子供vs都市伝説
三年生になり、相変わらず受験勉強に部活に生徒会にと忙しくしている私。そんな私の一番の楽しみはもちろん休日に弟妹と遊ぶこと。
「ねーねはあかちゃんね」
「いえす、ばぶ」
もう、おままごとにも慣れたものだよ。コツは恥じらいを捨てることさ。
「つまんない! こうえんいこ」
「あっ、ちょっと待ってね」
正道に腕を引っ張られ素に戻る私。困ったな、最近こういうことが多い。双子とはいえ男女だもんね。大きくなるほど柔と正道のやりたいことが乖離していく。
ただ、こういう時は大抵柔が──
「じゃあ、こうえんでおままごとしよ」
──って、気を遣ってくれるんだよな。良い子だよほんと。妹をぎゅっと抱きしめる。
それに引きかえ、正道はというと。
「やった! いこう、ねえちゃん、はやく!」
「はいはい、そんなに慌てないの」
双子の妹に気遣われたことなんて全然気が付いてない。無邪気なもんだよ。まあそれも可愛いんだけど。
いつもの公園に着くと、すでに何人かの子供が一緒になって遊んでいた。今は鬼ごっこ中みたいだね。それを見た正道は目を輝かせて訊ねて来る。
「ねーちゃん! おれもあれやっていい!?」
「ちゃんと一緒に遊んでいいか聞いてからね。いいよって言ってくれたら混ざりな。なんにせよ仲良く遊ぶんだよ」
「うん!」
駆けてく弟を柔と並んで見送る。知ってる子も何人かいるし心配いらないだろう。案の定すぐに他の子達と一緒に走り始めた。他の子の親御さん達もいるし、正道はとりあえず見てなくてもいいかな。ちょっと大きめの子も混じってるし。
見覚えはあるけど、なんて名前だったかな、あの子?
「ねーね、おままごと」
「うん、砂場へ行こうか。あっ、こんにちはー」
「こんにちは。歩美ちゃん久しぶりね」
「はは、はい」
ここに来るママさん達の大半は顔見知り。だからという安心感もある。
「心配せずとも正道は妾が見ておる。柔と遊んでやれ」
「はは、ありがとうございま……す……?」
なんだろう? 何か違和感があったような?
振り返ったけど、よくわからない。
「ねーね、おとうさん」
「あ、さっきと配役が違うんだ」
公衆の面前で赤ちゃんはきついからな。また気を遣ってくれたのかな。とりあえず私は一瞬感じた妙な感覚を忘れ、柔とおままごとに興じるのだった。
しばらくして正道が戻って来た。さっき見た少しだけ大きなお友達と一緒。
「みんな帰っちゃった」
「あ、そうなの?」
たしかに柔と遊んであげてる間に他の子達はいなくなってしまっていた。ママさん達の姿も軒並み消えて残っているのは一人だけ。
その一人が、なんだか面白がるような笑みを浮かべ、口を開く。
「そういえば、こんな話を知っておるか? 子供達が遊んでいるとな、たまに知らぬ間に誰かわからぬ子が紛れ込んでいることがある。そして誰もそのことに気が付かん。紛れたそやつはその後も何度も共に遊ぶのだが、成長した子供らの方はな、やがてその存在さえ忘れてしまうのじゃ」
「あ、聞いたことあります」
有名な怪談というか都市伝説だよね。ひょっとすると私にも昔、そういう友達がいたのかなあなんて、前に聞いた時に想像したな。
「ふふ、心当たりはないか? いたかもしれんぞ、そういう友が」
「はは、だとしたら面白いですね」
「面白い? 怖くはないか?」
「だって一緒に遊ぶだけなんでしょ? なら別にいいじゃないですか」
生きてる人に悪さする霊も、そうでない霊も今まで何度か見て来た。無害な霊なら別に怖がる必要なんて無い。
長い黒髪の綺麗なママさんは立ち上がって微笑む。
「やはり主らは愛おしい」
「はあ……?」
「それではまたな、歩美。次も忘れているかもしれんが」
えっ? たまにこの公園で会う人だよね? ちゃんと覚えてますよ。
「バイバイ、またね」
「またねけーと」
大き目の女の子もママさんについて帰って行った。あの人の子だったのか。
「それじゃあ、私達も帰ろう」
「うん」
「て、あらお」
「そうだね」
柔の提案に頷き、三人で水道のところまで行って、手を洗ってから公園の外へ。三人で手を繋ぎたいところだけど、横に広がると危ないからまずは正道と手を繋いで、柔はもう片方の手でだっこする。
いいかげん腕が疲れて来たなと思ったところで正道がおねだり。
「ねーちゃん、おれもだっこ」
「はい、じゃあ交代ね柔」
「むう」
不満そうに唇を尖らせて下りる柔。今度はこっちと手を繋いで正道を抱き上げ──
「ああっ!?」
ここでようやく違和感の正体に気付いた。びっくりした双子と共に公園の方へ振り返る。すでにあの二人の姿は見えない。
親子じゃないじゃん!
「ぜ、全然気付かなかった……
なんで忘れてたんだ? ひょっとして例の都市伝説の正体ってケイトくん?
うわ、気が付いたら一気に思い出してきた。公園以外でも何度も会ってる。これがいわゆる魔法ってやつなのかな。時雨さんや鈴蘭さんの不思議な力も見たことあるけど、今回が一番それっぽいかも。
契約しなかったのに、あれからもちょくちょく会いに来てくれていたのか。ありがたいけど、なんで? もしかして暇なの?
「そういえば働いてないって言ってたっけ……」
どうやって食べてるんだろ? 心配になって来た。後で雫さんと時雨さんに話を聞いてみなくちゃ。
「余計なことはするでない」
「……ねーちゃ?」
「ねーね、かえろ」
「え? ああ、そうか、そうだね」
二人にせがまれて我に返る。なんでだろ、ぼーっとしちゃってた。
正道は私の肩越しに、柔は振り返って手を振る。
「「ばいばーい」」
「? 誰に手を振ってるの?」
さっきの都市伝説を思い出した私は、ちょっとだけ寒気を感じた。
「べつに記憶を封じなくても」
「雫に相談などされてみい、また口うるさいことを言われてしまうわ」
「それはやだ」
「なら目を瞑れ。どうせ次に会ったらまた思い出す。そして忘れるのじゃ」
「まあね」
ぼくは昔からそれを繰り返して来た。鏡矢の子を近くで見守るために。
今回は鏡矢の血を引かない子供達だけど、たまにはそれもいい。
鏡矢が大事にしてる子達だから、僕も大事にする。レイジの血を引く子供達はカワイイもん。悲しませたくない。
親子のように手を繋いでいる艶水は、前方にコンビニが見えたところで、いつも通りに訊ねて来た。
「なんぞ食うか?」
「おかし」
「またか、いつまで経っても子供じゃのう」
ぼくは子供にしか見えない、子供の守り神だからね。
「そのほうがいいんだ」
まぎれこみ そだつすがたを みてきたよ
「ピーター・パンみたいでしょ? かっこいい」
「何がピーター・パンじゃ。お主などせいぜい米粉パンじゃよ、このもちもちほっぺ」
「つまむなー」
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