第34話 ダンジョンでの死闘

 生徒たちを危険な目に遭わせたモンスターが、俺の前に姿を現した。

 鋭い爪に、鼻の部分は大きく伸びてまるでノコギリのような細かい刃が並んでいる。

 全身が武器のような巨大モグラ型モンスターだ。


 そいつを見て真っ先に思ったのが――明らかにダンジョン探索未経験の学生たちが挑む相手ではないということ。

 サラの話では、このダンジョンは学生が演習目的で使うために国が管理をしており、出現するモンスターもランクの低いものばかりという話だったが……明らかにこいつは腕のある冒険者が複数人いてようやく相手にできるレベルだ。


 つまり、本来ならこのダンジョンにいてはいけない存在と言える。


「何がどうなっているんだ……」


 いてはならない存在が目の前に立っている。

 こいつが出現した理由も気になるところではあるが、今最優先すべきはアデレートの安否だった。

 あのモンスターの近くにいることは確かなのだが――そう思った直後、突然モンスターが何かに体当たりでもされたかのごとく吹っ飛んだ。


「こ、今度はなんだ!?」


 あれだけの巨体をあそこまで飛ばすってことは、相手も同等のサイズか? ――しかし、俺の視界にはそのような存在を確認できない。


 またしても従霊か?

 確か、従霊の姿を目視するには……魔力を目に集中させるんだったな。

 

 実際にやってみると――驚くべき事実が発覚する。

 青白い半透明のボディを持った従霊――その大きさはゆうに三メートルを越えている。

 霊体でありながら、その筋骨隆々とした肉体……生前はさぞ名のある騎士か冒険者だったのだろうか。

 それにしても、無数の従霊だけでなく、このような大型まで……アデレートという女子生徒は死霊魔術師として底が知れないな。

 もっと言えば、彼女はこれから育成スキルを使用することでさらに伸びる。そうなれば、実力的にはリゲルやレオンさえも超越する存在となるだろう。

 ……だが、もしそうなったらそのふたりも黙ってはいない。

 どちらも真面目で上昇志向が強いタイプだ。

 彼女のようなライバルが現れたとなったらさらにそれを乗り越えようと力を出してくるタイプ――いうなれば理想の相乗効果となる。

 

 育成者としては、非常に関心の高い存在であるが……とりあえず、今はそれに触れるのをやめてモンスター討伐に集中しよう。


「シャアッ!」


 吹っ飛ばされたモグラ型モンスターが復活。

 攻撃を加えられたことに対する怒りからなのか、鼻のドリルがギュインと音を立てて勢いよく回転している。

 怒り狂うモンスターの標的は……当然、アデレート。

 なんとか気をそらして彼女を救いださなければと考えていた――その時、


「助けに来たぜ!」

「おまえは邪魔だから引っ込んでいろ、貧乏冒険者!」

「なんだと!」


 喧嘩をしながらリゲルとレオンが加勢にやってくる。この状況で何をやっているんだと怒るより先に、頼もしい助っ人が来たと内心ホッとしていた。これでアデレートの従霊がサポートをしてくれたら、あのモンスターを倒せるはずだ。


 ――が、そんな俺の思惑はあっさりと裏切られる。


「…………」

「アデレート? どうしたんだ、アデレート!?」


 みるみる顔が青ざめてくアデレート。

 それまで安定していた魔力は大きく乱れ、従霊の数が一体、また一体と減っていってしまった。


「だ、大丈夫か、アデレート!」


 緊急事態発生。

 原因はよく分からないが、アデレートは戦闘不能に陥ってしまった。

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