第56話 星鯨の狙い

 ブリングたち【星鯨】がクーデターを企てている。

 にわかには信じがたい話だ。


 そもそも、ブリングはそういった政治的な話を苦手にしている。というか、まったく興味がないのだ。ヤツが関心を持つのは金か女のふたつのみ。誰が国王になり、大臣になろうが、微塵も興味を示さないタイプだった。


 それが、クーデターを起こすなんて……百歩譲って、冒険者にとってかなり不利となる法律が制定されたとかならまだ分かるが、そんな話題は出ていない。


「……情報の信憑性はどれほどなんですか?」

「騎士団の上の方はかなり高いと睨んでいるようだ」

「何か、根拠とかあるんですか?」

「君は【深海の太陽】という冒険者パーティーを知っているか?」

「えっ? え、えぇ、同業者の中では有名ですよ。指折りの名パーティーだと」


 世界でも屈指の実力者が揃う冒険者パーティーだからな。

 ほとんど伝説上の存在って扱いだったのを覚えている。

 何を隠そう、もともとブリングたちはその【深海の太陽】に憧れて冒険者を目指そうとしたんだよなぁ。俺も好きだったけど、個人的には【霧の旅団】の方が好きだ。あっちの方がアットホームな雰囲気があるし。


 ――っと、話がそれてしまった。


「その【深海の太陽】だが……どうも王家の人間と結託して現国王を引きずり降ろそうとしているらしい」

「っ!? ま、またとんでもない情報ですね……」


 王家の人間が国王を蹴落とそうとしているってことか?

 だからさっきクーデターって……でも、それが事実なら、結託しているという王家の人間は王位継承権のある人物に限られてくる。

 つまり……三人いる王子のうちの誰か、か。


 それと、なぜ騎士団が【星鯨】の情報を欲しているのか、理由が読めてきたぞ。


「もしかしてですが……その【深海の太陽】が起こそうとしているクーデターに、【星鯨】が参加している、と?」

「そのようだ」

「な、なんてことを……」


 ブリングめ……血迷ったか?

 今聞いた話が事実とするなら、【星鯨】は体よく利用されて終わり――最悪、クーデターが失敗した際には罪をかぶせられて監獄送りもあり得る。


 ……ただ、あのブリングがそこまで先を見通しているとも思えない。

 恐らく、接触してきた【深海の太陽】からの使者にそそのかされてしまったのだろう。きっと、地底竜討伐の失敗で地に落ちた評判を取り戻そうと躍起になっているに違いない。


 だが、それは悪手だ。

 成功しようが失敗しようが、世間の声はますます厳しくなる。

ただ強さを示せばそれでいいというわけにはいかない。ブリングはどうもその辺の感性が鈍いというかなんというか……口車に乗ってしまってもそれはそれで納得できてしまうな。


 けど、王家まで絡んでくるとなったら、話は変わってくる。


「スミス副学園長……今回の案件については、やはり騎士団へ直接私が話しをします。きっと聞きたいこともあるでしょうし」

「うむ……そうだな。こちらから連絡を取ってみよう。早ければ明日にもこちらへ来てくれるはずだ」

「分かりました」


 俺の提案はすんなりと受け入れられ、後日改めて騎士団の人間の前で話すことになった。


 しかし……なんだか胸騒ぎがする。

 これは勘だけど、今回の王家にかかわる問題――この前のダンジョン襲撃事件と何かかかわりがあるような気がしてならない。


 もしかしたら、学園の生徒たちにも危害が及ぶ事態となるかも……そうならないよう、俺もやれるだけのことはしていこう。




※明日は正午から投稿予定!

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