第47話 ニコールの望む道

 目を覚ましたニコールは、半開きの目で辺りを見回す。

 そういえば、ここへ運ばれたと知らなかったんだよな。


「ここは寮の管理小屋だよ」

「あっ、さっきの……管理人さんだっけ?」

「そうだ。気分はどうだ?」

「うぅんと……ちょっと頭がクラッてするかも?」

「それはただ寝すぎなだけにゃ」


 呆れたようにラドルフが言うと、ニコールは「そうかもね」と苦笑いを浮かべる。……猫が喋っているという点は疑問に思わないのか?

 或いは、学園長の使い魔の存在を知っているのか?


 ……まあ、今そんなことはどうでもいい。


「話はアーサー先生から聞いているよ」

「っ! あぁ……あたしの魔力について?」

「まあね」


 ほんの一瞬だけだが、明らかに困ったような表情を浮かべていた。表面上は気にしていない素振りを見せていても、やはり心の中ではかなり重く受け止めているようだ。


 ……無理もない。


 彼女がどういう思いでこの学園に入ったのかは知らないが、とにかく並大抵の覚悟ではなかったはず。でなければ、一般枠から試験を突破するなんてできないだろうからな。


 しかし、それだけの希望を抱いて入学した矢先、突きつけられたのはとても信じられない現実であった。

 その時の彼女は、一体何を思ったのだろうか。

 きっと、俺には想像もつかない絶望だったに違いない。


「聞いたのなら、もう隠す必要もないよね。――あたしには生まれつき魔力がないみたい」

「……そのようだな」

「だからさ、近いうちに学園を去ろうと思っているんだよね」

「が、学園を去る?」


 それってつまり……自主退学をするってことか。


「だってさ、いたって仕方ないじゃん。魔力がないのなら魔法使いにはなれないし、騎士になろうと思っても、あたしには剣術のセンスもないみたいだし」

「し、しかし――」

「もう決めたんだ」


 そう告げたニコールの表情は冴えない。

 もう覚悟は決めているというような発言をしてきながらも、心の中ではやはりまだ悔いが残っているようだ。


 魔力の有無……こればかりは、努力のしようがない。

 仮に、魔力量が人一倍少ないという悩みなら克服はできる。実際、俺が育成係をしていた時もそういう悩みを抱えている者はいた。彼女には育成スキルの力を使いながら、魔力量を少しずつ上げていく鍛錬を続けていき、二年ほどでひと通りの属性魔法を扱えるようになった。

 

 だが、魔力がないとなると話は別だ。

 そもそも増やすべき根源がゼロの状態ではどうしようもない。


「じゃあ、そろそろいくね。お仕事の邪魔をしてごめんなさい」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

 帰ろうとするニコールを思わず止める。

 止めたところで、俺は彼女にどうしてやることもできないというのに――いや、待てよ。


「ひとつだけ、確認をしておきたい」

「何?」

「もし……もし、魔力がなくても学園に残れる理由があるとするなら――どうする?」

「えっ?」


 彼女からすれば、想像もしていなかった言葉だろう。

 けど、俺は至って大真面目だ。


 返答次第では――彼女を学園に残す手立てを教える。




※明日はお昼の12時より投稿!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る