第59話 騎士リチャードの疑問

「あなたの言う通りのようですね。実際、この学園に来てから目覚ましい活躍を見せている学生も増えていると聞きます」


 俺が来てから変わった学生、か……


 フィナ。

 リゲル。

 アデレート。

 そして昨日のニコール。


 ……まあ、厳密に言うと、リゲルは【星鯨】にいた時代からの付き合いだから生徒と呼ぶには怪しいけど。

 ともかく、育成スキルを使用したのはこの三人かな。


「育成スキルの力……どうやら、本物のようですね」

「いや、俺なんかの力なんて微々たるものですよ。育成スキルの役割は、あくまでも背中を押す程度……最後の一歩を踏みだせるかどうかは、本人の問題です」

「それでも、あなたが力添えをしていることには違いありません」


 リチャードさんの言葉に、サラは「うんうん」と何度も頷いていた。

 さすがに、彼ほど立場のある人間からそこまで言われると照れるな……


「しかし、そんな優秀なあなたがパーティーを抜けるとなると、リーダーのブリングから引き留められなかったんですか?」

「あぁ……えぇっと……」


 まさかそのブリングに追いだされたとは言いづらい……けど、嘘をつくわけにもいかないので真実を口にする。


「その……パーティーは自分の意志で抜けたのではなく、私は追いだされた身でして……」

「お、追いだされた?」


 ちょっと声が裏返るあたり、結構な驚きがあったようだ。リチャードさんの後ろにいる騎士たちも、何やらコソコソと話し合って落ち着きがない。

 しばらく沈黙が流れると、ようやくリチャードさんが「コホン」と咳払いをして話を再開した。


「なるほど……サラ先生がリーダーを小物と斬り捨てた理由がよく分かりました」


 リチャードさんは何度か頷きながら話を続ける。


「それほど多くの優秀な人材を育み、パーティーの成長に多大な貢献を果たしたルーシャス殿をろくな理由もなく追放する……愚の骨頂ですね」

「おっしゃる通りです」


 サラは即座に同意する。

 俺としては……ちょっと反応に困りはするけど、嬉しい限りだ。

 

 さて、ここまでの説明ではブリングの無能ぶりがあらわになっただけだが……どうやら、リチャードさんは何か手応えを得たらしい。


「おふたりの話を聞いて納得しました。――恐らく、【深海の太陽】はブリングたちを捨て駒に使う気なのでしょう」

「す、捨て駒、ですか?」


 ……ブリングたちには悪いが、なんだか物凄くしっくりくるな。

 同じくトップクラスの実力を持ちながら、経験や練度で言えば格上にあたる【深海の太陽】が、ブリングの人間性を見抜けないわけがない。


 落ち目になっている今なら容易く手懐けられると判断し、接触を試みたのだろう。それにブリングがまんまと乗せられたってことか。一番あり得そうな展開だな。



 俺たちから【星鯨】の情報を聞きだしたリチャードさんたちは、話し終えると騎士団の詰め所へと帰還――するわけではなく、このまま学園に残るらしい。


 表向きは特別指南役として派遣されたと生徒たちに説明されるらしいが、きっと勘の良い子は気づくだろうなとリチャードさんは苦笑いしていた。


 気づく子、か。

 真っ先に浮かんだのはミアンさんだった。


 学園でも屈指の実力者である彼女ならば、騎士団がしばらく学園に滞在すると聞いてピンとくるかもしれない。だからと言って、こちらから情報を教えるなんてことはしないけど。


 ともかく、こうして報告会は終了。

 クーデターなんて厄介な事態にはならないことを願うけど……それは本職の方々にお任せしよう。

俺は俺にできる仕事を着実にこなしていくだけだ。





※明日も12:00から投稿予定!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る