだった。

誰か泥棒が入ったとしても、一目見ただけで何もないのにがっかりしただろう。

爺とテンはご飯を食べる時は、その木箱に蓋をしてそれに向かい合って食べていた。

五助爺はいつもテンの頭を撫でながら、

「可哀想にナー。可哀想にナー。」と言っていた。

テンはその頃は、一種独特な調子のその声が、五助爺の口癖だと思っていたけれど、十歳になっていろいろな事が理解出来るようになった今、それが解るような気がする。

五助爺は精一杯、テンを守ってくれていたのだ。

テンは今初めて、何か大事な事に気付いたような気がした。この場所は誰にも知られてはならない。テンはまずそう思った。

いつの間にか土蔵の中に入って来て、テンの大事な物を持って行く誰かに決して知られてはならないと心に決めた。

テンはまたここに来る時まで、明り取りの窓はきっちり閉めて闇にしておこうと考えた。そしてその前にもう一度、この秘密の部屋をグルリと見回した。

すると厚い本ばかりの上に、薄い帳面のような物が乗せてあるのに気が付いた。

何だろう?

窓を閉める前に気になってそれを手に取って見てみた。

帳面の裏の下の方に几帳面な読み易い字で、“天子倫親”と書いてあった。

何と読むのだろう?まだ覚えていない漢字だがテンは、その字をしっかり思い出せるように頭の中に刻みつけた。

そして、その帳面を開いてみた。

“まだ見ぬ子孫へ”と書いてある。

後の文章も難しい感じがたくさん書いてあって、今のテンには残念ながら読めそうにない。

テンはもう一度裏表紙の名前の“倫親”という字を目に焼き付け帳面を元に戻した。

そして決心したように、明り取りの窓の重い扉を閉じた。

急にまた辺りは真っ暗闇になった。

それからまたテンは、闇の中を這うようにして見当をつけた階段の所まで来ると、一段一段後ろ向きに降り始めた。

階段の途中に拭きかけの汚れた雑巾が置いてあったが、ここは掃除してきれいにしてはいけないのだと思いテンは急いで階下に降りると、元の状態に戻した。

階段の途中もそうだが、周りにもガラクタや木の枝をぞんざいに置いて、テンが登った足跡を隠した。

もう陽は真上から西に傾き、夕方も近い事を教えていた。

今日はお昼時に何も腹の中に入れていなかった。驚く事ばかりで空腹を忘れていたのだ。

テンはあの名前を忘れない為に、長い木箱の蓋を取ると箱の内側に木の枝の先で、“倫親”と書いて見た。確かにこういう字だったと思う。

何度も枝の先で忘れないように書いてみた。それから、あの薄い帳面に書かれたことを思い出した。

“まだ見ぬ子孫へ”と書いてあったっけ。これは教会の神父様に聞いてみようか?

いいや駄目だ。

これは袋の世界のあの難しい本を読んでいるお爺さんに聞いてみよう。そう決めた。

そうだ。その前に少し寝ておこう。

今日は袋の世界のお爺さんにいろいろ聞きたい事がある。テンはそれから少し眠った。

どれくらい眠ったろうか。コトッという物音で目が覚めた。

外はすっかり夕方になって暗くなり始めていた。扉を開けて外を見ると、下女が夕食を置いて帰る所だった。

テンは素早く夕食を中に入れると、ゆっくりゆっくりよく噛んで食べた。

まだ冷めていないご飯はとても美味しかった。やっぱりおナカが空いていたのだ。

食べ終わる頃にはもう暗くなっていた。テンの所には暗くなっても灯りがない。

五助爺がいた頃は短くなったろうそくにたまに火を点けてくれたが、それでも暗くなったら寝て、朝明るくなったら目を覚ますという生活だったので、灯りを付ける事はあまりなかった。

五助爺がいなくなったのは、テンがまだ五歳の時だった。

それから自分一人で火を点ける事はなかったし、道具もないので火を使わないまま今まで来てしまった。

階段の後ろの方を手探りで探したら、ろうそくのないろうそく立てが見つかった。

ろうそくも無ければ火を点ける道具もない。

テンは食べ終わった膳を外に出した後、昼間干しておいた布団を敷いて、それに横になって考えた。

さあ、これからどうしようか。慎重に、だけど必死に頑張らなければあんな難しい本を読めるような人には到底なれそうにない。果たして自分はいつかそういう人になれるだろうか?

