第45話 特異体質

 学生寮の近くにある茂みの中でサボっていた一年生の女子生徒。

 おまけに俺との会話中に熟睡を始めるという……なんとも言えない態度を披露した。


 とりあえず、彼女を管理小屋にあるソファに寝かしつけたのだが……ふと、女子生徒自身が言っていた言葉が思い浮かぶ。


『大丈夫だって。あたしは落ちこぼれだから』


 落ちこぼれ、か。

 あの時の彼女はまるでそれが大した問題ではないって感じに語っていたが……その割には寝顔がどこか苦しそうだ。葛藤しているというか、迷っているというか。いずれにせよ、健全な状態でないのは間違いない。


 ……だが、なぜ彼女は自分を落ちこぼれと語るのか。勉強ができないとか魔法や剣術がうまくならないとか、理由はいくらでも浮かんでくるが、それを判断するのは早計ではないだろうか。

 何せ、入学してからまだ一ヶ月ちょっとした経過していないのだ。

 才能のあるなしに目をつぶるとしても、本人の努力次第でこれからいくらでも上に行けるというのに。


 それとも……他に何か、根本的な理由でもあるのだろうか。

 こんな時は――


「本人の許可を得ずにやるのは気が引けるが……今回は非常事態につき、勘弁してもらおう」


 俺はスキルを発動させ、名も知らぬ一年生の能力をチェックする――と、信じがたい事実が浮かび上がった。


「な、なんだ、これは……」


 驚きのあまり、俺は目を疑った。

 あり得ない。

 それが率直な感想だった。


「魔力を一切持たない……だと?」


 彼女には魔力がなかった。

 ……噂では聞いたことがある。生まれつき、魔力がない特異体質――生まれてくる確率は数万分の一とも言われており、実在するかどうかは眉唾物だった。俺自身、本物を目にするのはこれが初めてだ。


 となると、彼女があのような態度を取るのも理解できる――が、それが正しい行いであるかは別問題だ。

 魔力を持たない生徒への対応……この場合、学園側はどうするんだろうな。ただでさえ、今は何かとややこしい状況だというのに。


「ある意味、アデレートより難しいな……」


 あの子は死霊魔術師として高い才能を持っていた。実際、男性恐怖症を克服してからは圧倒的な力でモンスターをねじ伏せたからな。


 ただ……彼女の場合はそれ以前の問題だ。

 魔力がないなんて、学園としても前代未聞だろうし。


 どうしたものかと思っていたら、何やら小屋の外に人の気配を感じる。

 ラドルフが誰かを連れてきたのだろうと思い、出てみると――相当焦っていたのか、肩で息をしながらたたずむひとりの男性の姿が。

 俺は彼に見覚えがあった。


「あなたは……確か一年生の……」

「副担任をしているアーサーです」


 そうだ。

 一年副担任のアーサー先生だ。


「うちの生徒がお手数をおかけして、申し訳ありません」

「いえいえ、とんでもない」


 確か、彼はまだここで働き始めて二年ちょっとの新任だったな。

 それでいきなり彼女のような特異体質を受け持つとは……副担任とはいえ、なかなか大変そうだな。

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