第44話 名門学園の落ちこぼれ
学園が保有する演習用ダンジョンで起きた謎のモンスター襲撃事件。
今日も関係者がダンジョン周辺を調査しているらしいが、恐らくあそこからこれ以上の新情報は見つけづらいんじゃないかな。
朝の掃除を終わらせると、続いて花壇の手入れを開始。
ここまではいつものルーティーン通り。
ちょっと休憩を入れつつ、昼食の準備をしようかと思った時だった。
「うん?」
「どうかしたにゃ?」
「いや……さっき、あそこの茂みが動いたような」
女子寮近くにある茂み。
風もないのに、その一部が不自然に動いた気がしたのだ。
「にゃあ……生徒たちは授業に出ているし、職員が通った形跡もない――もしかしたら、例の事件の関係者が隠れているかもしれないにゃ」
「そんなまさか」
「分からないにゃ! そういう些細な見落としが、後々の大事件に発展する可能性も十分あり得るにゃ! さっさと見てくるにゃ!」
「はいはい」
渋々といった感じで確認しに行くが、ラドルフの言うことも一理ある。こういう思い込みというか、「きっとうそうだろう」っていう油断が時に大きく結果を左右する要因となり得る。
茂みの方へ静かに近づき、そっと周辺をチェックしていくと、
「あっ」
「えっ? き、君は?」
ひとりの女子生徒が地面に寝転がっていた。
陽光を浴びて煌めく銀色の髪をポニーテールにまとめており、ちょっと垂れ気味の目元が印象的な女の子だ。
――って、おかしいだろ。
生徒はみんな授業に出ているはず。最初は部外者なのかと警戒したが、彼女が身にまとっている服は紛れもなく王立学園の制服だ。リボンの色から、今年入ったばかりの一年生みたいだな。
「こ、こんなところで何をしているんだ?」
「……休憩?」
なんで疑問形?
……引っかかるのはそこじゃないだろ、俺。
「今はまだ授業中のはずだろ?」
「そうなんだけどねぇ……あまりにもいい天気だからさ。ちょっとだけ抜けだしてのんびりしようかなって」
「の、のんびりって……」
それってつまりサボり?
「お、おいおい、体調に問題がないなら戻って授業に出ないと」
「大丈夫だって。あたしは落ちこぼれだから」
「落ちこぼれ? 君は一年生だろ? そんなのまだ――」
「すぅ」
「このタイミングで寝た!?」
演技でもなんでもなく、普通に熟睡している。何とか起こそうと声をかけたり揺らしたりするのだが、反応なし。
……あまりにも堂々としたサボりっぷりに何も言い返せなかったな。せめて名前だけでも聞きだしておけばよかったよ。
「にゃ? なんでこんな時間にこんな場所で女子が寝ているにゃ?」
唖然と立ち尽くす俺の足元に、ラドルフの姿が。危険がないと判断して近づいてきたみたいだな。
「しかも一年生にゃ……入学して早々にこの態度は大物と見るべきか、それとも前代未聞の愚か者と見るべきか迷うにゃ」
「そんな暢気な……とりあえず、放置もしておけないし、管理小屋へ運ぶとするか」
俺は眠っている一年生をそっと抱き上げた。
「ラドルフ、悪いけど一年生を担当する先生を誰か呼んできてくれないか?」
「分かったにゃ」
一年生はまだ授業中だから、教師が捜しているかもしれない。
……それにしても、気になるな。
自分を落ちこぼれと語る一年生、か。
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