第31話 資質
「こ、こいつは……」
アデレートに秘められた資質――それはいい意味でとんでもないものであった。
まず驚かされたのはその膨大な魔力量だ。
資料によれば、アデレートは今でこそ普通の家庭に生まれているが、もともとは名のある魔法使いの家系らしい。かつては爵位もあったそうだが、現在は没落しているとのことであったが……もしかしたら、その没落にも死霊魔術師という適性が関係しているかもしれない。
属性は遺伝する傾向が強い。
特に、彼女の持つ特異なタイプはその傾向が顕著に表れるという。
だとすると、アデレートの先祖も優秀な死霊魔術師だったのかもしれない。現代では忌み嫌われる不気味な属性でも、今より荒れていた古い時代には前線で華々しい活躍を見せていると聞いたことがあった。
すでに何百年も前の話なので、今やすっかり風化してしまったみたいだが……彼女はその頃に英雄と呼ばれていた先祖の力を色濃く受け継いでいるのかもしれないな。
シモンズ先生とは話をつけてあるので、俺はアドバイザーという立場から各班の生徒たちと一緒にダンジョンを回ることになっている。
アデレートが所属しているのはC班だが……このC班には他にも注意しておきたい生徒がふたりいた。
「「……………」」
今も互いを牽制し合っているかのような気配を漂わせている、リゲルとレオンだ。
あの空気を見る限り、未だに両者の溝は埋まっていないようだ。
しかし、あのレオンという生徒は二年生男子の中でも中心的存在であるため、彼と友好関係を結ぶことは今後の学園生活において何かとプラスになるだろう。
もちろん、今最優先に考えるべきはアデレートの件なのだが、こちら側も可能な限りフォローを入れていきたい。
「次、C班!」
進行役を務めるレオン先生からの合図で、いよいよC班がダンジョンへと足を踏み入れていく。
「こ、ここがダンジョンか……」
「ぶ、不気味ね……」
他の生徒たちは生まれて初めて探索するダンジョンに緊張している様子。
一方、慣れているリゲルは当然だが、レオンも落ち着いている。あとはアデレートだが……彼女は無言のまま、みんなのあとを追う形で最後方につけていた。
それを見て、俺も最後尾から班についていく。
この班は俺以外にもサラが担当として同行しているので、先導役は彼女に任せ、俺はアデレートの死霊魔術師としての現在の力量の把握に努める。
教師陣でさえ、完璧には理解していないというアデレートの実力。
果たして、彼女は現段階でどこまで死霊魔術を使いこなせるのか……育成スキルを適切に使うためにもそこは見極めたかった。
しばらく歩いていると、コウモリ型のモンスターが俺たちを襲撃する。
「きゃあっ!?」
「うわあっ!?」
男女問わず、突然の襲撃に取り乱す生徒たち。
――だが、
「はあっ!」
「ふん!」
レオンとリゲルはここでも冷静だった。
互いに一歩も怯まず、襲い来るコウモリ型モンスターを斬っていく。
「この程度のモンスターに悲鳴をあげているようじゃ、本物のダンジョンだと足手まといになるぞ」
「俺たちは冒険者を目指しているわけじゃない――とはいえ、いくらなんでも怯えすぎだ」
「あ、ああ……」
「ごめんなさい……」
「まあまあ、最初はうまくいかない子がほとんどなんだから、そんなに気にしなくても大丈夫よ」
経験豊富なリゲルと実力が突出しているレオン以外の生徒だと、確かにサラの言う通りなんだろうけど……こうして見ると、サラは本当に先生をやっているんだな。冒険者時代の彼女を知る身としては、なんだか不思議な感覚がするけど、天職なんだと思う。
――って、しまった。
リゲルとレオンの活躍に目を奪われて肝心のアデレートを忘れていた。
とはいえ、戦闘をした素振りはなかったし、特にこれと言って――
「っ!?」
振り返った俺は驚きに絶句する。
アデレートは先ほどと変わらず静かにしているのだが……彼女の周辺には倒されたと思われるコウモリ型モンスターが転がっていた。
一体、いつアデレートはモンスターと戦ったんだ?
まったく気配を感じなかったぞ。
ひょっとして……あの子はとんでもない大器なのかもしれない。
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