data_022:出発準備
午前の業務を済ませ、昼食を済ませたのち、ヒナトはいそいそと自室に戻った。
ソアに与えられる部屋はそんなに広くもなければ備品も少ない。
とくにヒナトの場合いままで外に出たことがないだけに、私物と呼べるものが極端に少ないといえる。
だが今日はベッドとテーブルの殺風景な室内に、見慣れない色合いの物体がぶら下がっていて、それを見ただけでもヒナトのテンションはもりもり上がる。
かわいらしいピンクのワンピースはアツキに借りた。
それから気温調節用にとサイネから黒い上着、そしていただいたお小遣いをなくさないようにと職員がちっちゃなポシェットをくれた。
いてもたってもいられない!
まだ外出許可の下りる時間にはまだ早かったが、ヒナトは待ちきれずに制服の上着を脱ぎ捨てる。
ハンガーにかけるのさえもどかしい。
そして胸元のリボンを掴んだところで、誰かの来訪を告げるチャイムの音が鳴った。
壁に埋め込み式のパネルを確認する。職員さんだ。
「は、はい、何でしょう!」
脱ぐ前でよかったなと思いつつ、飛び跳ねるようにして出迎えるヒナトに、職員のお兄さんはちょっと苦笑いしている。
「グリーンハウス所属番号A-1710番さんだね。チェックがあるからまだ着替えないでくれるかい」
「チェック?」
「決まりで、体調が優れない場合は外出を認められないんだ。いつもの健康診断とほとんど同じだから心配は要らないよ。きみ、見た感じすごく元気そうだしね」
「はい、もうっ、元気です!」
ヒナトは一度脱いだ上着を引っつかんで部屋を出た。
そのまま職員さんと一緒にラボの医務部へ向かう。
するとすでに他のソアも集まっていて一列に並んでいた。
その先にはソアの健康状態を調べるための機械があり、確かに毎月の健康診断と同じような雰囲気だなあとヒナトは思った。
あの大きな箱に入ってちょっと待っていれば結果が出るという簡単なものだ。
だが、並んでいるみんなの顔はどことなく硬い。
しかも最後尾はソーヤとタニラであった。
いや本来ならタニラひとりだったのであろうが、彼女はぴったりソーヤの隣をキープしているのでそう見える。
「お疲れさまでーす……」
「おうお疲れ。そっかヒナも出かけんのか」
「はい。サイネちゃんたちと。……ソーヤさんは、タニラさんと、みたいですね」
「まあな」
例によってタニラはまともに返事などくれそうにない状況であったので、とりあえずソーヤに向かって話しかけた。
もう睨んでくる視線ビームは慣れてきたのでどうでもいい。ちょっと痛いけど我慢だ。
「なんか、健康診断とちょこっと雰囲気違います?」
「こっちのが少し判定厳しいからな。俺らも前にタニラがひっかかって外出許可下りなかったし……タニラ、今回もし俺がアウトだったらヒナたちんとこ混ぜてもらえよ」
「……いいわ、ソーヤくん置いてくの嫌だもの。一緒にお留守番する」
わあ。改めてタニラさんあなた、ソーヤさんの前だと甘えん坊さんね!
……とちょっと言いたくなったヒナトであったが、命が惜しいので黙っていた。
いまは外出許可を得ることのほうが重大案件だ。
でもソーヤのまんざらでもない顔はちょっといらつく。
・・・・・+
十数分後、無事に良い判定をもらえたヒナトは、今度こそ高速で着替えを済ませて一階のエントランスホールに駆け込んだ。
早すぎて誰もいなかった。
仕方がないので通りすがりの職員などを捕まえてお喋りしながら待った。
やがて外出時間が近づくと、私服に身を包んだソアたちがひとりまたひとりと現れる。
サイネはTシャツとショートパンツにレギンスを合わせ、彼女のスレンダーな体型がよく映えるスタイルだった。
さすがご自分をよく理解していらっしゃる。
アツキはふんわりした色合いのスカートとカーディガンがかわいらしい感じだ。
他のソアもそれぞれ違った服装で、みんな好みや個性がばらばらなのだなと実感した。
いつもは同じ制服ばかりだからなんだか新鮮だ。
ひそかにちょっと心配だったのはソーヤだが、ややあって小洒落た恰好の男が清楚なロングワンピの美少女を連れて現れたので、……なんかヒナトは損した気分になったのだった。
まあそんなことはどうでもいい。
いざ、初外出!!である。
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