テンは外がすっかり暗くなるのを待って、外に人がいないのを確かめると土蔵の扉をしっかり閉めた。

それから深く息を吸って穴の開いた袋を頭からすっぽり被った。

途端に、あの不思議の世界に中に立っているのだった。

やっぱり五つの窓が見える。どの部屋もテンを待ってくれている人達がいるが、今日は迷わずお爺さんの部屋に行こうと思った。

お爺さんの部屋の窓を覗くと、相変わらずお爺さんは本

と睨めっこをするように夢中で、こっちを向いてくれないけれどテンは、

トントントンと扉を三度叩いた。

するとお爺さんが顔を上げてこっちを見た。そしてニッコリ笑った。

「すみません。本を読んでいる所をお邪魔して。」とテンが言うと、

「いいんだヨ、いいんだヨ。何をしていたって休憩というものは必要だからネ。」と言って笑った。

「今日はお爺さんに相談したり、聞きたい事がたくさんあって来ました。いいですか?」

「ああ、いいヨいいヨ。何でも私に解る事なら相談に乗りましょう。」

それでテンは、この間の監督に言われて森を抜けて教会に行った時の事から、風呂に入れてもらった事を省略しないで事細かに話した。

次の日から神父さんに勉強を見てもらっている事、今は二年生の終わりの方まで進んでいる事。そして今日は仕事も勉強も休みだと言われて一日土蔵の中にいたので、思い切って階段を登って行って初めて二階を見た事。

二階には本がたくさんあって、その本には天子の印が押されてあって、帳面の裏には“天子倫親”と書いてあったけれど読み方も解らない。

帳面を開いたら、漢字のたくさん入った文章でとても自分には読めないけれど、最初の書き出しだけは忘れないように頭に入れて来たと言って、お爺さんの机の上の

白い紙にその文章と天子倫親という字を書いた。

「早くお爺さんやその人のようにどんな本でも読めるようになりたいけれど、僕はこれからどうすればいいでしょうか。」

テンは一気に喋った。

こんなに人にたくさん物を喋った事が無かったので、話し終えると山にでも登ったようにハーハー息をした。

黙って聞いていたお爺さんは口を開けると、「実に驚いた。テン、お前がこんなに要点を押えて筋道立てて話の出来る子供だったとは実に驚いた。それで私にも全て呑み込めた。

テン、お前は将来、多くの人々を感服させる雄弁家にもなれる素質は充分あるぞ。

これは、これからのお前の心がけと精進次第だがナ。お前は自分はものを知らない。学校にも行っていないから馬鹿だ、阿保だと言われても仕方がない。無能な人間だと思い込んでいただろう?だから私もテンはそういう程度の人間だと今の今まで思っていたんじゃ。

じゃがそれは違う。テン、お前は見込みのある奴じゃぞ。何十年も本を読んで、その中のいろんな知識を吸収して来た私が言うんだから間違いはない。

テン、まず自分が無能な人間だという考えは捨てなさい。それから陰でお前を応援してくれている監督に対しては、一生その恩を忘れてはいけないヨ。右も左も解らずウロウロしていたお前を、冷たい川から引きずり出して自分の傍に置いてくれただけでも有難い事だ。

あの時、監督が自分の傍で、例え木屑拾いの仕事にせよ、おまえに何かをさせてくれなかったら今のお前はどうしていただろう。まだ土蔵の周りをグルグルしていただけかも知れないし、もっとひどい事になっていたかも知れないヨ。

それに、人に気付かれないように紙屑に見せかけて握り飯をお前にくれるという監督の気遣いに私は大いに感激したヨ。

そのお陰で、テン、育ち盛りのお前はどんなにか嬉しかったろう。

そういう事は考える事は出来ても、実際に行動に移してそれを続ける事は想像以上に難しいものなんだヨ。自分の身内でもない、赤の他人のお前を、しかも自分の雇い主の吉本のダンナからどういう訳かはじかれている子供に対しては大抵の人間は心の中で可哀想にと思っても、我が身を考えると手をのばして助ける事は出来ないものなんじゃ。

その上、森の奥を抜けて飛び出して行ってみろとお前の背中を押してくれた。

その言葉がなかったら今のお前はなかったろう。

テン、お前は本当に運の良い子供だナー。五助爺にしろ、監督にしろ、神父様にしろ、お前を秘かに助けて応援してくれる人が確かにこの世にいる。その事はとても大事で心強い事なんだぞ。

