第66話 実力差

 ミアンの風魔法は物理的にダメージを与えるだけでなく、集まった荒くれ者たちの戦意まで根こそぎ削ぎ落していった。


「あ、あんなのと戦えって言うのか……?」

「は、話が違うぞ!?」

「ガキをいたぶるだけの楽な仕事じゃなかったのかよ!?」


 彼らの動揺……分からないわけじゃない。普通、王立学園と呼ばれる場所に通うのは貴族のお坊ちゃんやお嬢様ばかり。戦闘には加わらないのが当たり前というなかで、ここの生徒たちはこういった場面で積極的に前へと出てくる子ばかりなのだ。


 誰からどういった情報を得ていたかは、彼らの反応を見ていたら分かる。

 問題はその黒幕だな。

【星鯨】の面々は【深海の太陽】の口車に乗ってノコノコやってきたって考えられるが、俺やスミス副学園長、さらに騎士団のリチャードさん辺りはさらにそのバックに別の黒幕がいるのではないかと想定していた。


 有力視されているのは王家の人間だ。

 なんでも、現国王を引きずり降ろそうという勢力があるらしく、その中枢となっている人物が絵図を描いているのではないかと推測していた。

 果たしてそれは誰なのか――たぶん、ブリングたちは知らないだろう。問い詰めるのであれば、【深海の太陽】の方か。


 あそこのリーダーの名前はステイトンだったな。


 世界的な冒険者として名高いが、同時になかなかの曲者であるという噂もある。俺も直接会ったことがあるわけじゃないからなんとも言えないが、今回の学園襲撃事件を裏から仕組んでいるとするなら、相当な食わせ者だな。


 さて、スミス副学園長はワイバーンの対応に手いっぱいだろうから、ここでヤツらを捕らえて情報源にしておいた方がよさそうだ。【深海の太陽】は状況次第で撤退する可能性もあるからな。


 そうと決まったら、ヤツらが逃げださないうちに次の手を打とう。彼らは今、ミアンからの攻撃で動揺し、冷静な判断力を失っている。攻めるなら今だ。

 ――と、思っていたら、


「狼狽えてんじゃねぇぞ!」


 突然、怒鳴り声が響き渡った。

 声の主はブリングだ。


「あんな見せかけの魔法にビビってんじゃねぇよ! どうせ一発限りだ!」

「で、でもよぉ……」

「こっちの方が数では圧倒しているんだ! 数で押していけ! それに、あと少しすれば援軍が到着する!」


 ブリングは必死に冒険者たちへ訴えかける。


 ――って、まだ人が来るのかよ。

 どれだけ増えようが、この子たちをまとめて相手にするなら相当な実力者が揃わないと難しいだろうな。


 それよりもあの必死さ……さては今回の件で手柄をあげ、【深海の太陽】のリーダーであるステイトンに取り入ろうってわけか。だとしたら、ここは何があっても押し通すだろう。


「ふん! 余裕の態度でいられるのもこれまでだぞ、ルーシャス!」


 どうやら、ブリングの怒りはなぜか俺個人に向けられているようだ。


「俺はまだ何もしちゃいないぞ、ブリング」

「黙れ!」


 ダメだ。

 取り付く島もない。

 いよいよ本隊が出てくるみたいだし……俺たちも行くか。


「みんな、敵が来るぞ」

「分かっていますよ、師匠」


 リゲルが一歩前に出る。

 それに合わせて、他の生徒たちも臨戦態勢を取った。

 ――ついに、正面からぶつかる時が来たようだ。

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