data_051:サラダとパスタとオムライス②
急ぎでランチをしっかりデザートまで食べきってから、お先にねと言い残してアツキは食堂を出ていった。
それをサイネとふたりで見送ってからヒナトもお茶を飲む。
でもって、一応サイネの意見も伺ってみた。
「ニノリくん、エイワくんと上手くやれると思う?」
「どう考えても無理」
「……だよね」
苦笑いするヒナトに、サイネが意外そうな顔をしながらスプーンを置いた。
ヒナトからすればサイネがオムライスを食べていることのほうが意外だったがそれは黙っておいた。
「あんたぐらいの鈍感でもニノリのおかしさはわかるんだ」
「ど……鈍感かな? あたし」
「相当。まあ自分の近くって案外よく見えないものかもね……。
ニノリのことはアツキに任せておけばいいから、あんたはソーヤをちゃんと見ててやんなさいよ。エイワがGHに来るってことは、あいつやタニラにも影響が出る」
「そうなんだよね……」
結局問題はそこに帰結する。
あれからソーヤも落ち着いているが、いざもう一度対面したら今度こそ誤魔化しが失敗するだろう。
どのみち長く隠せることではないのだ。
でもってあんなふうに取り繕おうとしてしまったあたり、ソーヤに自らの病気を打ち明ける心構えはなさそうだった。
タニラはタニラで信用はできても頼りにはできそうにないし、もう他の誰かが横から手助けするしかないのではないか。
もちろん誤魔化し続けるのではなく真実を伝える方向で。
「あのさ、サイネちゃん……ソーヤさんを説得してる暇はなさそうだし、あたしからエイワくんにほんとのこと言っちゃってもいいかなあ」
「私に聞かれても。しかもわざわざ損な役回り引き受けたいの?」
「いやだって、誰が言ってもソーヤさん怒るだろうし、あたしなら怒られ慣れてるし……こないだもちょっと怒られたけど、ワタリさんが助けてくれたの。
ワタリさんも同じ意見みたいだから、次もきっとあたしの味方になってくれそう。
たとえばこの役をアツキちゃんに頼んだとしたら、エイワくんは驚いてそれどころじゃないよね。
ニノリくんはアツキちゃんの味方だろうけど、ニノリくんとソーヤさんで揉めたら、それはそれでまずいし。
タニラさんは……彼女が泣いたら、ソーヤさんが辛いから」
「確かに班長同士で対立されるのは私も迷惑かな。会議じゃあいつらに挟まれる位置だし。
それに私やユウラじゃ伝えたあとのフォローなんかできないから、確かにこの件に関してはあんたの言うことも正しい」
サイネはオムライスを一口食べて、飲み込んでからもう一度口を開いた。
「けど、他にも適任者はいる。
それこそラボの連中に任せてもいい。むしろ、ラボの職員こそエイワが起きた時点でソーヤのことを真っ先に伝えるべきだった、ぐらいに私は思ってる。
あいつらが仲良かったことなんか誰だって知ってるんだから」
「……ソーヤさんの気持ちを考えて黙っててくれた、とかなのかな?」
「さあね。
あ、この件の相談するついでにラボを覗けば? でまかせの相談内容でっちあげるよりは真実味あっていいんじゃない、事実なんだし」
そ、そこを繋げるのか。
ヒナトはちょっと唖然としてしまったが、サイネは自らの発想にひとりで満足したようすで、オムライスの残りを美味しそうに平らげた。若干機嫌も直った気がする。
そしてそのままさっさとオフィスに帰ってしまったので、ヒナトはいろんな意味で取り残された。
前からソアにはちょっと変わった人が多いように思ってはいたが、サイネもやっぱり変わっている。
なんていうか、ひとの真剣な悩みごとを、他の目的とあっさり一緒にしてしまうなんて。
たしかに理に適ってはいると思うし悪いことではないけれど、それにしても躊躇いがなさすぎるのではとヒナトは思った。
──とはいえ実際、もう悩んでるような時間はないんだよね。
午後からエイワがGHに来てしまう。
ヒナトも仕事中は勝手に動けないので、ラボに相談に行くとしたら上がってからだが、それは同時にソーヤやエイワにとっても自由時間なのだ。
ラボの職員が説明役を引き受けてくれたとして、その前に彼らが接触してしまったら意味がない。
ソーヤから会いに行く可能性はかなり低そうだから、エイワを誰かに引き留めてはもらえないだろうかと思ったが、そのお願いをしにいく時間も頼む相手を探す暇もすでになかった。
気付けば昼休みはもう残り五分を切っている。
トレーを返却しながらヒナトは一生懸命考えた。
そして思った。
自分は一班の秘書なのでソーヤとのほうが自然に接触ができる、というか今からオフィスで会う。
仕事終わりになんとか理由をつけてソーヤを連れ出し、そのままラボで誰かに預けてついでに相談ができれば、エイワを引き留めてもらう必要がないのでは?
連れ出す理由は仕事中に考えるしかないが、少なくとも多少なりと時間に余裕が持てる。
これだ。我ながら名案。
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