第37話 一件落着

 二体の巨大モグラ型モンスターは、アデレートの連れている従霊たちにぶん殴られて倒された。

 ……およそ死霊魔術師の戦いぶりとは思えない記録だが、現実に起きたことなので仕方がない。というか、従霊の戦い方は生前の得意分野が反映されているのだろうし、あれだけのマッチョマンたちなら打撃戦になるのは必須か。鮮やかに魔法を扱われてもそれはそれでなんか嫌だし。


 ともかく、最大の脅威は去った。

 ここでようやく安堵のため息が漏れる。


「ふぅ……一時はどうなることかと思ったが、窮地は脱したみたいだな」


 脱力し、その場へと座り込んでいた俺のもとへ、戦いを終えたアデレートがやってくる。


「あの……管理人さん」

「うん?」

「ありがとうございました」


 アデレートはそう言って深々と頭を下げた。

 

「お礼なんかいらないさ。さっきの戦いぶりは間違いなく君自身の力がもたらしたもの……俺はそれが十分に発揮できるよう、ちょっとだけ力添えをしただけだよ」

「で、でも、管理人さんがそうしてくれなければ……私は一生何も変わることのない日々を送るところでした」

「ははは、大袈裟だよ」


 俺はあくまでもきっかけを与えたに過ぎない。

 そこからしっかりと立ち直り、従霊たちとともに見事な戦いぶりを披露してくれたのは紛れもなく彼女自身の力によるものなのだ。

 こちらの貢献度なんて微々たるもの――それが俺の認識だった。



 ちょうどモンスターが息を引き取ったくらいのタイミングでサラが合流。


「えっ!? 何!? 何があったの!?」


 現場に到着したと同時に大パニック。

 無理もないか。

 何せ、一体と思われていた巨大モグラ型モンスターは実は二体いて、おまけに二体ともすでに絶命しているのだから。


「な、何が起きたらこんな状況になるのよ、ルーシャス」

「話せば長くなるけど……とりあえず、今日一番活躍したのは間違いなく彼女だ」

「ア、アデレートが?」


 さらに驚くべき事実を告げられたサラは今にも倒れそうなくらい狼狽していた。

 

 ともかく、全員無事に帰ることができて万事解決――とはならないだろう。

 「なぜ学園が管理するダンジョンに出現しないはずのモンスターが出現したのか」という最大の疑問が未解決のままだ。

 ただ、あのモグラ型モンスターは地中を移動可能なので、結界魔法の盲点を突いているとも言える。……しかし、そう都合のいいタイミングで俺たちの前に現れるだろうか。それも二体同時に。


 最悪の事態こそ回避できたものの、解決しなくてはならない課題が残った。

 それから……あとひとつ。


「アデレート」

「何ですか?」

「君は男性に対する恐怖心があったようだけど……育成スキルを使う前は俺と普通に会話ができていたよな?」

「あぁ……それは私も疑問でした」

「へっ?」


 それはつまり……自分でも理由がわからないということか。


「でも、これだけは言えるんですよ」

「なんだ?」

「管理人さんは他の男性に比べると……なんだか安心できたんです」

「そ、そうか」


 まあ、年齢は十歳以上離れているわけだし、周りの男子に比べて落ち着いていると捉えてくれたのかな。

 とにかく、彼女がフィナと同様にひとつ殻を破って成長できたことは喜ばしい。

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