第46話 魔力のない少女

 サボっていた女子生徒の名前はニコールというらしい。

 一般試験をパスして入学してきた彼女は、最初に行われる適性検査で魔力なしと診断された――が、それを知るのはまだごく一部の職員だけらしい。


「まだ公表はしてないんですか?」

「近いうちにとは思っていたんですけど……例の事件で完全にそのタイミングを失ってしまって」

「あぁ……」


 それもそうか。

 ただでさえ、この学園は今厄介な状況下にあった。

 正体も目的も分からない敵が、今もどこかに潜んでいる。おかげで生徒だけでなく、職員たちもピリピリしているのだ。

 本来なら、魔力なしの一年生という大問題に学園をあげて対処をしていく必要があるのだろうが、とてもそちらへ避けるほど人員がいなかった。


 解決さえすれば、ニコールの件に取り組める……こうなったら、一刻も早く真相を突きとめなくちゃ。


「とりあえず、目を覚ますまではうちで預かりますよ」

「えっ? ですが……」

「今日の一年生は魔力の基礎鍛錬――この子は出られませんよね?」

「そ、それは……そうです」


 アーサー先生も気づいてはいたはずだ。

 魔力鍛錬の実習にニコールが顔を出しても、やれることは何もない。だって、鍛錬するべき魔力がないのだから。


 そう思うと、彼女が言っていた「大丈夫」という言葉の意味が変わってくる。

 お気楽に見えて、彼女には彼女の苦悩があったのだ。


「ご、ご迷惑では……」

「俺もこの学園の関係者です。育成スキルがあれば、ニコールのためにしてやれることがあるかもしれませんし」

「あ、ありがとうございます、ルーシャス殿」


 アーサー先生は深々と頭を下げて、管理小屋を出ていった。

 

「そんな安請け合いして大丈夫にゃ?」


 俺たちの話を黙って聞いていたラドルフが、ゆっくりと歩み寄る。


「あの子の体質は常人と大きく異なるにゃ。死霊魔術師としての才能が豊かなアデレートとは次元の違う厄介さにゃ」

「それはそうかもしれないが……必ず彼女が自分の力を生かせる道があるはずなんだ」


 人にはそれぞれ向き不向きがある。

 この学園で、二コーラがもっとも輝ける道――それを見つけるのが、育成スキルを持つ俺の役割だと思う。


 ……とはいえ、魔力のない子に適したジャンルって何かあるかな。真っ先に思い浮かんだのは騎士か。かつて訪れたことのある某国の騎士団には、女性の騎士も何人かいた。

 そういえば、あの国の騎士団は男性との力の差を埋めるために魔法を習得しなければならないって決まりがあったな。


 まあ、腕力の差を魔法でカバーしようという試みなのだろうけど、魔力がないニコールには通じないか。実際、この国の騎士団に女性騎士がいるかどうかも分からないし、なんだったら採用しているかも不明だ。


「なんとかならないものか……」

「それならこの子から直接聞けばいいにゃ」

「えっ?」


 ラドルフの言葉に思わず反応する。


「その子は自分に魔法を扱う才能がないと分かっているはず……なら、その先の道は自分自身で考えるべきにゃ」

「…………」

「なんにゃ?」

「いや、出会ってから初めてラドルフがまともなことを言ったなって」

「失礼極まりないにゃ!?」


 激高するラドルフだが、こればっかりは真実だからなぁ――なんて、騒いでいたら、


「うぅん……あれ? ここどこ?」


 ニコールが目覚めたようだ。

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