ハロウィンvs大塚家

 それは去年のことだった。ハロウィンの日、美樹ねえから送られてきた数枚の写真が発端。映ってるのは魔女の仮装をした友美ちゃんと友樹くん。

「かっ、かわいい~!」

「可愛いわね~」

「ほう、これは素晴らしい。印刷して飾ろう」

「あなた、居間にはもう飾るところがありませんよ」

「ぬうっ、そうだった」

 悔しがる父さん。居間の壁はあの子達の写真だらけだ。今からこれで、ママが弟と妹まで産んだらどうする気だろう?

 あ、私は名案を思いつく。

「私の部屋に飾ってもいいよ。弟と妹の写真も」

「それでは我らがなかなか見られんではないか」

 父さんは年頃の娘の部屋だからと、私の部屋には滅多に入って来ない。ママは遠慮無く掃除しに来るんだけど。

「古い写真からアルバムに仕舞ってしまいましょうか?」

「それもよいが、やはりデジタルフォトフレームの購入を考えるべきかもしれん」

「ああ、あの自動的に写真が切り替わってくやつ。あれいいよね」

「うむ、メールで遠方からでも送信できるやつを買えば、美樹達から新たな写真が来た時にデータを移し替える手間が省けるしな」


 じっ……ママの顔を見つめる私達。現在我が大塚家の財布の紐はママによって握られている。


「……はぁ、まあ、私もこの子達の写真をたくさん撮るでしょうしね」

 苦笑して自分の大きなお腹をぽんぽん叩くママ。もうすぐ生まれて来る弟と妹。可愛いだろうなあ。

「でも、あまり高くないやつにしてくださいね」

「任せよ昔のツテがある。知り合いに頼めばいくらか値引いてもらえるはずだ」

「よしっ!」

 私はガッツポーズした。




 ──あれから半年。仕事で近くまで来た美樹ねえが、ついでだからと帰りがけに遊びに来た。ちゃぶ台を挟んで向き合った私は、前から訊きたかったことを訊ねてみる。

「美樹ねえ」

「なあに?」

「去年のハロウィンの衣装、手作り? 私も柔と正道に作ってあげたいんだけど」

「落ち着きなさい」

「え? 落ち着いてるよ?」

「まだ半年あるのよ? わかってる?」

「うん」

「兄さん、ちょっと、あんまり歩美ちゃんに悪影響与えちゃ駄目じゃない」

「いくら俺でも今からハロウィンの支度を始めたりはせん」

 父さんは心外だと首を横に振る。

「じゃあ元からの素養か」

 美樹ねえは、何かを諦めたようにため息一つ。

「歩美ちゃん、あの子達が可愛いのはわかるけど、今から準備したって当日にはサイズが合わなくなってるかもよ。ほら、子供って大人が想像するより早く成長するもの」

「あ、そうか、その可能性はあるね」

 なるほど、なら直前に用意した方がいいのか。流石は美樹ねえ、伊達に日常的に魔女の格好じゃない。まさにハロウィンの申し子。

「なんか失礼なこと考えてないかしら?」

「美樹ねえはハロウィンの化身だなって」

「こら」

 ビシッと額を叩かれた。痛くはない。

「誰が魔女よ、誰が」

 美樹ねえ本人は別に魔女をイメージしてるわけではないらしい。いつも真っ黒なドレスなのに。

「私は単にこういう格好が好きなだけ。ともかく、衣装の作り方はハロウィンが近付いて来たら教えてあげるから、それまで待ってなさい」

「うーん、でも」

「でも?」

「ハロウィンの時期って長いお休み無いよね? 美樹ねえ、うちに来られる?」

 私の問いかけに、ふむと口に手を当てる美樹ねえ。

「それもそうね……じゃあまあ、作り方だけは今教えておきましょうか。何回か試作して練習する必要もあるでしょうしね」

「ならば俺は、その練習風景を撮影しよう」

「兄さん、また写真増やす気なの? もう廊下の壁もいっぱいじゃない。フォトフレームを使いなさいよ、せっかく買ったんだから」

「特に良く撮れたものだけ厳選して飾っておるのだ」

「というか三人とも、正道と柔はハロウィン当日でもまだ一歳未満よ。仮装なんてさせるのは早いんじゃない?」

 母さんは困り顔で赤ちゃん二人の顔を交互に見つめる。

「気の早い人達だねー」

「しまった、兄さんと歩美ちゃんにつられたわ」

「お前も元々そういうやつだ」


 大塚家 せっかちなのが 玉に瑕


「あ、クリスマスプレゼントも考えておこうよ」

「落ち着いて」

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