data_043:情報整理とミッション獲得
「そのリクウ説においては、アマランス疾患は過剰な自己淘汰機能であり、
「……ごめん。じことうた、って何ですか……」
「淘汰、っていうのは不必要なものを排除すること。それをソア自身が無意識に行ってるってことらしい」
ある程度は予想していたが案の定難しい話になってしまい、ヒナトはそそくさとメモ帳を取り出した。
最近はこれが活躍する機会が多い気がする。
アツキにも言われたとおりいろんなことが起こりすぎて、自分の頭だけではどうにもならないことが多いので、まあ内容も扉のパスワードだのコーヒーの淹れかただのとしっちゃかめっちゃかなのだけれども。
えっと。
なんだ。
リクウさん、医務部の人。ソアだった。
生き残りの片割れ、という言いかたが気になったので尋ねてみたところ、彼と同期のソアがもう一人いるだけだそうだ。
そういえばみんな死んじゃったとタニラも言っていた。
それからええと、リクウさん、アマランス疾患について調べてた、と。
リクウ論が今のスタンダードらしいが、サイネの話しぶりがどうも懐疑的というか、彼女自身はいまいち納得がいっていないようすだ。
じことうたきのう。自己、淘汰、機能。
難しい字だな。
自分で自分をもう必要がないと判断してしまうこと。
そして、身体が勝手におかしくなって、具合が悪くなったり記憶がなくなったりする問題が起きて、最後には死んでしまうようだ。
……なんでそんなことをする必要があるのかヒナトにはまったく理解できない。
ちなみに発芽っていうのは、アマランス処理を施された胚が発生することを差す花園用語です。
「一定数っていうのは?」
「それがそもそもわかってない。リクウが統計を採ったところによれば閾値は二十四人ってことになってて、"
まあ彼の場合、植木鉢に不具合があったみたいだから外的要因もありといったところでしょうけど」
「え、不具合って」
「なんかね~、途中で装置の管理システムがストップしちゃったらしいのね。だから中途半端なところで一回起きちゃったんだっけ? そういうログがあったってユウラくんが言ってたよね」
「そう。記憶障害そのものの直接的原因はそれでしょうね。
ガーデン時代のことだけ完全に忘れたわりに、GHに上がって以降の記憶には問題ないみたいだし。
とにかくリクウの論にはいろいろ不備が多すぎる。
当時はある程度当てはまった部分もあったみたいだけど、たとえば年長のソアから死んでいくという仮説はリクウが存命である時点で否定されたようなものだし。世代で区切るにしてもソーヤは私たちの代の年長じゃない」
「そーなんだよね。その説でいくと危ないのほんとはユウラくんとうちだもんね」
あ、そうなんだ。
……ソーヤさん、ユウラくんとアツキちゃんよりは歳下らしい、と。
これからユウラにも敬語で対応したほうがいいだろうか。
なんだかんだで一班の人とタニラとニノリくらいにしかちゃんと敬語を遣ってないヒナトであるが、ニノリ以外は全員歳上のはずだ。たぶん。
アツキには無理な気がする。
なんていうか、アツキの纏っているほわほわした空気が強すぎて、たぶん敬語で話し続けるための集中力が持たない。
「それなんだけど、アツキ、あんたは何ともないわけ?」
「幸い、このとおりとっても元気ですよぉ。あと、あえて言っちゃうと、ユウラくんのこともちゃんと心配したげてね?」
「あいつはいいの。
そんなことよりヒナト、あんたも今後この議論に入るっていうなら、幾つかそれなりの仕事をやってもらうからそのつもりでいなさいよ。私も毎回ただで情報あげるほど暇じゃないし」
「えぇ……仕事って何を……」
「適材適所。私やユウラにはできないけど、あんたやアツキなら得意なこともあるでしょ。
直接ラボの職員に聞き込みしてみるとかね。
もちろんそのまま尋ねても素直に答えはしないでしょうけど、どうでもいい雑談を長々続けてるうちに、うっかり何か零すってこともある」
「ああー……そっか、うーん、それはそれで難しそうだけど、お喋りするのは好きだしやってみる!」
思わず拳をぐっと握って宣言するヒナトを、サイネはやや苦笑の混じった表情で見ていた。
それからしばらく作戦会議が続き、結局ヒナトはうどんを完食するのにランチタイムを時間ぎりぎりまで使ってしまったので、今日は少なくとも仕事終わりまでは活動できそうにない。
しかしやることが多少明瞭になったせいか、ヒナトの気分はさっぱりしていた。
「そういえばあたし、タニラさんに宣戦布告されたよ」
気持ちが上向いてきたのでつい、トレーを返却場所に戻しながらそんなことまで報告してみる。
「何それ? っていうかなんであんた嬉しそうなの」
「今までは存在すら認められてない感じだったから……なんかこう、秘書として一段階なにかのレベルが上がったんじゃないかなって」
「うーん? ……とりあえず、よかったね?」
ヒナトは上機嫌ですらあったが、うしろでふたりは顔を見合わせていた。
なんか勘違いしてんじゃない、とサイネが呟いていたけれど、その声はヒナトには届かなかった。
もっとも聞こえていたところで意に介さなかっただろう。
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