第55話 迫りくる脅威

 ニコールと入れ違いに管理小屋を訪れたスミス副学園長。 

 唐突な訪問はこれで二度目――前回はリゲルの噂を聞きつけ、編入試験を受けないかと持ちかけた時だったな。


 あの頃に比べたら表情は穏やかなんだけど……なぜかな。持ち込もうとしている話題は当時よりもっとヤバそうな気がしてならない。


 とりあえず話を聞くため、俺はスミス副学園長を管理小屋へと通す。

 コーヒーも用意して早速本題へと移った。


「先日、君が発見した例の銀貨だが……」

「持ち主が特定できたんですか!?」

「いや、それはまだだ」

「そ、そうですか……」


 冒頭の流れから、持ち主が分かったので報告をしに来たとばかり思ったのだが……どうやら俺の早とちりだったらしい。

 気を取り直し、副学園長へ改めてここへ来た目的を尋ねた。


「今日君を訪ねたのは……かつて所属していたという【星鯨】の情報を教えてもらおうと思ってね」

「【星鯨】の?」


 スミス副学園長が冒険者パーティーになんの用があるというのだろう。接点はまったく想像できないが、知り得る限りの情報でよければ喜んで提供するつもりだ。


「【星鯨】の何が知りたいんですか?」

「うむ……実は、今朝早くに騎士団から連絡があってな」

「騎士団から?」


 ますます謎が深まる。

 ただ、その情報から察するに、【星鯨】を気にかけているのはスミス副学園長ではなく騎士団のようだな。副学園長を経由して俺から情報を提供してもらおうってわけか。


「本来であれば、騎士団の関係者が君を訪ねてくるのが筋というものだが……いかんせん、急な話でね」

「構いませんけど……一体何があったんですか?」

「この話をするにはどこから切りだしたらいいか……なかなか厄介な事情が絡んでいてね」

「そのようですね」


 あのスミス副学園長がこれほど話しづらそうにしているくらいだからな。

 しかし、ここまで言われたら気になって仕方がないし、何よりかつて俺が所属していた【星鯨】が関係しているとあったら引き下がれない。


 しばらく待っていると、ようやく副学園長が切りだした。


「騎士団に匿名のタレコミがあったそうだ。それによると……情報提供者は元【星鯨】のメンバーらしい」

「元メンバー……」

「ああ。――だが、騎士団からの情報によると、そのメンバーは【星鯨】の名が落ちるきっかけとなった、例の地底竜討伐の際に加わった新参者らしい」


 ……なるほど。

 あの事件はたくさんの被害者を出したからな。

【星鯨】――もっと言えば、仲間を見捨てたブリングたちを恨む者がいても不思議じゃない。

 でも、妙だな。

 確かにブリングのやったことは決して許されるものではない。けど、それで騎士団が動くのは大げさすぎる気がする。

 毎度というわけではないが、ダンジョンでの仲間の裏切りというのは決して珍しいものではない。それこそ、浅い付き合いしかない急造パーティーで高難度のクエストに挑もうというなら、そういう事態は十分に想定できる。


 となると、騎士団が【星鯨】の情報を求める理由は他にあるのか。

 果たして、情報提供者という新参者は、騎士団に何を吹き込んだんだ?


「それで、提供された情報なんだが……【星鯨】がクーデターを企てているというものだ」

「なっ!?」


 スミス副学園長の口から語られたのはとても信じられない内容だった。

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