まずその事をきちんと頭に入れて、その人達に対して感謝の心を持って生きて行く事。

それがテンの一つ目の事。

それにしても、テンお前はこの何日間かの間に驚く程成長して賢くなった。

五助爺の言う通り、悪賢い奴がお前からことごとく味方という見方を引き剥がし、その人達を遠ざけて幼いテンを一人ぽっちにして無知のまま押し潰そうとしている。また例えそうだとしても、いわゆるこやしのお陰でテン、お前は逆にこんなに強く賢くなっていたのだヨ。私は安心したヨ。久々に嬉しくて、いい気分になった。

後はその賢い頭に知識をどんどん吸収させる事だ。

テン、次に大事なのは勉強する事だヨ。普通の子供達が一つ勉強するなら、その五倍も十倍も勉強する事だ。そうすればいつの間にかどんな難しい本でも読めるようになる。

肝心なのは楽しんで勉強する事だ。他の子供達に追いつこうと焦って勉強するのではなく、いつかあの土蔵の二階にある書物を読めるようになりたいという明確な夢が出来たんだから楽しんで勉強しなさい。

そうしているうちに、今まで知らなかった事が解って来る。それが勉強だ。

勉強は楽しいぞ。私はこの年になっても勉強が楽しい。それから帳面の裏に書かれている名前の読み方だが、“のりちか”と読めばいいだろう。

多分、テン、お前の父親だろう。お前の父親は本の好きな人のようだネ。それから帳面の中に書いてある文章の書き出しの

“まだ見ぬ子孫へ”というこの漢字は、子孫は“しそん”と読むのだヨ。子と孫を合わせて子孫。それは字の通り、自分の子や孫やそのまた未来に生まれて来て自分の血を受け継ぐ者達へという意味なのだヨ。

まあ、直接には、自分の子供、つまりテンへ宛てて書いたのだろう。自分が読んで感動して集めた蔵書。本の事を蔵書とも言う。

これらの書物を、自分と同じように愛し愛読し大事に受け継いで行って欲しいと願ったのだろう。

テンの父親はそれ程、本の素晴らしさを知っている人のようだ。

私と気の合う人だったに違いない。

テン、これは間違いなくお前に託した伝言なのだヨ。一生懸命勉強してその本を読めるようになったら、心してお父さんと向き合う気持ちでその本を読む事だネ。」

そこまで話した後、お爺さんは、

うん、うんとしきりに一人で頷いている。

「お爺さん、僕は勉強が大好きです。でも教会から教科書や道具を持ち帰る事は出来ません。人に見られたら折角の勉強が出来なくなってしまうに違いないからです。

それに暗くなったら僕には灯りとなるろうそくもありませんから。家に帰ってからは勉強する事が出来ないんです。

早く、早く四年生の教科書まで進みたいのにもう少しで僕は五年生になる年令なのに、まだ三年生の勉強迄行っていません。僕は本当に皆に追いつく事が出来るんでしょうか?」

勉強はだんだん難しくなるのに…。

その事を考えるとテンの心は暗くなった。

お爺さんはニッコリ笑って、「私は最初に何と言ったかネ。テンが見たり感じたり覚えたりした事は何でも解ると言ったんじゃなかったかネ。

テン、教会で勉強する時は、よーく目を見開いて教科書を見るんだヨ。漢字でも算術でもだヨ。その時は本当に覚えたか覚えていないか自信がなくてもとにかく繰り返し繰り返し、見て書いて勉強するんだヨ。それは必ずテンの頭の中に記憶されているのだヨ。

