data_080:ぼくらは空に憧れる
久しぶりの開放日だ。
ほんとうならもっと楽しみに指折り数えていたところだが、最近いろんなことがありすぎてすっかり忘れていた。
それから三人は、今度はどこに行こうかという話をして盛り上がった。
やっぱりもっと服が欲しいということになり、それならとサイネが服屋を効率よく回るルートを考え始め、ヒナトはそんな会話をBGMにそばを食べる。
久しぶりに、楽しい雰囲気でたくさん人の声を聞いたような気がした。
ああ、ほんとうに、毎日ずっとこうがいい。
心からそう思う。
・・・・・*
そういうわけで業務後、三人は生活資材庫に向かった。
というか全員同じことを考えていたようで、気付けばGHのメンバーがオフィス棟二階に集結するという珍しい光景が広がっていた。
しいていえばワタリはまたいないが、彼は今回も出かけないのだろうか。
ちなみに生活資材庫というのは、その名のとおり生活棟で使うための資材があれこれ置かれている大きな物置部屋だ。
ヒナトはもちろん、他のソアたちも普段まったく立ち入ることがない。
各種洗剤やらトイレットペーパーに電球など、そういうものがこの部屋の主な住民で、基本的にそれらに用があるのは、生活棟の清掃や施設管理を担当する職員たちぐらいなのである。
そこに衣類があるというのも初耳だったが、それを知らなかったのはヒナトと新顔のエイワぐらいだったらしい。
他のみんなは勝手知ったるというようすで迷わず資材庫の奥へと歩いていく。
なるほどそこには引き出しタイプの衣装ケースが積まれていて、取っ手部分に中身の詳細を記したラベルが貼られている。
「女子トップス春夏……あった。ヒナト、ここから好きなの選んで。試着するならあっちの物陰」
「あ、思ったよりいろいろある……どれがいいかなー」
「うち、ちょっとニノりんの服見てくるね!」
自分の服も決めていないというのに、アツキはこちらの返事も聞かずに行ってしまった。
その背を見送りながら、物好き、とサイネが呟いたのをヒナトは確かに聞いた。
「アツキは放っておきましょう。なんかもうスイッチ入ってるみたいだから、あれ」
「あ、あはは……楽しそうだね……」
思わず苦笑いしてしまうのは、視線の先に大変まごついているニノリの姿があるからだ。
一緒に出掛けるわけでもないのにアツキが服を選んでどうするんだ、と思わないでもなかったが、当のアツキは眼をキラキラさせながらメンズ服を広げている。
問題はどれも小柄なニノリには少し大きそうなところだろうか。
ともかくサイネの言うとおりそちらは放置して、ヒナトは引き出しの中身をまさぐる。
色とりどりのブラウスやTシャツをためつすがめつ、どれがいいかなとサイネに尋ねては、合わせるボトムスによるというあまり参考にならない返事をいただいたりした。
そりゃそうかもしれないが、もっとこうヒナトに似合うかどうかとか、そういう点の意見が欲しい。
とりあえず好みで何枚か選んだはいいがこの部屋には鏡がない。
仕方なく、一旦持ち出してトイレに行くことにした。そちらのほうが室内も明るいし。
というわけで手洗い場の鏡に向かい、一枚ずつ身体に当ててみる。
まずはレース地仕立ての白いブラウス。
かわいらしい感じだが、ヒナトには大人しめすぎるかもしれない。
どちらかというとタニラあたりが似合いそうだし、あと生地からして、下に何か着ないと下着が透けそうだ。
次は薄いブルーのストライプが涼しげなノースリーブのシャツ。
これはかなりグッとくる。
ただ、下に合わせるパンツかスカートのイメージが上手く湧かない。
最後に美味しそうな果物の写真がプリントされたクリーム色のTシャツ。
袖が半透明の黄色いシフォン生地になっていて、かなりかわいい。
果物もトロピカルというか、フレッシュな感じが夏っぽくていいんじゃないかという気がする。
「第一候補はこれかなぁ。合わせるやつにもよるけど」
三枚のトップスを抱えて倉庫に戻る。
まだみんなわいわいやっていて、誰もがちょっと楽しそうだ。
そっとソーヤたちを窺ってみると、そちらではエイワが絶賛生きた着せ替え人形状態にされていた。
ソーヤが笑っているので少しほっとする。
どうも彼とエイワで若干好みが違うようで、あれこれ言い合っているが、それすら楽しそうだ。
そこへタニラがかわいらしいスカートを手に現れ、ふたりに意見を求めている。
ちょうど顔の角度が変わってしまったのでソーヤがどう答えたかはわからなかったが、とりあえずエイワがものすごく顔を綻ばせているのはよく見えた。
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