8日目


わたしの目の前には美しい女の死体がある



この世で彼女を彼女だと認識しているのは唯一わたし1人きりだろう。


文字通りガスが抜けたのか、顔面の膨張は少し収まったように見えるが、右半分は蛆に覆われ、もはや顔とは呼べない有様だ。

手足もすっかり緑色に変色し、ところどころ皮膚が破れ黒い液体を垂れ流している。


極彩色の腹部はぶよぶよと横に広がり、もう既に体内は人間のそれを成していないのだろう。


わたしは期待していた。

この世を去った彼女が、唯一形として残してくれるもの。

骨となるのを嬉々として待ち侘びていた。


大昔ならば打ち捨てられた死体には野生生物が群がり、白骨化するのを手伝ってくれるのだろう。

わたしもそうしたい欲望に駆られるが、それは不自然で大変失礼なことではないかと思いとどまる。


がんばれ、がんばれ。


恍惚とした表情で、彼女を貪る蛆虫を眺める。

死してなお美しい彼女。

うっすらと吐き気を感じるのは、慣れたはずの彼女の溶け出す臭いか、それとも自身の醜悪さからか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る