第58話 騎士団到着
次の日。
スミス副学園長からの要請で、【星鯨】という冒険者パーティーに関する情報を騎士団に提供することとなった。
ちなみに、今回の報告会にはサラも同行する。
「信じられない――と、言えば嘘になるかしら」
騎士団が学園に到着するまで、サラと管理小屋でともに待機するが……話題はどうしてもブリングたちになってしまう。
「あのブリングが地に落ちた評価を上げようとするなら、何か大きなことをしでかそうとするのは予想できていたけど……まさかあの【深海の太陽】と組んでクーデターを起こそうとしているなんて……」
「あいつらを擁護するわけじゃないけど、まだハッキリとしない段階で決めつけるのは危ないと思うよ」
「まあ、そうなんでしょうけど……」
情報の出所は正体不明の密告者。
ただ、スミス副学園長の話によると、騎士団の上層部は信憑性の高い情報と判断しているらしい。内容が内容だけに、ガセでしたじゃ済まされないからなぁ。迂闊に兵力を動かすなんてしないだろう。
……まあ、それでも俺の話を聞きに来るってことはつまり、外に出していないだけで確固たる証拠があると見るべきか。
「でも、本当にクーデターを企てているとするなら……目的は何かしら?」
「クーデターの目的はいつの時代も同じだ。――現国王の体制に不満を持つ者が、その座を奪おうとする」
「現在のカルドア王国の国王陛下……国民からの評判は悪くないはずよ」
悪くないどころか、むしろ歴代でも五指に入る有能な国王として認識されていた。
ただ、そういえば……
「確か、現国王は冒険者に対して新しい税収政策を掲げていたな」
「あぁ……あったわねぇ、そんなこと。一時期、過激な反対運動もあったみたいだけど、結局は見直しが行われて和解したって話で――って、まさか、【深海の太陽】はそれに反発してクーデターを企てているっていうの?」
「あくまでも俺の推察だけどね」
話し合いの末に丸く収まったっていうのは俺も聞いている。
ただ、それはあくまでも当事者同士にしか分からないことだ。
丸く収まった風に見えて、実は両者の間に何かしらの遺恨があるのだとしたら……それに対する報復か、或いは新しい反対運動の類か。
……ともかく、今日会う予定になっている騎士に洗いざらい話して今後の対策の参考にしてもらうとしよう。今の俺にできるのは、きっとそれくらいしかないからな。
しばらくすると、学園からの使いが騎士の到着を伝えにやってくる。
「行こうか、サラ」
「えぇ」
俺はサラとともに管理小屋を出て、騎士の待つ中央校舎の会議室へと向かった。
会議室では、すでに数人の騎士が俺たちを待っていた。
中でも、真ん中に立つ若い騎士は――明らかにひとりだけ風格が違う。周りにいる騎士たちの方が年上のように見えるが、間違いなく実力的には彼がナンバーワンだろう。ひと目見ただけでそれが分かるほど、その騎士は格が違った。
「はじめまして。王国騎士団のリチャードです」
涼やかな声と凛とした立ち振る舞い……これは育ちもよさそうだな。
「は、はじめまして。学生寮管理人をしているルーシャスです」
「教員のサラです」
互いに自己紹介を終えると、早速本題へと移った。
「スミス副学園長のお話によると、あなた方は元【星鯨】のメンバーだそうですね」
「え、えぇ、そうです」
俺と同じくらいか、ちょっと若いくらいの年齢なのに……なんというか、普通の会話でさえも気圧されてしまうな。威圧感って言ったらいいのか、静かな口調ながらも秘めたる迫力ってものが伝わる。
「すでに説明があったかと思いますが、騎士団は【星鯨】が【深海の太陽】と結託してクーデターを起こそうとしているという情報をキャッチしています」
「……まず間違いなく起きるんですよね?」
「上はそう見ています。――この僕も」
リチャードさんまで……こりゃ相当自信があると見えるな。
「まず、【星鯨】のリーダーであるブリングという冒険者ですが……一体どういう人物なのですか?」
「ハッキリ言って、ただの小物です。この男は脅威でもなんでもありません」
サラからバッサリ一刀両断されるブリング。
その歯に衣着せぬ正直な口ぶりに、リチャードさんの背後に立っていた騎士の何人かは「ぶっ!」と噴きだしてしまい、すぐに「申し訳ありません」と謝罪して真顔に戻る。
「しかし、【星鯨】は知名度も実績も抜群のパーティーだ。最近はやや精彩を欠いているようだが、それでも過去の栄光は偽りじゃない。君の言うように、そのブリングというリーダーが本当に無能だとしたら、なぜここまでのし上がれたんだ?」
「すべてはルーシャスの持つ育成スキルのおかげですよ」
「お、おい!」
いきなり話を振られてたまらず動揺してしまう。
案の定、リチャードさんたちの視線は俺へと注がれた。
「キュセロ学園長から話は聞いています。――なるほど。あなたの育成スキルで鍛えられたからこそ、【星鯨】は大陸屈指の冒険者パーティーにまで成長できたのですね」
「その通りです」
「サラ!?」
迷いない即答に、俺だけじゃなく騎士たちも驚いていた――が、逆にその潔さが信頼の表れと捉えられたらしく、リチャードさんはニコリと柔和な笑みを浮かべるのだった。
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