テンの頭の中の記憶は?つまりは私のこの部屋の中にも、ちゃんと記憶されるという事なんだヨ。

それから、灯りの事を心配していたネ。それなら問題ない。この部屋に来て勉強すればいい。ここにはホレ、ランプもある。

次にテンがここに来る時は、テンの為に隣に机と椅子を用意しておくから、私の隣で勉強しなさい。」とお爺さんは自信たっぷりに言ってくれた。

それでテンの心にあったモヤモヤした問題は全て解決された。

やっぱり長年難しい書物を読んで勉強して来たお爺さんは凄いナーと思った。

「さあ、今日はこのくらいにしてお帰り。そして安心してぐっすり眠るんだヨ。」

お爺さんは優しく送り出してくれた。

部屋を出て窓を振り返ると、お爺さんはもう難しい書物と向き合っていた。

他の窓はみんな暗くなっている。

袋の裾を掴んで脱ぐと、月の光の射す土蔵の中にやはりテン一人だった。


今日はいろんな発見があった。お父さんの名前はのりちか。

そののりちかという響きには何か聞いた事のある懐かしい記憶がかすかにあった。

それからあの仰山な本の数。この事は誰にも知られてはならない。

知られたら持って行かれる。気を付けよう。気を付けよう。

そう思いながらテンは眠りに落ちて行った。


それからのテンは、増々前向きに工場の木屑拾いや掃除の仕事をキビキビこなして、それが片付くとフラッと出掛けた。

人の目についても大丈夫なように、ブラブラしながら森へ入って行き、もう大丈夫と解ると一目散に走って森を抜け教会に向かった。

教会では覚えたかどうかを気にせずに、とにかく繰り返し繰り返し教科書を読んで、字も何度も何度も書いて練習した。

算術も同じ問題を何度もやっていると、不思議に解って来る。

ぎりぎりまで勉強し、夕方になると森の中程まで走って来て、そこからは今まで遊んだり昼寝をしていたようにブラブラと帰って来て、残っている仕事があれば片付けて土蔵に帰った。

誰も、そんなテンの本当の生活には気付いていないようであった。

もしかしたら監督は解っていたかも知れない。いつも紙屑に見せかけて握り飯を倒木の陰に置いておく事を忘れなかったからだ。

それを見つけて食べる度に、テンはこの恩は絶対忘れないぞと思った。

いつか自分が大人になった時は必ず返そうと心に誓った。

それからのテンは迷ったり悩んだりしなかった。

自分がなかなか勉強がはかどらないと焦る事もやめた。

とにかく、自分の出来る事だけをやる。今は目の前の勉強を一生懸命しよう。それしかないのだという事に気が付いた。

いろいろ新しい事を知るのは面白くもあった。

夕方に土蔵に帰って来て夕飯を食べて少し横になって、暗くなるのを待って袋の世界に入って行った。

お爺さんの部屋の扉を開けると、お爺さんは約束通り自分の机の隣にテンの為にもう一つ机と椅子を用意して待っていてくれた。

そして驚いた事には、テンが教会で勉強していたのと同じ教科書と道具が用意されていた。

テンが驚いてお爺さんを見ると、

「テンが見た物、憶えているものは、私には全て解るんだヨと最初に言った筈だがネ。」とちょっと自慢そうに言った。

そして、「テン、まず自分で今日勉強した事を復習してみなさい。それでもどうしても解らない所があったら私が教えてあげよう。」と言った。

テンは今日勉強した所をもう一度思い出しながら繰り返しやってみた。

面白いように簡単に出来るし、頭にも入る。漢字もスラスラ書ける。

復習って大事なんだナーと思った。

そのようにして、漢字も算術もスラスラ出来るのが不思議だった。

「お爺さん不思議です。教会で解らなった事も今なら簡単に解ります。これはお爺さんの力ですか?それともこの部屋の力ですか?」と聞くと、

「それはテン、お前の力なんだヨ。今日勉強した分が済んだら、明日の分にザッと目を通しておくといいヨ。明日はどんな勉強をするのだろうと軽い気持ちでいいから教科書を見てごらん。今は覚えなくていい。見るだけでいいんだ。それが予習というのだヨ。

勉強には予習と復習が大事なんだヨ。」

言われてテンは素直に明日勉強しそうな所を目で追った。

漢字も目で見る程度にし、算術も教科書をサーッと読む程度にした。

お爺さんはそんなテンを見て、

「どうだいテン、勉強は面白いだろう?今まで知らなかった事を覚えるのは楽しいだろう?」と言った。

テンはニッコリ笑って大きく頷いた。

それからのテンは見違えるようにのみ込みが良くなった。

神父様はこれはどうした事だろうと驚いた。教科書等、勉強道具を一切持ち帰らないのに…。二年生の勉強は驚くような速さで終わってしまった。

この子の頭脳は特別なのだろうか?神父様はそう考えたりし、また心安い誰かにこの事を話したのかも知れない。

「次からは三年生の勉強に入ると思いますヨ。テン!いよいよ三年生の勉強ですヨ。」

帰りしなに神父様は自分の事のように嬉しそうに話した。

テン、勉強は難しくなりますが、もっと素晴らしい先生が時々勉強を見に来てくれますヨ。楽しみにしていて下さい。

次の日は土曜日だったが、工場は休みではないのでテンは朝早くから自分の仕事をテキパキ片付けると、いつものようにブラブラ森へ入って行き、それから教会を目指してひた走りに走った。

何か新しい事が待っているような気がして、ワクワクして走った。

裏口からそっと教会に入り、いつもの部屋に行った。

テーブルの上にはいつものようにお茶の用意がされていて、テンの座る所には三年生用の教材が乗っている。

神父様も誰もいない。

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