6日目
わたしの目の前には美しい女の死体がある
床に溶けだした彼女を延々と眺めている。
膨張した唇の端から、白い粒がこぼれ落ちた。どうやら潰したハエは既に彼女に接触していたようだった。
無意識に何かから彼女を守ろうとしていたが、それも、もうどうでも良い。
彼女はこの世界に留まろうとはしていないし、形を保とうとしていない。
あるがままを見守ろうと思う。
今は黒い染みが浮き、ベタベタとした質感の、かつては清楚なベージュ色であったワンピースを眺める。
ふと思い立った。彼女の体はどう変化しているんだろう?
体の硬直はすでになくなり、ぐにゃぐにゃとした四肢。確かこのワンピースは背中にファスナーがついているタイプだったな、と彼女の肩に手をかけて持ち上げる。
ずるりと滑る感触がした。
肩の皮膚が裂けてずり落ちた。
破れた皮膚の下は白に青を混ぜたような色をし、ぬめぬめとした何かに覆われていた。
脱衣を諦め、彼女の体を再度横たえた。
お気に入りだったワンピースに申し訳なく思いながらハサミを入れる事にする。
しっかりとした布にレースを重ねたスカート部分は、思うように刃が通らない。
やっとのことで腰の切り替え部分まで到達すると、ゆっくりとスカートを外に広げる。
太ももには大きな血管が浮き出ていた。
白い肌に赤黒い筋が大きく走り、やはり蜘蛛のようで少し不気味だ。
下着は何か体内のものが流出したのだろう、汚れてしまっているが、床に広がる黒い液体と混ざり気にならない。
少しだけ何かを期待しながら、ゆっくりと腹部まで布をめくる。
美しい。
まるで宇宙のような、濃い色の絵の具を大量に使ったあとのパレットのような、赤、緑、紺、黄、黒、様々な色が目に飛び込んできた。
なんだこれは?
なぜ人の体がこんな色になるんだ?もしかしたら彼女はなにか特別なのだろうか。
特別なものを食べていた?特別な死に方だった?
違う、彼女はわたしと同じものを食べていたし、顎の下に沿ってくっきりとロープの痕が残っている。
では彼女自身が特別なのだろうか。
なんとも不謹慎なことに、美しい彼女にわたしは歓喜した。付かず離れず、何時間も眺めた。
彼女の口からは何匹もの蛆虫が這い出し、動く度に少しだけ彼女に表情を与えていた。
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