data_015:たしかに我々が食べました
タニラはかかとでくるりと回転して、給湯室へ向かった。
どうしていちいちかわいらしい動作ができるのだろう。
もはや一種の才能なのではないかとさえ思う。
さて、ソーヤとふたり残されてしまったが(それはいいのかタニラよ)、べつに彼と話す内容もない。
仕方がないのでワタリのほうに行った。
こちらではちゃんとすぐに返事があって、しかも「あ、お疲れさま」とねぎらいの言葉もいただけた。
やったね!
そのあと間髪いれず「次からはもうちょっと気をつけてよ」とだめ出しもくらいましたがね!
でもいいのです、ちゃんとお仕事してる人に言われた正論なら素直に頷けるというものです。
「で、どうしてサイネちゃんたちがいるのかなあ」
「そりゃあんたらのせいでしょーが。……はい王手、また私の勝ちね」
「えっもしかして床、漏った?」
「あんたねぇ……あーもう面倒だからユウラが説明してよ、負けたんだし」
きょとんとサイネを見るヒナトに構わず、サイネはオセロの玉を回収し始める。
どう見てもオセロだが、ふつう王手って将棋のときに言う科白じゃなかったか。
でもって盤上の黒白のバランスが妙である。
それより今日ヒナトがやらかしたのは、今のところ飲みものを床にぶちまけたのと、それを自分のPCにかけてしまったことの二点だけだ。
それでどうして二班に被害が及ぶというのだろう?
ユウラのほうを見るとちょっぴり顔をしかめていた。
……それは被害によるものなのか、それともゲームでサイネに負けたことでか。
どちらにしても珍しい。
悔しそうな(?)顔のまま、ユウラが口を開く。
「……給湯室に冷蔵庫があるだろう」
「あ、うん。ユウラくん秘書じゃないのによく知ってるね」
たしかに彼の言うとおり給湯室には冷凍庫つきの小型冷蔵庫がある。
ゼリーなどの冷たいデザートが入っていて、休憩のときにお茶受けと称して食べることができるのだ。
ソアたちは自由に外へ出られないので、たぶんそういうものを買ってくるのはラボの人間なのだと思われる。
最近では一班の三人でプリンを食べた。
美味しかった。
「そのプリンなんだが。おまえたちが食べたせいで、ニノリが禁断症状を起こして暴れている」
ニノリというのはアツキのいる第三班の班長だ。
でもってふたりしかいないので、二人班とも呼ばれている。
「ど、どゆこと?」
「あいつは俺たちの誰より有能だが、それだけ糖分の消費が激しいらしい。簡単に言えば病的な甘党なんだ」
「……あ、そういえばあたしたちが食べたので最後だったかも」
「おバカ。それで御奉行がご乱心しちゃって、三階はもう仕事どころじゃないんだから。
いまはアッキーがひとりで宥めてくれてるけど……あんたらも飲むもの飲んだら責任とってどうにかしてきなさいよ」
「はあ」
サイネの言う御奉行とはニノリのことらしい。
ワンマンだと言いたいのだろうか。
それにしても隣のオフィスでさえ仕事にならないほどの暴れかたって……。
さっきヒナトが降りてくるときはエレベーターを使ったのでわからなかったが。
あと今日はまだ給湯室には行っていないのだ。
ちなみに給湯室は他の階にもあるのでタニラはそちらを使ったものと思われる。
そうこうしているとタニラが戻ってきたので、ヒナトはカフェオレをゆっくり飲んでから(悔しいが美味しいので味わった)、ワタリとソーヤに三階プリン騒動の話をした。
が、どうやらふたりはとっくに知っていたようで、ソーヤなどあからさまに面倒くさそうな顔をした。
「俺様は食ってねーんだけどな。甘いの嫌いだし」
「うーそういうこと言わないでくださいよう。ワタリさんだけじゃ心細いですし、あたしだって一応はかよわい乙女なんですよ」
「どこがだよ」
「ぐっ……せ、背が低いとことか?」
「あーうんたしかにチビだな」
うっ、自分で言ったことを繰り返されただけなのに、なんだか妙に腹が立つ言い草だ。
チビっていう言いかたがよろしくない。
たしかにヒナトは背が低いほうだが、チビってほどじゃない。
「まあでも班員の失態は俺の責任だしなー。しゃあない、ワタリは五階以上の給湯室を見てきてくれ」
「りょーかい」
その班員の失態ってのはもしかしなくてもプリンを持ってきたヒナトのことか。
まったく、どうしてソーヤという男はいちいち人につっかかる言いかたしかできないのだろう。
でもってタニラもよくこのソーヤに懐いたものだ。
いや、ソーヤは基本的にタニラには甘い。
というかヒナト以外の人間にはそんなに厳しくない気がする。
なんだかよくわからないが、ヒナトに対してばかりこう、なんというか……こういうのは上から目線っていうのだろうか。
小馬鹿にしているというか偉そうというか。
実際ソーヤのほうが立場は上で偉いのだが。
ちょっともやもやしたが、オラ行くぞと急かされて、ヒナトもいそいそロビーを出た。
→
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます