data_024:プレゼントとラッピング
「ヒナトは今日は下見だけにしときなさい。自由日初日は何かと慌てて無駄な買いものしがちだから」
「え、えっ、そんなご無体な!」
「大丈夫よぉヒナちゃん。他のお店も回るから今すぐ決めなくていいよって意味だから、サイちゃんのこれは」
なんだそりゃ。
と思ったが、よくよく考えれば使えるお小遣いの額は限られている。
ヒナト自身の欲しいものだってきっとたくさん見つかるのだ、購入できるのはそのうちの幾つかだけなのだから、かなり厳選していかねばならないということだろう。
そうこうしているうちにひとつ目の店舗に入る。
アツキはあらかじめ買うものとその売り場を決めていたようで、サイネとともに迷うことなく店内を歩いていく。
手を繋いでいたヒナトも道連れだ。
初めて来た見たこともない未知の空間にきょろきょろふらふら、挙動不審きわまるヒナトであったが、アツキはそれに構わず進む。
やがてふたりは木製の洒落たテーブルにずらりと並ぶ、きらきらと美しい謎の金属片の大群を迎えることになった。
なんだか素敵な装飾品のように見えるが、ここは男性向け服飾品専門店だし、男の人が使うしろものなのだろうか。
「アツキちゃん、これって何?」
「ネクタイピンっていうの。ネクタイをシャツに止める道具ね。ニノりんに似合いそうなのずっと探してたんだ~」
「で、どれにするか決めてあるの? あんまり高いのはやめときなさいよ」
「ほんと高いよねえ……まあソアが礼装する機会はないからちゃんとしたのじゃなくていいし、かわいければいいぞってことで、これでーす」
と言いながらアツキが選んだのは、猫の形をした銀色の一品だった。
前足と背中を伸ばし、お尻を後ろに突き出したような独特のポーズで、くるりと巻いた尻尾が愛らしい。
「ニノりんって動物に例えると猫ちゃんだと思うんだ~。人見知り激しいところが」
だそうである。
あらゆる意味で詳しくないヒナトは黙って見ているしかないが、まあアツキがよければそれでいいんじゃなかろうか。
アツキはさっそく購入のためレジへと向かったが、どうやらプレゼント用の特別な包装をサービスしてもらえるらしい。
バッグから取り出した赤い財布がいかにもアツキらしくてかわいいなあ、と呑気に眺めるヒナトの視界の隅を、そっと隠れるように動いた人影があった。
見ればサイネがそのへんの商品を眺めている……のだが、にしては妙にじっくり改めている。
値札を。
そこへアツキが早々に戻ってきた。
包装に少し時間がかかるんだって、と言いながら、彼女の視線と意識は間もなくサイネのほうへと流れていった。
窺ったその横顔は好奇心とその他諸々の面白おかしい感情に満ちた笑みである。
「ユウラくんには何あげるの~?」
「あっ、べつに見てただけで、だいたいまだ渡すかどうかも決め……って何でユウラよ」
「照れちゃってかわいいなーもぉ~」
へっへっへー、とからかうように笑うアツキに女王様はご機嫌を損ねたらしく、つんとそっぽを向かれてしまった。
そのまますたすたと入り口近くまで歩いていく。
もしやこのまま喧嘩にならないでしょうね? と不安になるヒナトだが、アツキはからから笑ったままサイネを放っていた。
しかもすぐレジでプレゼントを包んでいた店員さんに呼ばれたので、サイネのことを気にしている暇はなかった。
せっかくの外出、嫌な思い出を作りたくないヒナトはこっそりとアツキに尋ねる。
「アツキちゃん、サイネちゃんあれ怒ってるんじゃない? 大丈夫?」
するとアツキはいつものお母さんみたいな優しい顔に戻って答えた。
「けっこう恥ずかしがりなんだよねえサイちゃんて……これくらいならいつものことだから。
むしろ、たまーに焚きつけてあげるくらいでちょうどいいんじゃないかな~あの夫婦は」
「ふ、夫婦って」
「サイちゃんとユウラくんね。あーヒナちゃんは知らないだろうけど、ふたりはねえ、もうガーデン時代には愛を誓い合ってるから。
もちろんこれ職員さんには言っちゃだめよ」
「そそそっ、そうなの? とてもそーゆー雰囲気には見えないけど……」
あ、愛を誓い合う、って。
正直そういう甘い響きの言葉とは限りなく対極にあるようなふたりだと思っているヒナトには一ミリも想像がつかない。
むしろその前に研究関係の話を語り合ってそうじゃないか。
なんだかもやもやとした感情に包まれながらも、サイネとアツキに連れられて次の店へ向かった。
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