第54話 ニコール、覚醒
ニコールの心を縛っていた鎖を断ち切り、彼女はこれまでとまったく違う雰囲気を醸しだしていた。
「にゃあ……鎖を断ち切るという表現はどうにもしっくりこないと思っていたけど、あの顔つきを見たらなんとなく理解できるようになったにゃ」
状況を見守っていたラドルフがそう漏らす。
あいつには鎖が見えていないからなぁ……表現というより、ありのままの出来事を話しているのだが、ここへ来てようやくそれが通じたらしい。
気を取り直して、ニコールへと向き直る。
剣を手にした彼女、は俺の指定した木の前に立ち、構えを維持したまま深呼吸を挟んでゆっくりと目を閉じた。
「……不思議です」
集中しながらも、ニコールは今抱えている気持ちを吐露した。
「さっきまで絶対にできないって思っていたのに……今ではなんだかあっさりやれてしまうような気がします」
「それは君が本来持っている力を十分発揮できる精神状態になっているからだよ」
「そ、そうなんですか……?」
いまひとつ自分の力を信じ切れていないようだな。
まあ、あんな診断をされて間もないしねぇ。
――けど、間違いなく彼女の騎士としての資質は一級品だし、努力を惜しまない性格も相まって、きっととんでもない成長を遂げるはずだ。
「さあ、ド派手にやってくれ」
「で、では!」
閉じていた目をカッと見開き、大きく剣を振り上げて大木へと向かっていく。
「はあああああああっ!」
気合十分の雄叫びが轟き――ニコールの剣は見事大木を一刀両断。俺とラドルフはその成果に対して拍手を送るも、当の本人は未だに信じられないようでジッと手元を見つめていた。
「い、今の力は……」
「それだけの力が君には備わっていたんだ。これまでの努力の賜物だよ」
「か、管理人さん……」
「魔力がなくても、それなら十分戦える。これからは剣術メインで鍛えていけばいいだろう」
「はい!」
初めて出会った時はまるで抜け殻のようにさえ思えたニコールだが、今はその時とまるで違うハツラツとした表情を見せていた。一度は失った目標が、再びハッキリとして見えたことが大きいのだろう。……きっと、これからはアーサー先生が心配するような事態にはならないはずだ。
その後、ニコールは午後からの授業に合流するため管理小屋を去っていった。
「よかったにゃ……」
「本当に」
どことなく弾んで見える彼女の足取りを目で追う俺とラドルフ。
すると、
「そろそろよろしいかな」
突然、背後から声が聞こえ、慌てて振り返る。
そこにいたのは意外な人物だった。
「ス、スミス副学園長!?」
「今回もまたひとりの生徒に新しい道を示してくれたようだね」
相変わらず厳つい顔をしながら握手を求められ、俺はそれに応じる。
……なんだろう。
めちゃくちゃ嫌な予感がするんだが?
※明日は正午&17:00と2話投稿の合計4話投稿予定!
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