第30話 アデレートという女子生徒
ついにダンジョン探索演習の日を迎えた。
早朝から学園を出発し、それほど離れていない位置にあるそこは、山間で小川のせせらぎが聞こえる自然豊かな場所であった。
ピクニック目的でも十分楽しめそうなところではあるが、一部には学園によって建てられたいくつかの家屋が。ここが生徒たちの活動拠点となるらしい。
今回のダンジョン演習にはミアンさんをはじめ、レオンやフィナといった面々ももちろん参加している。もちろん、リゲルの姿もあった。
まあ、リゲルに関しては慣れたものだろうから、特に臆した様子もなくいつも通りに振る舞っているようだが……問題は他の生徒たちだ。
見回してみると、少し怯えた素振りを見せる子がチラホラいるな。
彼らの人生において、ダンジョンに入るなんて事態はこれまでなかっただろう。モンスターが出現し、最悪死亡する可能性もある……怯えない方がおかしいか。
――と、思っていたが、ミアンさんやレオンはリゲル同様に恐怖を感じていないらしく、胸を張って堂々としている。己の力に絶対の自信があり、尚且つ慢心しているというわけでもない。理想的な精神状態と言えた。
一方、フィナも怖がっているようには見えないが……何よりも驚かされたというか、嬉しかったのは彼女が他の女子生徒と楽しそうに会話をしていたという点だ。
かつて、風魔法のみを使用していた際は、結果がともなわなかったということもあってかどこかイライラしているように映った。
それが今では自然に笑えている。
ふと、こっちと目が合った時は笑顔を見せ、手を振ってくれた。性格も明るくなったみたいだし、あの子には俺の育成スキルが合っていたんだろうな。
勇気をもらったところで、今回俺の育成スキルを使用する対象の生徒――アデレートを捜してみる。
すると、彼女はすぐに見つかった。
事前に聞いていた外見的な特徴が一致したというのはもちろんだが……なんというか、周りにいる生徒たちに比べて目立っている。
特別おかしな言動を取っているわけじゃない。
ただ静かに立っている――それでも、目を引いてしまうのだ。
一番はやはりその腰まで伸びた長い白髪だろうか。
まるで初雪を溶かし込んだかのように美しく、サラサラとしている。
髪だけじゃなく、肌も色白で全体的に儚げな印象を受けた。
それにしても……まったく動く気配がない。周りの生徒たちはこれから始まるダンジョン探索を話題にいろいろと話し合っているが、彼女の周囲にはそういった生徒の姿は見えない。こういってはなんだけど……ひょっとして友だちがいないのか?
その時、俺はふとラドルフの言っていた彼女の異名が脳裏に浮かんだ。
『死神』――彼女はそう呼ばれているらしい。
死霊魔術師ってなると、そういう印象を持たれてしまうのは仕方がないのかもしれないが、別に彼女自身に何か害があるとは思えない。シモンズ先生も素行面では問題がないと言っていたし。
ここはひとつ、こちらからコンタクトを取ってみるとするか。
「やあ」
「…………」
軽い感じで声をかけると、彼女がこちらへと視線を向ける。その眼差しはどこか困惑しているようにも映ったが……これは意外な反応だった。もっとこう、露骨に警戒されると思っていたんだけどな。
「緊張しているかい?」
「す、少しだけ……」
これまた意外とすんなり反応してくれた。
うーん……もしかしたら、外見のクールなイメージとはちょっと違うタイプの子なのかもしれないな。
俺はアデレートを「心配ないよ」と励ますと、育成スキルを使い、彼女の持つ死霊魔術師の資質について調べることにした。
育成スキルといっても、ただ対象者を強くするだけじゃない。適切に力を見分け、その人に合った育成プランを構築するのも、このスキルを持った者の務めだ。
ブリングたちやリゲルの時もそうだった。
まずは相手がどのような適性を持ち、どうやってその力を伸ばしていくか――もとをたどれば、まずはそれらすべての基礎情報を手に入れるところから始まる。
――で、アデレートの分析結果だが……驚く事実が発覚する。
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