第32話 静かなる大器

 ダンジョンでの初戦闘はリゲルとレオンの活躍で勝利――のはずだが、そんなふたりに匹敵する数のモンスターをアデレートは音も気配もなく倒していた。


 他の学生はもちろん、サラでさえそのことに気づいていない。

 一体どうやってモンスターを倒したのか――純粋にその過程が気になった俺は、直接アデレートから話を聞くことにした。


「これだけのモンスターを倒すなんて凄いじゃないか。どうやったんだ?」

「…………」


 いきなり声をかけたせいか、彼女は困惑している様子だった。

 今まで、こういうふうに話しかけられたことがないのかな?

 しばらく気まずい沈黙が流れていたが、


「あ、あの子たちがやってくれました……」


 振り絞るような声で、アデレートはそう答える――も、あの子たち? 

あの子たちって、一体誰のことだ?

 浮かび上がった疑問だが、それは彼女の持つ死霊魔術師という属性を思い出した瞬間に解消する。


「そうか……従霊か!」


 従霊。

 死霊魔術師による使い魔的なポジション。

 霊魂を使役して攻撃や偵察を行わせるらしいが……彼女はすでにその従霊を使いこなしているようだ。


「凄いな。これだけのモンスターを相手に勝てる従霊がいるのか」

「数ではこちらの方が上でしたし……」

「えっ?」


 数では上って……さっきのコウモリ型モンスターだって相当な数だったぞ。それよりもさらに多いというのか。

 使い魔の数は、主人である魔法使いの力量によって変化する。腕の良い魔法使いほど、上質な使い魔を何体も使役することが可能だ。学園長が俺に送ったラドルフもそのうちの一体なのだろうが……学園上空を旋回する猛禽類型使い魔も学園長の使い魔らしいし、その数は計り知れない。


 アデレートはそんな学園長と肩を並べるほどの使い魔を有している……?

 いや、さすがに学園長ほどではないと思うが……底が知れないな。


 あと、キチンと会話ができた点も喜ばしい。

 むしろこっちの方がプラス材料か?

 ともかく、育成スキルの使用に一歩前進って感じだな。



 その後、ダンジョン探索は順調に進んでいった。

 最初は怯えていた他のメンバーも、徐々に自分たちの魔法や剣術が通用することに自信を持ち、胸を張って戦えるようになる。


 しかし、こうなってくると怖いのが慢心だ。

 自信が出てくると、無意識に手を抜いてしまうのが人間という生き物。もちろん、どれだけ実力があってもまったく油断しない猛者もいる。

 だが、それは稀な存在だ。

 リゲルにも口酸っぱく教えていたのだが、一時は己の力に溺れ、モンスターから予想外の反撃を食らい、負傷したのをきっかけに心を入れ替えた。あれは助かったからよかったものの、最悪の場合、気づいた瞬間に死んでいるなんていうケースもあり得るのだ。


「みんな、気をつけなさい。自信がついてきた時こそ、気を引き締めるのよ」


 そんな彼らの空気を感じ取ったのか、サラがそう注意を促す。この発言で、生徒たちはハッと我に返り、目つきがキッと鋭くなった。

 いいタイミングで絶妙のアドバイス……さすがは元冒険者だな。


 その間、アデレートとも少しずつだが会話が増え、だんだんと彼女のことが分かってきた。

 どうやら、自分の属性を気にして積極的に声をかけられないようだ。

 しかし、死霊魔術師という適性については前向きに捉えているらしく、学園の教師陣が困り果てる中、独学で従霊の扱い方などをマスターしていったらしい。


 ひょっとして……この子はとんでもない大器かもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る