第57話【幕間】結託
ブリング率いる【星鯨】は、テリーザの手引きによって【深海の太陽】と合流を果たす。
そこは王都近くにある渓谷で、【深海の太陽】はそこにテントを張り、拠点として運用していた。
中でもひと際大きなテントの中に、【深海の太陽】のリーダーであり、世界屈指の冒険者として名高いステイトンの姿があった。
「やあ、よく来てくれたね」
「ど、どうも」
使者に案内されて、【星鯨】の幹部メンバーはステイトンと対面する。
緊張気味のブリングたちとは対照的に、ステイトンはどっかりと構え、強者の雰囲気を醸しだしていた。
「君たちの噂は常々耳にしているよ。大変な事態も経験したようだが……それも含め、私は君たちの力を高く評価している。どうか力を貸してほしい」
「もちろんですよ」
ブリングは笑顔で答える。
彼からすれば、これは格好の機会。
ここで自分たちよりも格上の名門パーティーにアピールできれば、今後さまざまな仕事で協力体制をとれる。【深海の太陽】との関係性が広まれば、まとわりつくダークなイメージを払拭できると考えていたのだ。
「それで、俺たちは何をすれば?」
「うむ。では早速本題に入ろうか」
ステイトンは大きく息を吐いてから、自身の計画を口にした。
それは――カルドア王国の国王を今の座から引きずり下ろすというとんでもない内容であった。
「こ、国王を……」
政治関連の話題に興味のないブリングたちだが、ステイトンの口にしている内容の恐ろしさはすぐさま理解した。
「な、なぜ、そんなことを?」
「……今の冒険者の地位は低すぎると思わないか?」
「えっ?」
「危険なダンジョンへ探索に入り、そこでさまざまなお宝を手に入れて戻ってくる――それを売りさばいても、命を失うリスクに比べたら額は少ない」
「そ、それは……」
「税という名目で国へいくらか支払わなくてはいけないからだ。これに文句がない冒険者などそうはいないだろう」
その点に関しては、ブリングも前々から不満に感じていることではあった。ステイトンはその制度の見直しを要求し続けてきたようだが、一向に叶えられる様子がないため、強硬手段に出るというのだ。
それだけ聞くと、かなり無謀な策に思えるが――肝心なのは【深海の太陽】に協力を申し出ている王家の人間であった。
「現国王の体制に不満を持っているのは我々冒険者だけではない。身内からも退くべきだという意見が出ているのだ」
「……あなたを動かしているのもその身内なんですか?」
「そういうことだ。残念ながら、誰からの要請なのか……詳しい話はできん。これについてはうちのパーティーメンバーも知らないから勘弁してくれ」
「は、はあ」
「だが、その方は現国王が退くことになると間違いなく次期国王となる……そうなれば、我々冒険者の地位を高めると約束してくれたのだ」
肝心な部分を濁したものの、背後に王家の人間が絡んでいるという話は本当なのだろうとブリングは判断していた。
そうでもなければ、あの名門パーティー【深海の太陽】が勝ち目もなく現国王へ牙を向けるなんて大それたマネをしないだろう。
ステイトンからの提案は、ブリングが想定していたものとはまるで違うものだった。てっきり、攻略難度の高いダンジョンに対する協力要請だと思っていたブリングにとって、これはあまりにも予想外な展開と言える。
――だが、同時に【星鯨】の名を高めるにはこれ以上ない機会とも捉えていた。
黒幕が何者であるのかは不明だが、そんなことはどうでもよかった。
仮に、【深海の太陽】に協力を要請しておきながら約束を反故にするような事態となれば、さすがに黙ってはいないだろう。
相手側もそのリスクは織り込み済みだろうから、下手なことはしてこないはず。
以上のことから、ブリングたちは【深海の太陽】の提案に乗ることとした。
それを聞き届けたステイトンは、早速ブリングたちに指示を出す。
「依頼主からの要望でね。君たちにはここに向かってもらいたい」
そう言って、目的地が描かれた地図を受け取るブリング。
示されていた場所は――
「カルドア王立魔剣学園?」
元【星鯨】のメンバーであるルーシャスとサラが働いている王立魔剣学園だった。
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