data_099:突然のお呼び出し
「……ヒナ、明日の夜ちょっと付き合え」
「え?」
「具体的には飯と風呂の後な。集合場所は……まあ、階段でいいか。待ち合わせる時間は九時四十五分、もちろん遅刻厳禁だぞ、いいな」
「え、え、何ですか急に」
というかなぜ明日? しかも夜?
どういうことだかさっぱりわからないヒナトだったが、この状況なのでソーヤの顔も見えやしない。
「理由はそんとき話す。つーか、見りゃあわかる。とにかく来いよ。
……あ、あと肩はもういい」
ソーヤはそう言ってヒナトの手を軽く払った。
とりあえず肩揉みの任務から解放されたことにはほっとしつつ、急な夜間呼び出しの意味はまだわからないのでヒナトはその後も追及したが、ソーヤは何も教えてくれなかった。
曰く、当日になればわかる。
その一点張りを崩せないまま、ワタリも戻ってきたのでその場はうやむやになってしまったのだった。
当然ながらもやっとしたものが頭を離れないヒナトはその後も仕事が捗らなかった。
午後も。
次の日の朝も、昼食を挟んでその午後に至るまで。
なんならその夕食の席にまでずっと。
未だかつてないほど長いもやもやに支配されていたヒナトであった。
もやもやしすぎて顔までもやもやしていたらしく、昼はアツキに心配され、午後はワタリから可哀想な子を見る眼で見られたが、それにすら構っていられなかった。
自分でもなんでこんなにひっかかっているんだろうと不思議になるくらいだ。
いくら考えても原因として思い浮かぶのはひとつ。
ソーヤからの初めてのお誘いであること、ただそれだけだ。
だいたい夜でないといけない用事とはなんなのだろう?
どうしてヒナトを指名したのだろう? それともタニラやエイワも呼ばれているのだろうか?
でもって集合時間がかなり遅いが、消灯には間に合うのだろうか?
そんな数多の疑問に苛まれて夕食の味も楽しめなかった。
ともかく早めにお風呂を済ませ、自室でごろごろしながら時間を待つ。
しかしベッドの他に転がれる場所もないせいか、いつの間にかヒナトはうとうとしていた。
幸いすぐ起きられたものの、慌ててベッドサイドの時計を見るとすでに九時四十四分を示しており、思わず悲鳴を上げて飛び起きる。
遅刻は厳禁と言われたからには遅れたらお小言をくらうのは必至だ。
慌てて自室を飛び出し階段へと一目散に走る。
あまり物音を立てると同じ階に暮らしている他のソアの迷惑になるかも、という考えはこのときヒナトの頭にはなかった。
階段の上階へと続く踊り場に、ソーヤがいる。
わたわたと駆け寄ってくるヒナトを見て、少し呆れたように笑ってから腕時計を確認した彼は、手にしていた布っぽいものをヒナトの頭に放り投げた。
避ける暇もなく顔面でそれを受け止め、ヒナトはもがく。
「わっぷ、なんですかこれ」
「冷えるから着とけ。たぶんパジャマで来るだろうと思って持ってきたけど正解だったな」
「着……あ、上着だ」
それはソーヤの私物と思しきブルゾンだった。
ヒナトには少し大きいが、寝間着の上から羽織るのには問題ないだろう。
しかし花園の建物内は一日中適温に保たれているのだが。
「ギリ遅刻じゃねえけど、もうちょい余裕持って来いよ。途中で誰かに会ってねえだろうな」
「会ってないです。……えっと、会ってたらなんかまずいんですか?」
「いや、相手によっちゃ面倒かもってだけだ。それじゃ行くぞ」
「行くってどこですか?」
「屋上」
おく……屋上?
なんで夜中にそんなところに?
これまた意味のわからない回答だったが、どうせ聞いても答えてくれないんだろうな、とすでに諦めつつあったヒナトは大人しく彼に続いて階段を上った。
しかしここは三階で、屋上は十一階の上である。
八階分の高さを上るのは容易ではない。
エレベーターに乗ればいいのに、と何度も思ったが、こんな時間に使ったら夜勤の職員が飛んでくるかもしれない。
花園に警備員はいないけれど、代わりにラボでカメラやセンサーの情報を監視しているらしいのだ。
→
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます