9日目
わたしの目の前には美しい女の死体がある
体の末端は黒く萎びて干した果物のように固まり、顔には一面の蛆虫が咲いている。
肌の色はもはや緑よりも赤黒く、液体となるための準備を粛々と進めているようだ。
もしかしたら骨となるためには衣服は邪魔なのかもしれないと思い、ワンピースの襟元までハサミを入れた。
背中の下敷きになっている部分も取り除きたかったが、皮膚がズルズルと剥がれてしまうため止めた。
胸元まですべて露わになった彼女をひたすら見つめる。
時折、喉元まで酸っぱいものが込み上げる。
腐敗ガスは単なる臭いではなく細菌の塊だと聞いたことがある、恐らくその影響だろう。
鎖骨のあたりにできていた、1番大きな水疱が破れた。
黒い液体が蛆と一緒に溢れ出す。
静かに、本当に静かに彼女は解けてゆく。
ふと想像してみる。
彼女を食べた蛆は、このまま成虫になる。そのハエをもっと大きな虫か、鳥なんかが食べるのだろう。
鳥は捕食されることがあるだろうか?もっと大きな猛禽類か、猛獣に食べられることもある?大きな鳥なら…
海へ遊びに行くと、彼女は海よりも海岸近くを飛び回るトンビを眺めるのが好きだった。
ピーーーーーヒョロロロロ、と鳴きながら上空を旋回するトンビ。彼女はその一部となり、風に乗り、時には砂浜で仲間と戯れるのだろう。
いつかそのトンビが死んだら、海の上なら魚や蟹に、土の上ならまた別の生物や木々となる。
目を閉じて、昔流行った、千の風になってという曲を口ずさんだ。
瞬間、「ピンポーーーーーーーン」と、玄関の呼び鈴が長く、鳴らされた。
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