第36話 鎖を断ち切って
優れた才能を持ちつつも、男性恐怖症が邪魔をして存分に暴れることが叶わなかったアデレート。
しかし、今その鎖を断ち切る――俺の育成スキルで。
「アデレート……君は何もしなくていい。静かに目を閉じていればじきに終わる」
「は、はい」
すぐ近くでは、リゲルとレオンが二体のモグラ型モンスターと交戦中。一刻も早く加勢に向かいたいところではあるが、戦闘力のない俺ではただ足を引っ張るだけだ。
この状況を打破できる可能性があるのは――アデレートだけ。
うまくいってくれと願いながら、育成スキルで強化した俺の魔力を彼女へと注ぎ込む――すると、「バキン!」という音とともに、彼女の全身を縛りつけていた鎖が弾け飛んだ。
次の瞬間、アデレートは目をカッと見開き、自身の両手をジッと見つめる。
「あ、あれ? どうしちゃったの、私……なんだか、心も体も凄く軽くなった気が……」
「実際に軽くなったんだよ。君を縛りつけていた鎖はもうない。――さあ、派手に暴れてくるんだ」
俺が肩をポンと叩きながらそう告げると、アデレートはニコッと微笑んでから「はい!」と元気よく返事をして駆けだした。
「行くよ! みんな!」
ついさっきまでオドオドしていたのに、同一人物とは思えないくらい快活で生き生きとした声をしていた。そんな彼女の声に導かれるようにして、一度は消滅してしまった従霊たちが再び姿を現す。
……いや、さっきよりもだいぶ多いな!?
あのマッチョな従霊も一体だけだったのに、今は五体も同時に使役している。
「お、おい、あの子……さっきまでと性格が違わないか?」
「去年も同じクラスだったが……あんなにテンションの高い彼女を見るのは初めてだ……」
その変貌ぶりに、リゲルもレオンも茫然としている。
まあ、そうさせた俺自身もここまで変わるのかって正直驚いていた。
これまで見てきた者たちの中には、過去の出来事などからアデレートのように心の鎖で意識せず自分の力を抑え込んでいる者がいた。
そんな彼らの鎖も壊してきたが……大体、壊す前と性格までもがガラッと変わるケースは今までにあまり経験がない。あったとしても、彼女ほど劇的な変化はないと断言できる。
……よっぽど溜め込んでいたんだろうなぁ。
「リゲルくん! レオンくん! そんなところでボーッとしていると敵の的になるわよ!」
「お、おう」
「あ、あぁ」
未だ困惑状態の男子ふたりを置き去りにして、アデレート(厳密には彼女の連れている従霊たち)は単独で二体のモグラ型モンスターへと挑んでいく。
従霊たちが飛びかかっても、モグラ型モンスターたちは無反応。どうやら、あのモンスターには従霊たちの姿が見えないらしい。
まず、ふたりのマッチョな従霊が無防備なモンスター二体へ強烈な右ストレートを食らわせる。攻撃が来ることを予見できていなかった二体のモンスターはド派手に吹っ飛び、岩壁へと体を叩きつけた。
「「なあっ!?」」
モンスターは当然ながら、突然の事態にリゲルとレオンも大口を開けて驚愕――だが、レオンの方はアデレートが死霊魔術師というのを知っているため、すぐに魔力を目に集中させて攻撃の正体を把握する。
「こ、これだけの従霊が動いていたのか……」
真実を知ったレオンはさらに驚き、結局動けなくなる。
一方、起き上がった二体のモンスターは反撃に移ろうとするが、その両手足は小さな従霊たちが押さえつけており、自由を奪っていた。まともに動けないモンスターへ、マッチョな従霊たちの拳が雨のように降り注ぐ。
ボッコボコ。
そんな表現がまさにピッタリと当てはまるくらい一方的な展開だった。
しかし……死霊魔術師という割には、やっていることが随分と物理的というかなんというか……呪術とかそういう類は一切なく、マッチョな従霊の強烈な拳による打撃攻撃がメインとなっていた。
しばらくして――ついに二体のモンスターはピクリとも動かなくなる。
「こんなところね」
満足げに頷くアデレートとドン引きしているリゲルとレオン。
現段階では、ふたりよりもアデレートの方が実力的に少し上かな――けど、
「へっ! なかなかやるじゃねぇか! 俺も負けていられないな!」
「ふん! そのうち必ず追い抜いてやる!」
ふたりの男子は彼女に対して「負けられない」と闘争心を燃やすのだった。
※このあと17:00からも投稿予定!
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