data_081:ブラウスとスカートとショートパンツ

「ただいまー。あ、アツキちゃんおかえり」

「あれヒナちゃん。どこ行ってたの?」

「鏡が見たくてちょっとトイレまで。アツキちゃんは服決めた?」

「うん。もともと下は手持ちのがあるから上だけー。……あ、ヒナちゃんが持ってるそれ、ちょっと見せて」


 アツキはそう言って、白いブラウスを広げた。


「あらかわいい。清楚系だねえ」

「ね。でも今回はあたし、こっちのTシャツににしようかと思ってて」

「そなの? じゃあ……サイちゃん、これ着てみてよ。えっと、これだけだとまずいからー……、中にこれを合わせてどうぞ! はい!」

「何、いきなり」


 急に話を振られたサイネは、振り向いてアツキの手にするブラウスを見ると、眉間を曇らせた。


「……それを? 私が?」

「うん。サイちゃんもたまにはこういうの着てみない? そんで下もスカートにしよ?」

「動きにくいの嫌なんだけど……それに、これはちょっと、私にはさすがに……」


 珍しく言い淀んでいるが、その先はたぶん、似合わない、だろうか。

 確かにサイネのイメージとは違うよなあとヒナトも思う。

 前に見た服装もシンプルかつもっとくっきりとした色合いだったが、そちらはよく似合っていた。


 もちろん断定はしない。着てみれば意外といけるかもしれない。

 サイネだって表情がきついだけで顔立ちは整っているし、小柄で華奢だから、系統としてはかわいいタイプ……のはずだ。たぶん。


 悩んでいるサイネを見て、急にアツキがあらぬ方へすごい勢いで手招きをした。

 なんだなんだ何が始まるんだ、とぽかんとしたヒナトとは対照的に、サイネがこれまた珍しく声を荒げる。


「ちょ、呼ばなくていい!」

「ユウラくーん! 客観的なご意見をお願いしまーす!」


 ……ああそういうことか。ヒナトは一秒で納得した。


 そう広くない室内でそこそこ大きな声を出していたので、ユウラどころか騒ぎに気付いたソーヤたちまでもがこちらにやってきた。

 思わぬ事態拡大にサイネが頭を抱えている。今日は彼女の珍しい姿をたくさん見られる日らしい。


「どうした?」

「サイちゃんにこれを着てみてほしいんだけど、どう思う?」

「……」


 そしてユウラは無言で頷いた。

 のを、アツキは満足げに頷き返してから、そっとサイネをふり返ってにやりと笑った。

 サイネはそれをすごく嫌そうに睨み返している。


 これは確信犯だなとヒナトにもわかった。

 敢えて衆目を集めることで、サイネの逃げ場を奪うという恐ろしい作戦なのだ。


 なぜならユウラだけならまだしも、アツキの広げたブラウスを見て、タニラなどもにこにこしながら合わせるスカートの物色を始めてしまったからである。

 あなたたちグルなの? いつの間に打ち合わせしたの? と言いたくなるような状況だった。


「……なんでこうなるわけ……」

「はいはい、諦めて試着しましょうね~。タニちゃーん、いいスカートあったぁ?」

「私のおすすめはこれかなぁ。あとこれもよさそう」

「ありがと。うん、……両方着ましょうか!」

「勝手に決めないでよ」


 うん、めちゃくちゃ楽しそう。


 アツキは渋るサイネを着替えさせに物陰に引っ込んでしまったので、ヒナトはちょっと悩んだが、タニラに例のTシャツを見せることにした。

 まだ合わせるものが決まっていないのだ。


 タニラはシャツをまじまじと眺めてから、ちょっと待ってて、と言って女子向けボトムの引き出しをごそごそやり始めた。

 それからしばらくして彼女は二枚の提案をしてくれた。

 一つ目はデニム地のシンプルなタイトミニスカート、後者はストレッチ素材の動きやすそうなショートパンツだ。


「ど、どっちもよさげ……! これは悩んじゃう……」

「決めきれないなら他の人にも聞いてみましょ。ねえ、ふたりはどっちがいいと思う?」


 ふたり?

 まさかと思って振り向くと、まあ他に考えにくくはあったが、タニラが意見を求めたのはソーヤとエイワだった。


「あー。……そうだな、おまえよくコケるし、ズボンのがいいんじゃねえか」

「スカートも似合うじゃん。やっぱタニラはセンスいいなぁ」


 男子たちのありがたいご意見を頂戴し、若干ながらヒナトはサイネの気持ちを理解した。

 勝手に他の人の感想まで聞かされるのってちょっと恥ずかしい。


 そしてちょっと考えて、ヒナトはスカートを選んだ。

 似合うかどうか、が知りたかったのだ。

 決してソーヤの意見を軽んじたわけではないし、彼の言い分ももっともだったが、聞きたいのはそこじゃなかった。



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