第33話 落とし穴

 ダンジョン探索も終盤に差し掛かったその時だった。


「あれ?」

 

 ひとりの男子生徒が、何かを発見して足を止める。


「どうかしたの?」

「いえ、その……マップにはなかった道があったので」

「えっ?」


 男子生徒の言葉を受けて、班の全員がそのマップにない謎のルートの前へと集まる。彼の言う通り、ここから先は一本道のはずだが、横へそれる新しい道ができていた。

 だが……妙だな、この道。


「師匠……この道、なんだかおかしいですよ」

「ああ、そうだな」


 ダンジョン探索の経験が豊富なリゲルも、異様な気配を察知したようだ。

 このような事例は決してゼロというわけではない。

 昨日まではなかった道が突然出現し、冒険者を惑わす――この手の話は何度か耳にしたことがあるのだが、大体は不思議な現象でも何でもなく、ある者の存在によって証明された。


 それは――地中を移動する巨大モンスターだ。


 ヤツらが通った道は、このように大きな空洞が現れる。

 人ひとり軽く行き来できるその空間を道と勘違いしてもおかしくはなかった。


 ……って、ちょっと待て。

 仮にこの考察が正しかったとしたら――かなりまずい事態なのでは?

 サラもそれを察知して、すぐに生徒たちをダンジョンの入口まで連れていこうと声をかける――が、間に合わなかった。


 突然、俺たちを大きな横揺れが襲う。

 それが原因で天井の一部が崩れ落ちてしまい、視界は舞い上がる土煙によってほとんどきかなくなってしまった。


「くそっ!」


 迂闊だった。

 もっと早くにあの穴の存在に気づいて対応していれば……と、嘆くのはとりあえず後だ。今はひとりでも多くの学生を安全に外へと連れて行かなくてはならない。

 すると、


「先生!」

「助けて!」


 生徒たちから救出を求める声が。

 命の危険にさらされた今の状況では、そういった行動に出るのは仕方のないことだと思うが――タイミングが悪かった。

 この事態を引き起こした元凶であるモンスターは、まだこの近くにいるはず。そいつが生徒たちの助けを求める声に反応して襲いかかってくる可能性も十分考慮できた。


 とにかく、パニック状態の生徒たちをなんとかして落ち着かせなくては――そう考えていた次の瞬間、信じられない事態が発生する。


「なっ!?」


 その光景を目の当たりにした俺は、思わずその場で硬直。

 なぜなら、天井が崩れ落ちたことにより、辺りに散乱したたくさんの岩がふわふわと浮遊し始めたのだ。


「こ、これは……一体何が起きているんだ?」


 こちらの理解を遥かに超越した謎の現象――が、俺はすぐにそれをやってのけた人物を特定する。


「アデレートか!」

「先生! 早くみんなを!」

「お、おう!」


 土煙によって姿は見えないが、アデレートの声だけはハッキリと聞こえる。彼女が従霊たちに岩をどかすように指示を出したらしい。

 従霊は扱うだけでも魔力を消費する。

 彼女の魔力が尽きる前に、すべての生徒を安全圏まで避難させなくては。

 

 俺は駆けだし、生徒たちを岩のない場所までと運ぶ。やがて、俺のようになんとか無傷で済んだサラ、リゲル、レオンも協力してなんとか全員を避難させ終え、最後にアデレートを捜すために俺は土煙の中を走る。


「アデレート! すでにみんな避難し終えた! あとは君だけだ!」

「はい!」


 こちらの声に応えたアデレート。

 だが、


「むおっ!?」


 土煙の向こうに、巨大なシルエットが現れた。

 どうやら……こいつがすべての元凶らしい。

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